第18話 危機察知
「さて、ターゲットは3匹」
畑の荒れ様から、ボンバーボアの数は判明していた。
討伐証明は、遺体が残ったなら遺体を。
残っていない場合は、自爆跡を見せて証明する事になっている。
「明かりは……まあいらないか」
――現在は深夜。
ボンバーボアが夜行性であるため、僕は月明かりの中、一人で夜中の畑を巡回する。
村長が松明を用意してくれていたが、使う必要はないだろう。
何せ僕には、空間把握と言うチート能力があるからだ。
え?
エリクシルはどうしてるのかだって?
彼女に村に残って貰ってるよ。
戦えるわけじゃないからね。
下手に連れて行くと、危険な目に合わせかねないし。
だからお留守番さ。
因みに村長の好意で、滞在中は村長宅の離れ――本宅からは少し距離のある――を借りる事になっている。
「しっかし……広い畑だなぁ」
村はそこまで大きくないのだが、畑の方は滅茶苦茶広い。
ドーム何個分とか、そのくらいの規模でトウモロコシの様な植物の畑が広がっていた。
ボンバーボア達が畑を荒らしに来るまで、ずっとここを巡回する事になる訳だが……
「今日中に終わると良いんだけど」
話によると、毎日荒らしに来る訳ではないらしい。
被害は大体数日おきに発生しているそうだ。
「まあ報酬はいいから、頑張るとするか」
ボンバーボア退治の報酬は、25万メタ。
さらに滞在中は、村長宅の離れを無償で借りる事が出来る。
仕事の条件としてはかなりいい物だ。
「ん?」
最悪数日は覚悟していたのだが――
「お、ラッキー」
巡回を始めて物の1時間ほどで、ボンバーボアをあっさりと発見できた。
しかも反応は3匹。
揃って現れてくれるとか、正にカモネギだ。
こいつらを片付ければ仕事完了である。
僕は空間把握の反応のある場所へと急いで向かう。
「さて、やるか……」
作物が踏み倒され、それを夢中で食い漁るボア達。
結構な距離まで近づいているのだが、此方に気付く様子は微塵もない。
どんだけ喰うのに必死なんだよって話である。
ま、その方が楽に済むからこっちとしては文句はないんだけどね。
ボアはずんぐりむっくりな見た目に反してかなり素早い様なので、気づかれて動かれると倒しづらい。
食べるのに夢中になってくれてるなら好都合だ。
僕は気づかれない様にギリギリまで近づいて、そして剣を構え――
「紫電一閃!」
――スキルを発動させる。
紫電一閃は、前方に放射状の雷撃を発生させるスキルだ。
飛距離はそこそここ長く、更に範囲も広い。
不意打ちで放っている以上、この攻撃がかわされる心配はないだろう。
「ボアァァァ!」
「ギュエエエェェ!!」
雷撃に打たれたボア達が吹っ飛び、全身から煙を上げる。
だが倒すには至らない。
3匹はゆっくりと起き上がって来る。
「やっぱ一撃じゃ無理か。これ、威力が今一なんだよなぁ」
紫電一閃は範囲が広い分、どうしても威力は低くなりがちだった。
以前ゴブリンを倒せなかったのもそのためだ。
「でも炎舞輪を使う訳にもいかないし」
単純に威力だけなら、炎舞輪の方が高い。
但し、このスキルには大きな欠点があった。
その性質上、周囲に火炎を巻き起こしてしまうのだ。
作物の密集する畑でそんなスキルを下手に使ったら、大火事になりかねない。
畑を荒らすボアを退治する為にその畑を全焼させるとか、笑い鼻にもならないだろう。
「ギュアアアア!!」
怒り狂ったボア達が、こっちに突っ込んで来る。
彼らは草食だし、基本人間に襲い掛かっては来ない。
だが此方から仕掛ければ話は別だ。
腐っても魔物だからね。
「よし!じゃあ追いかけっこだ!」
僕は振り返って全力で逃走する。
ボア討伐の戦術は至ってシンプル。
紫電一閃が再使用可能になるまで走って逃げて、打てるようになったら撃つ。
これを相手が倒せるまで繰り返すだけである。
え?
追いつかれたらどうするかだって?
その場合は、時間停止や転移で距離を稼げばいい。
まあ2発か、多くても3発で倒せるだろうから、手詰まりになる様な心配はないだろう。
「思ったより楽勝だな」
走りながら思う。
空間把握で、相手の位置は完全に分っていた。
どうやら、走る速度は僕の方が早い様だ。
「どうも、僕の足はかなり速いみたいだ」
習得した常識は、ボンバーボアはかなり足が速いと僕に教えてくれている。
そのボアより早い訳だから、僕の走る速度は相当な物だろう。
流石、武闘派で知られるガゼムス家の血って所か。
「紫電一閃!」
待機時間が終了。
一直線に追いかけて来るボア達に、振り返りつつスキルを放つ。
奴らは雷の直撃を受け、吹き飛んだ。
「終わりかな?」
ボア達はまだ死んでいなかったが、倒れたまま呻き声を上げていた。
もう起き上がる力もないのだろう。
「弱ってるけど自爆は……まあ離れてるし、しないか」
自爆は相手を地獄に道ずれにする為の物だ。
僕が離れている以上、それを使う意味はない。
「悪いけど、遠くから止めを刺させて貰うよ」
再度時間を置く。
紫電一閃でトドメを指すために。
近付く訳にはいかないからね。
「紫電一閃!」
再度はなった雷が、倒れているボア達を直撃する。
まあこれで終わりだろう。
けどまあ、念のためもう一発ぶち込んでおくとする。
万一生きてたら、自爆で偉い事になるからね。
「紫電一閃!よし、これで流石にもう生きてはいないだろう。死体は……回収しとくか」
インベントリに入れれば――生き物は収納出来ないが、死ねば物扱いなので収納可能――持ち運びは簡単だ。
討伐の確認も、死体が手元にあった方が手っ取り早い。
「ん?なんだ?」
ボンバーボアの死体に近づこうとした所で、体を強い違和感が襲う。
胸を締め付ける様な不安。
「これは……危機察知の効果か?」
取得してから初めての発動だが、習得したスキルの事なのでハッキリと分かる。
「まさかボアが生きてるのか?」
因みに、危機察知は自分の認識しない敵意に対してのみ反応する様になっている。
そのためさっきみたいに、あからさまにボアに追われている時には発動したりしない。
「でも、どう考えても死んでるよな?」
念のために、トドメまで刺したのだ。
生きているとは思えない。
僕はピクリとも動かないボア達に恐る恐る近づき、手にした剣でその首元を素早く突き刺して確認する。
「うん、やっぱり死んでる。じゃあ、他に魔物か何かが近づいて来てるとか?でも反応はないし……」
空間把握は、基本常時発動させていた。
コストも負担も、何もないからだ。
使い得と言う奴である。
「誤報か?いや、スキルにそんなのあるのかな?」
さしあたって、僕に危険が近づいているとは思えない。
なのにスキルが発動した。
「何か見落としが……あっ!!」
その時、気づく。
危機察知は自分だけでなく、親しい友人や家族の危機も拾う事を。
「まさかエリクシルの身に何か!?」
僕に危険が迫っていない以上、その対象がエリクシルである可能性は高い。
「助けに行かないと!」
僕は居てもたってもいられず、村に向かって駆けだした。
だが、村までは結構な距離がある。
走って向かったのでは、相当時間がかかってしまうだろう。
「くそっ!ちんたらしてたらエリクシルに……こうなったら!」
僕はIP交換システムを発動させ、GIPの項目からワープというスキルを選択した。
ワープは転移とは違い飛距離に制限がない。
一度でも自分の行った事のある場所なら、どこにでも飛べる。
更に、自分の周囲にいる生き物なんかも一緒に運ぶ事が出来た。
「ワープ!」
僕はスキルブックを使用し、そしてスキルを即座に発動させた。
転移先は、エリクシルの泊っている村長宅の離れの中だ。
「――っ!?」
僕は自分の目に入って来た光景に、絶句してしまう。
「いや……離して……」
明かりのない暗い室内の中、エリクシルが敷いてあった布団に倒れている。
そしてその上には、彼女を押さえつける大柄な男が伸し掛かっていた。
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