第30話

 大学試験も終わり、友人はボクと共にいつものベンチで本を読んでいた。

 真剣な横顔に些か懸念点がある。

 最近、とある女子から恋文を預かった。勿論、ボク宛ではない。友人宛である。

 その女子が余りにも可愛かったので、ホイホイ引き受けてしまった。断じて、引き受けたお礼にとお菓子を貰ったからではない。

 なんか、こう、客観的に省みても、過去の自分が莫迦に思えて仕方ないのだが、なにを隠そう恋文を渡すタイミングを見失ったのだ。

 渡しそびれました、他人様の預かり物を……、しかも恋文を!!

 ちなみに受け取ったのは、一昨日だ。

 そして昨日の朝、開口一番に「隣のクラスの女子からだ」と渡してしまおうと、思っていたはずなのだが……。

「今日は帰りに駅前の甘味処によるか?」

 と、言われ恋文が頭の中から吹っ飛んだ。花より団子、ハナダン効果とはこの事だったか……、いや、巫山戯ている場合ではない。一人の恋する乙女が、心をときめかせ待っているのだ。

 が、こう自分のペースというか間合いというか、段取りが崩れるとやりにくいところがある。

 自分のペースを取り戻そうとすると、そもそも自分のペーストは……?というオカシな自問自答が始まってしまい、ドツボ泥沼、抜け出せない思考ループ。

 ダメだ。

 咳払いをして、思い切って話題を切り出すか?いや、もう少し様子を窺って、と唸りだしたボクが気になったのか友人が目線だけ、こちらに寄越した。

 改めて手紙を渡すと決めたが、その不自然な行動に緊張してしまう。

「ととと、隣のクラスの女子からだ」

 渡そうと決めたボクはドモった。。何故かボクが告白する気分になってしまっている。

「そうか」

 と、友人はそのまま手紙を読まずに本の栞代わりに挟んでしまう。

「いや、読んであげなよ」

 その行動に思わず声に出した。お菓子の義理くらいは果たしたい。

 「ん?」と友人。「読めよ」とボク。

 断じて、何が書かれているか気になった訳ではない。お菓子の義理だ。

 義理お菓子。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る