第22話

 進路についての三者面談が終わり、母は仕事に戻るため、そのまま会社に出社した。

 教室で待つと友人が言っていた。

 独り廊下を歩いていると、何故か薄暗い。まるで逢魔が時じゃぁないか。などと思いながら、

(蛍光灯がきれてんだなぁ)

 と、教室に向かって歩を進める度にその暗さは深くなっていく。

 その深淵さに、さすがに何かがおかしい、と思って立ち止まると、髪の長い女が独りボクを追い抜かしていく。

 一枚の白い布みたいな服を纏い、長い髪は顔を隠し、猫背なのか両腕がだらり。

(うーん、ユーアー貞子オア伽椰子?)

 追いかけているのか、追いかけれているのか、結構な速度だ。あの速度、ボクじゃなきゃ見逃しちゃうね、と思いながら女性の後ろ姿を見送った。

 微かに残る柑橘系の香り。

(残り香とは、また風流な)

 廊下の蛍光灯をつけるため電源スイッチをと、壁に近づいたそのとき、後ろから肩をがっしりと掴まれた。

「────!」

 悲鳴にもならない無声音を発生させる。

「おい」

 振り返ると友人だった。

 半分涙目のボクに不思議そうな顔を向けてくる。

「ドキドキしたドキドキしたドキドキした」

 早口なボクを後目に友人は悔しそうに言う。

「校内に不審者……いや高度なコスプレイヤーがいてな、是非どうやって修得したかを尋ねたく後を追ったんだが、見失った」

 あの女性は、友人から逃げいていたようだ。あぁかわいそうに。

 友人は諦めたのか「帰るか」と言って、ボクはそれに答えた。

 いつの間にか、廊下は明るさを取り戻していた。

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