第22話 蜥蜴狩り
この半年間で新たに取得したスキルは、200ポイントで剣術Lv2。
前提でLv1のスキルが必須の、剣を扱う際に技術的な補助の働くスキルだ。
レベル1を覚えた時にはさほど差は感じなかったけど、2を習得した瞬間、自分の剣筋が変わったのがハッキリと分かる程の変化を体感出来た。
流石200ポイントもかかるスキルだけあって、その効果は抜群だ。
更に200ポイントのスキルはもう一つ取っており、オーラと言うスキルを習得している。
これは全身にオーラを纏い、短時間だけ身体能力を大幅に上げてくれる効果を持つスキルだ。
効果時間は30秒と少々短いが、その効果はかなり強力な物となっている。
その次が100ポイントのスキル、残影斬。
残像が残る程の突進から、強烈な斬撃を喰らわすスキルだ。
ポイントは、離れた相手に超高速で近づいて切りつける所だね。
敵の集団に残影斬で近づいて、炎舞輪で一気にダメージを与える。
的な、カッコいい使い方が出来る今の僕のフェイバリットコンボだ。
これで敵を一掃出来た日には、脳汁ドバドバ物である。
『ぴろりん、ぴろりん』待ったなしだね。
まあ実際はそれでイキリポイントが入る訳じゃないけど、僕的イキリポイントは果てしんなく高い。
で、それ以外は――1ポイントの鳴き声スキルを100個程習得してる。
え?
何でそんなゴミ大量に覚えてんだ?
いやまあ、これには事情がある。
誓っても、動物や魔物の鳴きまねをしたかった訳じゃないぞ。
これはエリクシルが気づいた事なんだけど、どうやらチートでスキルを覚えると、能力が底上げされる仕様の様なのだ。
そして取得ポイントに限らず、その上昇は一律同じらしい。
これで理由は分かって貰えたと思う。
ま、要は能力向上目的でやっすいスキルを大量に取っているという訳さ。
え?
お前は気づかなかったのか?
うん、気づかなかった。
まあでも仕方がないよね。
上昇ってのは微々たるもので、しかも一律加算な訳だし。
例えば100の能力で10上がるのと、1000の能力で10があるのじゃ、比率的に大きな差が出て来る。
前者は10%上昇するのに対して、後者はたったの1%だ。
1%上がったくらいじゃなかなか気づけないけど、流石に10%も違えば普通は気づくよね?
つまりはそう言う事。
僕はこれでも、王国の守護者と言われるガゼムス家の血を引いている。
牢獄の中でも、不自由ながら訓練はしてた。
それに対して、エリクシルは森で暮らすハイエルフとはいえ、大事にされて来たお嬢さんだ。
僕と彼女の間には、当然大きな力の差があった。
まあ流石に10倍も差はないだろうけど、まあそう言う事である。
因みにエリクシルには、剣術のLv1と2――彼女にはレイピアの様な、細身の剣を使って貰っている。エルフと言えば、レイピアってイメージがあるしね。
オーラ。
氷舞輪――炎舞輪の氷版。
紫電一閃。
この5つを自衛用に習得してもらっている。
それ以外は、鳴き声スキルと低レベルの魔法だね。
鳴き声はもちろん能力の底上げのためだ。
「発見」
火蜥蜴の生息地は、山の中腹にある広い岩場だ。
空間把握で獲物を発見した僕は、反応のある場所へと向かう。
「堂々としたもんだ」
デコボコとした岩場のへこみに身を隠す様な真似はせず、火蜥蜴は大物らしく、岩の上で真っ赤な体を堂々と晒して日光浴をしている。
まあ体長5メートルもある魔物じゃ、早々天敵なんていないだろうからね。
「さて、じゃあ見栄を切るとしようか」
倒すだけなら不意打ちした方が楽だ。
だが、魔物相手のイキリはポイントの入りがいい。
IPは稼げる所で稼がないとね。
「我が名はキョウヤ・イスルギ!!」
「キシャアアア!」
僕は高めの岩場に飛び乗って相手の前に姿を晒し、剣の切っ先を火蜥蜴に向けて名乗りを上げる。
目を細めて気持ちよさそうにしていた奴は、そんな僕に大音量の威嚇の雄叫びで答えた。
「ふ、怯えて逃げるのなら見逃してやろうと思っていたが……どうやら貴様は死へのロードを選んだようだな」
まあ狩る為に生息地にまで来ているので、実際は逃がす気なんかないけど……
些細な事である。
嘘も方便って言うしね。
「ならばその願い……叶えてやろう!30秒で終わらせる!!」
『ピロリン』というIP取得音を合図に僕はオーラを発動し、足元の輪場を蹴って火蜥蜴に飛び掛かかった。
短期決戦で終わらせる。
何故なら、その方がカッコいいから!
「ふっ!」
「ギュアアアァァァ!」
僕の一撃が、火蜥蜴の肩を大きく切り裂いた。
かなり固い魔物らしいが、今の僕なら岩すら容易く切り裂けるのだから、これぐらいは朝飯前である。
「ふ……どこを狙っている」
火蜥蜴が口から火を噴き、反撃して来る。
僕は大きく跳躍し、相手の頭上を飛得る形で尻尾の上に着地。
と同時に、剣をその付け根辺りに突き刺した。
「ギシャアアァァ」
火蜥蜴が痛みか、それとも尻尾に着地した僕を振り落とすためか、全身をくねらせ激しく暴れだした。
僕は素早く剣を抜き、跳躍する。
今度の狙いは首だ。
頭部に着地すると同時に、僕は奴の首元に深々と剣を突き刺した。
これでフィニッシュ。
火蜥蜴の体が一瞬大きく痙攣し、そして動きを止める。
「どうやら、30秒もいらなかった様だな」
頭部から降りて、僕は剣についた血を振るって飛ばす。
うん、我ながらカッコイイ。
「流石イスルギさん。私が手伝う事、全くありませんね」
「ふ、気にしなくていい。俺が凄すぎるだけだからな」
『ピロリン』と音が鳴る。
本当の事を言っただけでイキリ扱いになるのだから、困ったものだ。
……ま、実際は格好つけてたけど。
「さて」
「あれ?解体されないんですか?」
僕が火蜥蜴を丸ごとインベントリに入れると、エリクシルがそう聞いて来る。
まあ依頼内容は目玉と舌なので、それ以外は不要だからな。
「ああ、思ったよりデカかったからな。解体せずに、こいつの尻尾を持って街中を闊歩しようかと。そうすれば、イキリポイントがガッポガッポだ」
これは相当目立つ。
誰かの目に留まる度に、きっとガンガンIPが溜まりまくる筈だ。
「そんな大きな魔物の死体を引き摺ったりしたら、皆怖がってしまいませんか?小さな子供は絶対泣いちゃうと思いますし、血の跡とかで周りに迷惑がかかってしまいますよ?」
「むう……」
確かに、言われてみればその通りだ。
デカい魔物が街中を引きずられていくシーンになんて出くわしたら、最悪子供達のトラウマになりかねない。
それにお年寄りが見たら、驚いてそのままぽっくりとかも考えられる。
「止めとくか」
「その方がいいと思います」
僕は軽く肩を竦め、インベントリから死体を取り出して目玉と舌の剥ぎ取りを始める。
しかしアレだな。
付き合いが長くなってきたせいか、ここ最近、エリクシルに上手くコントロールされる事が多くなってる気がする。
ま、それだけ親しくなれたと考えよう。
イキリ転生~空気陰キャだったけど、これからは憧れの厨二イキリキャラで行きます~ まんじ @11922960
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