第29話
ボクの問いに魔法使いは戸惑っていた。
「どうしたいですか?」
と、再度したボクの質問は夜の静寂にノイズみたく広がる。
「ドウって、その、え?」
魔法使いは、動揺しているのだ憂いな表情だ。
『魔法使い変わったよな、昔は欲しい物は力ずくだったじゃんか』
と、頭を掴まれた悪魔が口を開いた。
「今デモそうだヨ」
いや、コアラよ、今でも十二分に魔王属性じゃねぇか、この魔法使い。
『いや変わっちまったよ』
悪魔持つ手に少し力を入れて、黙らせる。
「事情を聞いた方がいいですね、これは」
話を聞けば、欧州の大きな社交場で婚約破棄宣言事件なるものがあり、その中に巻き込まれた一人の騎士爵の青年を匿ったそうな。「ソンナモノガ未ダニ、アルンデスネー」と、白目を剥きかけながらも、ちゃんと相づちをうったボクを褒めて欲しい。
ほとぼり冷めて騎士爵青年を無事に帰したが、度々会いに来るその青年と、いい感じ……好きになったらしい。
話を聞き終わると、心の中で「惚気乙!!」と叫ぶ。心の中の風景を現実に投影できるなら、ボクは眼から血涙、口から吐血していたろう。
「それで、婚約破棄されたご令嬢のことが、実は好きなんじゃないか、と?」
神妙な顔で頷く魔法使い。この世の終わりを決断でもするんだろうか、という気迫がある。
魔法使いには、惚れ薬を作る秘術があるのだと、言う。
その言葉で、夜風が急に冷たくなった気がした。
「療養中にアノ騎士ハ、惚レ薬のこトヲ幾度と訊いテイた。おソラく其れガ目的なノハ、頭デハ、理解しテル」
理解してるが信じたくないんだねぇ、と肯きながら泣きそうな魔法使いを慰める。ちょいと手の力を抜く。
『おまえさぁ、泣くんじゃねぇよ。人間なんかに泣かされてんじゃねぇよ。だいだい……あっ、あ、あ』
まともなコメントをコアラに求めたのが間違いだった。
ボクは小さくため息をはいた。
当事者がいない助言ほど肩すかしのものないとボクは思う。
「んー、その騎士さんは、ここに呼べますか?」
思いがけないボクの言葉に、悪魔も魔法使いも此方をみたまま固まった。
ネコが小さくワンと鳴く。夜はまだ少しだけ長い。
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