第7話

 コアラの様な悪魔は今晩も暇なのだろう、いつの間にか、歩くボクの横を飛んでいた。

『お前、暇なの』

 暇かと言われれば、たぶん暇だ。夜な夜なこうして、誰もない街を散歩しているのだ。

「どうだろう、暇なのかな」

『自分のこともわからなくなってるって、痴呆老人じゃん』

 まだ十代だよと思いながら、ケケケと嗤うコアラの方を見る。ボクは小さく笑う。

 少し早くなったり、ゆっくり歩いたりしながら、たわいのない話が続いた。三角形と円形のどちらが好きか、砂糖と塩を色で表すなら何色か。

 散歩も終わり際、コアラがそわそわし始めた。

「なに、どうしたの?」

『そわそわなんかしてねぇよ。ちょっと相談したいことがあるけど、痴呆患ってる奴に言っても仕方ないだろ』

「悪魔も心配事があるんだね」

『僕のことじゃねぇよ』

「ふーん、言うだけ言ってみれば、楽になるかも」

 ボクはポッケの中の両手を少し動かした。

『魔法使いが、元気ない』

「魔法使い?」

 ボクは両手を前に構えて「メラ」とか「グラビデ」とか唱えてふざける。

『この機を逃さず、契約して魂をもらってもいいんだけどよ、それはナンカ違うじゃん』

 ボクはおかしくなった。ただ大笑いなぞせず、真顔のまま。

「何も聞かずに、温泉でも行ってくれば?二人きりが恥ずかしいなら、他の友達誘って」

 コアラがまじめな顔をして、『そうしてみる』と頷いて、魔法陣の中に消えていった。

「あ、そうやって帰ってたのね」

 ボクの呟きは、夜の風にのって消えた。

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