第13話 このヒロイン実は……

「あ、また負けた」

「へへん、俺の勝ちだな」


 俺達はずっと格闘ゲームをしていた。そして、俺が勝ち続けている。

 有彩は対戦で負けてばかりいるのは悔しいようだ。再戦を望んでくる。


「もう一回」

「まだやるのか?」

「当然だよ。もう一回」

「よし、ならもう一回だな」


 俺は有彩の挑戦を受ける。そして何度も戦った。だが結果は変わらない。俺は勝ち続けている。


「ぐぬぬ……」

「どうした? 今日は調子が悪いんじゃないか?」

「そんなことないもん。次は絶対に勝つ」

「それなら、次の勝負が最後だな」

「そうだね。私が勝って終わりだ。終わりよければ全て良し!」


 有彩の闘志はまだ消えていない。むしろ燃え上がっているようだった。


「いくわよ」

「おう」


 俺達は最後の戦いを始めた。

 結果。


「くあああああ!」

「ふふん、また俺の勝ちだな」

「もう一回!」

「え!? まだやるの!?」

「当然、私が勝つまでやるのよ。それとも私とやるのは嫌? 私と遊ぶのはもう飽きちゃった?」

「そう言われては断れないな」

「よし、やるよ!」

「望むところだ!」


 それからも俺は勝ち続けた。手加減をしようとも思ったが、俺が手を抜くと有彩があからさまに不機嫌な顔をするのでやるしかなかった。

 俺はそろそろ飽きてきたし、別のゲームもやろうと思ったのだが、有彩が再戦をせがんでくるのでプレイを続けた。

 結局、外が暗くなってくるまでゲームは続いた。


「もう一回!」

「ああ、もう一回な」


 何かこういうのどこかであった気がするぞと思って、何かのゲームのイベントだった事を思い出す。ここがゲーセンじゃなくて良かった。

 そして、もう何十回目の勝負になるか分からなくなってきた頃。


「ただいまー」


 玄関のドアが開く音が聞こえて舞が帰ってきた。


「今日はここまでだね」

「ああ」


 正直助かった。いつまでも続くかと思ってた。だが、有彩はとんでもない事を言い出した。


「舞ちゃんに挨拶してこないと」

「え!? 見つからないように窓から帰るんじゃないのかよ」

「なんでよ。私は何も疚しい事はしてないよ」

「まあ、そうかもしれないけどよ」


 有彩はさっさと俺の部屋を出てしまう。そして、階段を見上げていた舞に挨拶していた。


「おかえりなさい、舞ちゃん」

「あっ、有彩さん。来てたんだ」

「うん、靴置いてあったでしょ? 翼君と遊んでたんだ」

「ふーん、お兄ちゃんと遊んで楽しかった?」

「うん、楽しかったよ」


 有彩は笑顔で答えていた。その顔を見て舞は安心している様子だ。

 どうやら俺が予感していたような危機は無さそうだと思っていたら、こっちに飛んできた。


「お兄ちゃんでも人を楽しませる事が出来るんだ」

「グサッ、どういう意味だよ」

「お兄ちゃんが一番知っているくせに」

「確かにそうだけどよ。何でか有彩とは一緒にいられるんだ」

「有彩さんはお兄ちゃんの事をよく知ってるんだね」

「話に聞いてただけだけどね。翼君は私の憧れなんだ」

「有彩が言うと皮肉にしか聞えないんだよなぁ」

「酷い! 本当に本心なのに」

「分かったよ。悪かった」


 有彩が頬を膨らませているので謝る。すると有彩は笑顔になった。


「分かってくれたならいいの」

「有彩は相変わらずマイペースな奴だな」

「そうかな?」

「自覚ないのかよ」

「うん、全くないよ」


 有彩は首を傾げている。いつまでも廊下で話しているのもあれなのでリビングに移動する。

 座って舞が話を続けた。


「有彩さんって不思議な人だよね」

「不思議? どうして?」

「だってさ、お兄ちゃんみたいな人と仲良くできるし。そろそろ有彩さんの目的を話してくれてもいいんじゃないかな」


 舞はズバリと核心に踏み込んでくる。やはり舞にはこの状況を黙って見逃す気はないのだ。

 俺は裁判所に連れてこられたような気分になる。

 だが、有彩にはどこ吹く風だった。


「別にたいした事じゃないよ。翼君は魅力的だから一緒にいたいだけ。それで十分でしょ?」

「それだけじゃ納得できないんだけどな」

「うーん、困ったね。どうしたら信じてくれるの?」

「有彩さんの口から聞きたいな。有彩さんって本当は何者なの?」

「別にたいした者じゃないよ。隣に越してきたただの転校生だよ」

「ここまで来て今更誤魔化さないでほしいな」

「仕方がないな。教えてあげる。実は私、宇宙人なんだ」

「はい? 急に何を言っているの?」


 舞は呆れた表情をしている。それは俺も同じ気持ちだ。いきなり何を言い出しているのだこのヒロインは。


「疑っているようだね。じゃあ、証拠を見せてあげる。ワレワレハウチュウジンダー。ほら、宇宙人でしょ?」

「確かに声真似は上手いと思うが……」


 舞も有彩も声優を志望しているのだろうか。俺も練習した方がいいかもしれない。アニメ好きだし。


「お兄ちゃん、何を誤魔化されかけてるの!? 有彩さんは話をそらそうとしてるんだよ!」

「何!? そうなのか!?」

「バレちゃったか」


 有彩は残念そうに呟いた。舞の言葉通り、有彩は話を逸らすために嘘をついたらしい。

 舞はちょっと怒っていた。


「もう、有彩さん。ふざけるのはやめて本当の事を言ってくれないかな」

「ごめんね、話せないの。私の正体を知ったら翼君も危険にさらされるから」

「そんな危険な存在なの?」

「うん、かなりヤバい。私はある組織に所属しているの」

「組織だって!?」


 俺はこの前見たアニメを思いだす。舞も同じアニメを思いだしたようだ。


「それって犯罪組織の事だよね。まさか有彩さんは誘拐とかされて人体実験されたの?」

「違うよ。それに人体実験なんて物騒なものでもないよ。私の所属している組織はちょっと特殊なだけで」

「特殊? どんな組織なの?」

「簡単に言えば超能力者の集まりだよ」

「えっ!? 有彩は超能力者なの!?」


 俺は思わず叫んでしまった。有彩の正体は超能力者だと判明した。俺は今まで有彩の事を普通の人間だと思っていたのだが。

 なるほど、これで彼女の不思議な雰囲気も納得できた。


「うん、そうだよ。これで私が何者か分かったかな?」

「うん、有彩さんは超能力者だったんだね。でも、どうして隠していたの?」

「理由は二つあってね。一つは私達の存在が知られると厄介な事になるの。だから秘密にしておいた方がいいの」

「もう一つは?」

「単純に能力って隠していた方がカッコイイでしょ」

「なんじゃそりゃ。もっと真面目な理由があると思ったのに」

「あはは、バレちゃったねー」

「それで本当の理由は?」

「ああ、それは翼君のお父さんとお母さんに言われてね……はぐううう!」


 有彩は慌てて自分の口を押さえるが、もう俺も舞もバッチリ聞いてしまっていた。舞は落ち着いて言う。


「やっぱり父さんと母さんの関係者だった」

「お話はかねがね……じゃないよ! 忘れてーーー! 今言ったのは忘れてーーー!」

「言われても」

「ミステリアスな女の人だと思ってたのに」

「だから真実なんてつまらないって言ったじゃない! もおおおおおお!」


 有彩はブチ切れるが、俺と舞は微笑んで彼女をもっと身近に感じるのだった。




 後日、父さんから手紙が来た。内容は


『知り合いの子がそっちに行くから面倒を見てくれ。二人の事はよく話してあるから大丈夫だ。美人だから喜べ』


 ……と、そんな風な事が書いてあった。

 もっと早く寄こしてくれれば振り回されずに済んだのに。


「確かに有彩は美人だけどさ」

「ん? 何か言った?」

「何も言ってないぞ」


 俺達は今日も彼女と学校に行く。これから先、有彩との関係がどうなるのか楽しみだ。

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謎の彼女 けろよん @keroyon

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