第12話 帰宅部として

 俺達は家への道を歩いていく。行く時は舞がいたが、帰りは俺と有彩の二人きりだ。

 家は隣同士なのでそこまで一緒だ。ドキドキする。


「二人きりだね」

「ああ、そうだな」


 こんな活動なら帰宅部を続けて良かったかもしれない。有彩は本当に可愛いし、ぼっちにはもったいない自慢できる彼女だ。


「ねえ、一つ聞きたい事があるんだけど」

「何だ?」

「どうして翼君は友達を作らないの? 一人もいないよね」

「ぐっ……」


 痛いところを突いてくる。俺が目を逸らすと有彩は甘く息を吐いて距離を詰めてきた。


「私と一番最初の友達になるのを待っていてくれたの?」

「別にそんなわけじゃない。ただ人と話すのが苦手なだけだ」

「でも、私や舞ちゃんとは普通に話してくれるよね」

「そりゃ舞は妹で、有彩は友達だし……」

「昨日知り合ったばかりだけどね」

「それはそうだけどさ……。でもやっぱり人見知りするんだよ。俺が話し掛けて相手が迷惑じゃないかとか、嫌な気持ちにならないか心配で」

「そういうものなのかなぁ。私はもっと翼君と仲良くなりたいよ。それで翼君にも人気者になって欲しい」

「人気者か。まるで母さんみたいな事を言うんだな」

「…………あ」

「どうかしたか?」

「別に」


 有彩は目を逸らしてしまう。何か変だと思ったが、また何か彼女の秘密に触れそうな物を踏んでしまったのだろうか。

 俺は気にしないようにする。今の生活を続けていきたいから。


「とにかく俺がどうしたいかは俺が考えておくよ」


 そうこうしているうちに家に辿り着いた。隣の家の有彩とはここでお別れだ。それが寂しく感じられる。


「じゃあ、俺はこっちだから。また明日よろしくな」

「ねえ、翼君」

「何だ?」


 呼び止められて俺はドキッとしてしまう。有彩はさらにドキッとする事を言い出した。


「今からそっちの家にお邪魔してもいいかな?」

「今から!?」


 俺はさらにドキドキしてしまう。


「だって今は舞がいないんだぞ。つまり二人きりというわけで……」

「お邪魔しまーす」

「ちょ、おま!」


 有彩は止める隙を与えてはくれない。俺は仕方なく彼女を家に上げることにしたのだった。




「ここが翼君の部屋なんだね」

「あんまりじろじろ見るなよ。恥ずかしいだろ」

「ごめんなさい。つい気になったから」


 有彩は部屋の中を見渡していた。俺の部屋にはベッドがあり、勉強机がある。本棚があって、テレビもある普通の男子高校生の部屋だ。

 彼女は昨夜もここへ来たがあの時は暗かったし、まだ珍しいのだろう。


「何か飲むか? お茶しかないけど」

「大丈夫だよ。私、お茶好きだし」

「あ、ミルクもあった」

「ミルクもあるんだ」

「違うぞ。お前の思っている意味と違うぞ!?」

「翼君が何を考えているか分からないなあ」


 有彩はニヤニヤしている。ここで慌てたら彼女の思う壺だ。俺は平常心を意識してお茶を入れてくる。


「ほら、熱いから気を付けて飲めよ」

「ありがとう。頂きます」


 有彩はふぅっと息を吹きかけて冷まし、ちびりと飲んでいた。


「ふむ、これは良い茶葉を使っているね」

「普通のお茶だろ?」

「言ってみたかっただけ。でも、おいしいよ」

「口に合ってよかった」

「翼君の味がする」

「変なこと言うなよ」


 俺達はたわいもない会話を続けていた。こういう時間が一番楽しい。有彩も楽しそうにしてくれている。


「ねえ、翼君」

「何だ?」


 有彩は真剣な表情を浮かべていた。そして俺の目を見て口を開く。


「私のこと好き?」

「えっ……」


 突然の質問に俺は動揺してしまった。有彩の顔を見ると冗談を言っているようには見えない。


「答えて」


 有彩はじっと俺のことを見ていた。彼女の瞳は吸い込まれそうなほど綺麗だ。その瞳に見つめられるだけで緊張する。


「ああ……好きだよ」

「本当に?」

「本当だとも」

「嘘じゃない?」

「こんな時に嘘なんて吐かない」


 俺がそう答えると有彩は嬉しそうに微笑んでいた。とても可愛らしい笑顔で思わず見惚れてしまう。


「もしかしてお茶に酔ったのか?」

「雰囲気に酔ったのかも。二人きりだもんね」

「それを言うなよ。意識しちゃうだろ」

「じゃあ、しようか」

「え? 何を?」

「もう決まってるでしょ? これだよ」

「え? これ?」

「このゲーム」

「え? えええーーー!? ……え?」


 見ると有彩の手には俺の部屋に置いてある今人気のゲームがある。有彩の目は子供のように輝いていた。


「よく買えたね。これ人気あるんでしょ? どこ行っても売り切れてたよ」

「ゲームは買える時に予約して買うもんだ」

「じゃあ、さっそくやろう!」


 何だよ、ゲームかよ。焦らせやがって。まあ、彼女とゲームぐらいやってやるか。

 有彩はもう俺の方を見ていない。ここは俺のかっこいいところを見せてやろう。


「分かった。じゃあやるか」

「うん、早くやろう!」


 二人してコントローラーを握る。


「さあ、ゲームを始めるぞ」

「おー」


 こうして俺と有彩のゲームが始まった。

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