第25話

 夜風は今日も心地いい。

 ボクの前には鼻歌でご機嫌な一匹の犬、そしてパタパタと空を飛ぶネコ型のコアラ悪魔。

 ネコは何処から最新の歌を覚えてくるのだろうか、今の鼻歌も若人わこうどが聞くような曲だ。

「歌うま犬だね」

「馬ではありません、犬でございます」

 で、名前はネコ。

「歌犬って、ことだね」

「いえ、小生まだまだ修行の身、主にお聞かせするようなものではありません」

 尻尾が千切れんばかりに振っている。この犬は何を目指すのだろうか。「ちなみに十八番は津軽海峡、冬景色です」とネコ。ボクの横のコアラが、『え、何その曲?寒いよ寒いって嘆く歌?』と茶化しはじめ、ネコは唸り始める。

「待て」

 と、ボクの一声で大人しくなるが、コイツ等は仲がいいのか悪いのか判断がつかない。

『そういえばさぁ、魔法使いいたじゃん』

 悪魔が思い出したかのように発した。

 魔法使い?あぁ、あの鎌持ちカタコト金髪美少女か。

「うん、温泉の魔法使いね」

『いや、そんな二つ名ねぇし。……、相談があるらしくてさ』

 悪魔がそわそわしている。ボクの予想だと、コイツはまた勝手に『夜歩きに相談できるようにしてやるよ』とか吹聴したんだろう。

 ふむ、と思案するふりながら、悪魔に近づいて両手で頭を鷲掴みした。

『!!……ごめんなざい。違うんです、ちょっとお酒が入ってまして、気分が大きくなったといいましょうか、調子に乗りたくなったといいましょうか、放してください、出来心だったんです、おねがいします。ごめんなさいゴメンナサイ』

 言い残すことは、それだけか悪魔よ?と、ボク。はわわ、と悪魔。鼻歌を唄いかけてたが、何かの気配を感じたネコは上を見上げた。

 風がふわりと駆け抜けて、近くに何かが着地した音。

「まぁ、ハナしてあげてよ、夜歩きの」

 白金髪の魔法使いは、大鎌を片手に街灯の下に現れていた。

「今晩和、魔法使いさん」

「コンバンワ」

「そのご様子だと、激アツバトルに急展開、とかにはならなさそうですね」

 ボクのくだらない冗談ににっこりと嗤う魔法使いは、まるで夜に愛されたようだった。

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