第5話

 三日月が揺れるというのは、本当らしい。

 考え事というか、夕方に見たアニメの妄想をしながら歩いていた。

 やけに上が五月蠅い。上がウルサい?

 暗闇の中、幾つかの光る眼。

 猫が一匹。こちらを塀の上から覗いている。

「深淵をのぞき込むとき、深淵もまた此方を覗いているのだ、猫くん」

 ボクの後を追い、追いつくとしゃがみ込む。

「好奇心、猫を殺す、というよ、猫くん」

 ボクの独り言に返事するように猫が鳴く。この猫が喋ったなら、となんと言ったのだろうか。

『お前、クビキコロすよ』

「まぁ、物騒な」

 ボクはその可愛らしい声に驚いた。

『僕は猫ではない。悪魔だ、おそろしい悪魔だ。異界からやってきた』

 どうやら、悪魔らしい。四足歩行の。天上の三日月は幽かに揺れている。

『歩行?そんなものは必要ないよ』

 眼をそちらに向けてやると、猫の背には蝙蝠羽が生えていた。ぱたぱたと飛んでいた。

「昔、二つの動物の名前をくっつけた悪魔がいたなぁ。ヨイショが得意で、十二使徒の枠で最弱だったよ」

『ヴァーカ、回教に喧嘩売るような名前を付けるんじゃないよ』

「オカリナの音色で仲間の悪魔の機嫌を制御していたなぁ」

『お前さぁ、聞いてる僕の話?』

「名前はコアラにしよう、よく似てる」

 猫が僕に興味を失って去っていく。

 立ち止まってニャァと鳴いたのは、たぶん気のせいだ。

 月明かりと街灯は静かにアスファルトを照らしていた

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