第13話

 吸血鬼のため息に、ボクは何か似たような感覚を覚えた。

 凪の夜は続いている。

「相談にのってほしい」

 予感は当たるもので、予想は外れるもの。友人の言葉を思い出した。

 あのコアラはボクのことをどういう風に広めたんだろうか、とりあえず今度現れたら一つ二つ文句を言おう。

「まぁ、聞くだけなら」

「……結婚したい女がいるんだ」

 おぉ恋愛相談ときたか、初めましてのボクに。いや、逆に知らない人間だから相談しやすいまである……のか……。

「えーっと、恋愛は苦手まであるから遠慮したいんだけど」

「いや、話すだけで楽になるらしいから聞いてくれるだけでいい」

 ボクはいつからフリギアの穴になったのか。おぉ、耳がロバ、そして貴方は王様。

「その女は、王女なんだよ」

 あ、本当に王族だった。

「えっと、身分の差ってことで?」

「まぁ、俺もそれなりの身分から厳密にはそれだけじゃないけど、周囲の目っつーか、与える影響みたいなモノを考えると……」

 ここに法律家と恋愛小説家と関係各位を連れてこい。ポーシャだ、それにマンハッタンのメルヴィンを連れてこい。

 なにも判らん状況の相談は、やけくそだ。

「逃げれば?」

 ボクの一言に吸血鬼は停止した。

「一緒に。周囲が面倒なら、全部捨てて、逃げちゃえば?」

 ひきつった美貌が動き出すと笑い始める。吸血鬼は思いついていなかったようで、楽しそうだ。

「おもしれぇ、それはおもしれぇは」

 吸血鬼は憑き物が落ちたように真顔になる。

「逃げれぇねぇから、腹括るわ」

 一方的に何かを決めたらしい。「あんがと、夜歩き」

 礼の言葉を残して、吸血鬼が闇に溶けていった。夜歩きが吸血鬼に助言ね、なるほど……。

 ようやく心地よい風が吹き始める。

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