第20話 試す

翌日、俺は村長に依頼の完了を告げて報酬を受け取りさっさと村を出た。


報告した際に、感謝する様子に不自然な部分は無かったので――エリクシルも悪意を感じないと言っていた――孫のふざけた行動は、彼のあずかり知らない物だったのだろう。


とは言え、孫がいなくなった事にはいずれ彼も気づくだろう。

そして必ず関連付ける筈だ。

僕と。


何せ村に魔術師が来たその日から、いきなり姿を消す訳だからね。

証拠がないとはいえ、疑うなと言う方が土台無理な話である。


だからさっさと村を出たという訳だ。


「名前や姿は……まあそのままでいいか」


余計な詮索を避けるのなら、幻変身の魔法で姿を変え、名前も変更した方が無難だろう。

だが所詮、小さな村での行方不明事件だ。

さしたる証拠がない以上、僕達が大々的に指名手配される様な事はないだろう。


そう僕は判断する。

決して、キョウヤ・イスルギと言う名が気に入っていて捨てたくないという訳ではない。


「すいません、私の為に……」


街道を外れて歩いていると、エリクシルが僕に謝って来た。

どうやら早々に村を出る事になったが、自分のせいだと思ってしまっている様だ。


「ははは。これがエリーのせいだってんなら、悪い事は全部君のせいって事になる。今回は運が悪かっただけだから、気にするな」


落ち込むエリクシルに、僕は笑ってそう言う。

そもそも被害者で有る彼女が、気に病む必要などないのだ。


ただふと思う。

G・イキリクエストは【薄幸なハイエルフの少女を守り抜け】だ。


薄幸。

即ち、運が悪いという事を指す。


ひょっとしたら、エリクシルはそういう星の元に生まれて来たのかもしれない。

だからこそ、クエストになった可能性が高いと言える。


……そう思うと、凄く不憫だ。


けどまあ、僕が守ってあげればいいだけなのでそこまで気にする必要はないか。


「ありがとう……ございます」


エリクシルの表情は暗い。

彼女も薄々気づいているのだろう。

自分が不幸体質だという事に。


取り敢えずこれからは、エリクシルからは離れない様にしないとな。

どんな不幸が来ようとも、僕がさりげなくクールに振り払ってあげればいい。

そうすれば、彼女もその内気にしなくなるだろう。


でも……本当にそれでいいのだろうか?


僕はエリクシルを守る事を、苦には思わない。

けど、彼女はどうだろうか?


ずっと僕が側にまとわりつき続け、自由に一人で行動する事も出来なくなる。

それはエリクシルにとって、大きな負担になるんじゃなかろうか?


そう考えると、ただ僕が守るだけじゃダメだ。


エリクシル自身が強くなって、自分だけで生きていける様にする。

きっとそれこそが、本当の意味で彼女を守る事だと思う。


――エリクシルを強くする。


真っ先に思いつくのは、精霊魔法だ。

エルフ特有の魔法で、俺が使える様になるかで全然違ってくるはず。


だけど、多分それだけじゃ足りない。


魔法には詠唱が必要不可欠だ。

それはたぶん、精霊魔法でも同じだろう。


村長の孫が言った言葉――「この距離で俺に勝てるとでも思ってんのかよ」。

あれは正に、魔法の欠点を指摘する言葉だ。

事前に準備が出来るのならともかく、突発的な奇襲なんかには、詠唱と言う事前準備の必要となる魔法は弱い。


やはり緊急時に物を言うのは、体術等の接近戦だ。

僕も体を鍛える必要があるから――更なるイキリの為に――どこか落ち着ける場所を見つけたら一緒に訓練する様誘ってみよう。


そう言えば……スキルブックって、僕にしか使えないのかな?

ふと、そんな考えが頭に浮かぶ。


システムで交換したスキルブックは僕にしか見えないし、触れる事も出来ない。

当然、使う事もだ。

だから扱えるのは僕だけである。


けど、使用対象はどうだろうか?


其の辺りは特に言及されてない。


「ふむ……エリー、ちょっといいか?」


「はい。なんでしょうか?」


「この前、俺には神から貰った天恵チート――交換ポイントがあるって話はしたよな」


「確か、色んなスキルと交換できるという能力ですよね」


「ああ。それなんだが、ちょっと君で試してもいいか?」


「私で試す……ですか?」


「ひょっとしたら、他人にも覚えさせられるんじゃないかと思ってね。ちょっと試したいんだ。だから付き合ってくれないか?」


「私の為ですよね。すいません……足手纏いで」


試したいから付き合ってとは言ったけど、まあ気づくよね。

彼女を強化する為だって事に。


「まあエリーが強くなれば、仕事を受ける際にも色々と便利になる。一人より二人だ。だから気にするな。もしそれでも申し訳ないと思うんだったら、強くなってその分頑張って働いてくれればいい」


「……そう、ですね。私、本当にイスルギさんに迷惑かけてばっかりだから……だから、強くして貰ってもいいですか?その分、私頑張りますから」


俯いていたエリクシルが顔を上げ、僕を見つめる。

その瞳は真っすぐで、落ち込んでいたさっきまでとの心境の変化が、ハッキリと見て取れた。

それは前向きに何かを変えようとしている感じの、力強さだと思う。


「期待してる」


僕は交換システムを起動させ、まず危機察知Lv1を交換する。


自己防衛で一番重要なのは、事前に察知する事だと僕は思う。

この世の中、不意打ち以上に危険な攻撃はないからね。


そしてこの危機察知というスキルは、そのリスクを最小限に抑えてくれるのだ。

薄幸なエリクシルが自分の身を守るには、必須に近いスキルと言えるだろう。


「じゃ、使うよ」


「はい。お願いします」


僕はスキルブックをエリクシルに触れさせ、そして発動させる。

このスキルは既に習得しているので、誤って僕が覚えてしまう心配はないだろう。


スキルブックが青く光り、そしてその光がエリクシルの中に吸い込まれていく。

どうやら上手く行きそうだ。


「――っ!?これは……」


エリクシルが驚いた様に、目を見張る。


「凄いです!何故だかわかりませんけど、私がスキルを覚えたのが分かります!」


スキル習得は、感覚で把握できる。

それは僕だけでなく、他人に施した場合も同じ様だ。


「上手く行ったみたいで良かった」


もし使えなかったら、地道な努力を積み重ねる必要があったからね。

まあもちろん、訓練の方も頑張って貰う必要はあるけども。


「凄く不思議な、何とも言えない様な感じです」


「ま、神様から貰った力だからな」


いきなりスキルを覚えるとか、普通ならあり得ない感覚だろう。

だが神様印のチートなら、何でもありである。


さて……新しい目標も出来た事だし、エリクシルの分も含めて頑張ってIPを集めないとな。

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