第17話 依頼

「ありがとうございます」


薬草を売り払ったお金を使って、エリクシルの服を買う。

彼女の服は結構ボロボロだったからな――汚れは浄化の魔法で落とせるけど、傷みなんかはどうしようもない。


買ったのはシンプルな草色のシャツにズボンだ。

田舎なので大した品ぞろえが無いというのもあったが、エルフはどうも緑色が好きらしい。


「さて、次は宿だな」


ここしばらくはずっと野宿だった。

別に僕は辛くもなんともなかったが、エリクシルにはきつかった筈だ。

だから出来るなら、今晩は豪華な宿に泊まりたい所である。


ま、田舎にそれを期待するのは無理がある気もするが。


「お待ち下され。キョウヤ・イスルギ様で御座いますね」


服屋を出て宿を探そうとしたら、杖をついた長い髭のお爺さんに声を掛けられる。

その背後には、ガタイのいい男性が付き従う感じで立っていた。


「ああ、そうだが?あんたは?」


何故この初対面の老人が僕の名前を知っているのか?

態度にこそ出しはしなかったが、僕はその事を警戒する。


「わしはこの村の村長。ゴッソーと申します」


「村長?」


村のトップが僕に何の用だろうか?

まさか、ガゼムス家から手配書が回ってるとか?


いや、今は幻変身の魔法で両手が生えている様に見えている筈だ。

仮に手配書が出回っていたとしても、隻腕という特徴からは今の僕は程遠い。


「実は村人から、凄い見栄を切る人物が現れたと話を聞きまして」


ああ……イキリまくったから名前が広がっただけか。

まああれだけ派手に名乗ってれば、村に僕の名が響き渡るのも無理はない。


「しかもその人物が大量の薬草を村に下ろしたと聞き、こうして訪ねさせて貰った訳です」


態々合いに来るなんて……さてはファンだな?

どうやらこのお爺さんは、僕のイキリに飲み込まれてしまった様だ。

我ながら罪深い話である。


「悪いが、サインは受け付けていない」


サインをケチっている訳ではない。

本当は書いてあげたい所だ。

何せ僕のファン一号さんな訳だからね。


だが如何せん、僕の左手は幻影でしかない。

そのためサインを書こうとすると、ボロが出る危険性が高かった。


だからすまない。

許してくれ。


「サイン?ああいえ、そう言った用件で声を掛けさせて貰った訳ではありません」


「ふ……冗談だ。で、用件はなんだ?」


どうやら違った様だ。

だが僕は自分の失敗に動じる事無く、華麗な切り替えしでカバーした。

我ながらクールである。


「セドンの奴が言っておりました。あれだけの薬草を集めたイスルギ様は、さぞ腕の立つ御仁だろうと」


セドンって誰だよ?

まあ予想するに、薬草買い取ったおっさんだろうとは思うけど。


「それであなたの魔導士としての力量を見込んで、是非ともご依頼したい事があります。どうか引き受けて頂けないでしょうか?」


「魔導士?」


魔導士という言葉に、僕は眉根をひそめた。


魔法の扱いに優れた者を、この世界では魔導士と言う。

確かに僕は魔法も使えるけど、どちらかといえば剣士と呼ばれる方がしっくりくる。


そう、隻腕の天才剣士!

それが僕!

キョウヤ・イスルギだ!


声を大にして叫びたい。

でもエリクシルとの約束があるからなぁ。

我慢だ。


「何故、俺が魔導士だと?」


「武器を持たずに魔物の居る危険な森で採集出来るのは、魔法の卓越した魔導士様だけですからな」


武器を持たず……ああ、そういやインベントリに入れっぱなしだったな。


剣を持ってない方が周りに警戒されないと思って収納していただけなんだけど、成程、言われてみればそんな風に勘違いするのも無理はないか。

まあインベントリの説明をする気はないので、此処は魔導士って事にしておこう。


「それで?内容は?」


依頼を受けるかどうかは、まあ内容次第かな。

村長が魔導士に依頼したがっていると考えると、今の僕じゃ達成できない可能性が高い。

当然、出来もしない物は受けられないからね。


まあIPはそこそこ溜まってるから、報酬次第じゃ魔法をガッツリ習得するのも有りではあるけど。


「実は最近、村の所有する畑にボンバーボアが出て困っておるんです」


「ボンバーボアか……」


ボンバーボアは、イノシシの様な見た目をした魔物だ。

サイズは中型犬より一回り小さく、基本草食性。

そのため魔物ではあっても、此方から攻撃を仕掛けない限り襲って来る事はない。


所謂、ノンアクティブって奴だね。


但し草食系と言う説明からも分る通り、奴らは畑を荒らす。


「罠を設置しても、全く効果がなく。それで、是非ともイスルギ様のお力をお借りしたいと思いまして……」


「成程」


ボンバーボアは、頭がいい。

そのため、罠などを仕掛けても早々かかる事はないのだ。


「ふん。ボンバーボアじゃなけりゃ、他所から来た魔導士に頼む必要はないんだがな」


後ろにいた男性が、不機嫌そうにそう呟く。

どうやら、よそ者の手を借りるのが嫌な様だ。


だったら自分で退治しろよと言いたい所だが、まあそれは難しいだろう。


ボンバーボアは魔物としては弱い方だった。

ゴブリン以下といっていい。


……まあゴブリンは、実はそこそこ強い魔物みたいなんだけどね。


それは置いといて、ある程度鍛えた大人なら、倒すのは難しくないレベルでしかない。

ボンバーボアの強さは。


じゃあ何故退治が難しいのかと言うと……奴らは名前通り爆発するからだ。


そう、あいつらは不利な状況になると自爆するのだ。

しかもその威力は、周囲数メートルを吹っ飛ばす程に強烈だったりする。


まあ要は接近戦で戦うと、自爆に巻き込まれて最悪相打ちに持ち込まれるって訳だ。

だから奴らの処理には、遠くから広範囲攻撃で魔物を仕留める事が出来る魔導士か、弓手ハンター――素早く動くため、扱いの優れた腕でないと処理は難しい――が必要不可欠になってくる。


当然こんな小さな村に、腕利きの弓手や魔導士なんている訳もない。

だから、僕の事を聞いて飛んで来たのだろう。


「こりゃ!イスルギ様に失礼じゃろうが!!申し訳ありません、孫が失礼な態度を取ってしまって」


どうやら男は村長の孫の様だ。

村長は孫を叱りつけてから、俺にぺこぺこと謝って来る。

余程断られたくないん様だ。


「気にしなくていい。良いだろう。その依頼、このキョウヤ・イスルギが引き受けた」


村で普通に処理できないレベルの依頼なら、報酬も悪くはない筈だ。

此処は僕が、格好良く片付けて上げるとしよう。

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