第5話 謎の有彩

 有彩と一緒に学校まで行く事になった俺たち三人は並んで通学路を歩いている。

 家から近い。それが俺が地元で普通のこの高校を受けた理由でもあるのだが、有彩はなぜこの高校を選んだのだろうか。

 見た感じでは平凡な俺や舞より賢そうな優等生に見えるのだが。

 気にして眺めていると、舞はすぐに有彩に質問を始めた。打って出る気でいるようだ。


「ところで有彩さんはどうして転校してきたんですか?」

「秘密」

「秘密!?」


 舞はショックを受けているようだった。そりゃそうだろう。まさかいきなり秘密と一刀両断にされるだろうとは思わなかっただろうから。

 有彩もそれだけでは悪いと思ったようだ。可愛いウインクをして言葉を続けた。


「秘密だけど、理由の一つとしては翼君の通う高校にどうしても行きたかったから」

「そっ、それってどういう意味ですか?」


 舞の表情が強張っている。俺はなんとなくその意味を察していた。

 有彩の狙いはやはり俺なのだ。だが、どうして? 気になるが彼女は正確な答えを返してはくれない。


「それは内緒。でも、私は翼君ともっと仲良くなりたいと思ってるよ」


 有彩はそう言いながら、俺の腕に抱き着いてきた。柔らかい感触が腕から伝わってくるのが分かる。


「ちょっと! 何やってるんですか! ここ通学路!」


 舞は焦ったように叫ぶ。俺も近くに知り合いがいたらどうなる事かと焦ったところだが、幸いにして誰もいなかった。

 セーフ。しばらくこのままでいよう。有彩は俺の腕に抱き着きながら余裕の笑顔だ。


「仲良くしたいからくっついてるんだけど。舞ちゃんも一緒に仲良くしない?」

「しませんよ!!」


 舞は真っ赤になって怒っている。しかし、有彩は俺から離れようとしなかった。


「翼君、舞ちゃんが懐いてくれないんだけど……」


 俺は困っている有彩の頭を離そうとしたが撫でていた。だって可愛いんだもの。すると有彩は嬉しそうな顔になった。


「翼君が慰めてくれた……。嬉しい。ねえ、もう一回……」


 有彩は甘えた声で俺を見つめてくる。


「駄目です!! これ以上は許しませんよ!! 学校は不純異性交遊は禁止です!!」

「え~、舞ちゃんの意地悪……」


 有彩は舞のガードの強さに不満げだったが、すぐに気持ちを切り替えたのか俺の方を向いてきた。


「まぁ、いいや。これから仲良くしていこうね翼君」

「ああ、よろしくな高嶺さん」

「有彩で良いよ」

「じゃあ、有彩」

「うん、よろしくね翼君」


 こうして俺と有彩は友達になった。舞は学校に着くまでブスッとしていた。




「じゃあ、私は転校の手続きがあるから職員室に行くね」

「ああ、行ってらっしゃい」


 校舎に入ってから有彩と別れ、その姿が見えなくなってから俺はすぐ傍で立ち上る怒りのオーラの相手をしないといけなくなった。

 舞が怒っている。彼女は距離を詰めてくると、俺の横の壁を勢いよく叩いた。


 バアアアアン! 良い音が響く。


「うわあ! 壁ドン!!」


 なんて喜んでいる場合じゃない。妹は本気で怒っているのだ。怒りの眼差しで俺を見上げてくる。


「お兄ちゃん、どういうつもり? あんな怪しい奴を信頼しちゃ駄目って言ったじゃない!」

「おい、そんなに言うなよ。傷つくだろ。有彩は確かに怪しいけど、悪い子ではないと思うぞ。ただちょっとお兄ちゃんを好きってだけでさ」

「それがおかしいのよ。お兄ちゃん、今まで女の子に告白された回数は? ゲーム以外で」

「それを除外するのかよ。0回です」

「チョコをくれた相手は?」

「舞と母さんだけです」

「でしょ? あの女は何かあるのよ。絶対に」


 舞の怒りは収まりそうになかった。彼女を疑っているらしいが、俺にはとてもそこまで有彩を悪く思う気にはなれなかった。


「俺にもモテ期が来たのかもしれないだろ?」

「モテ期ー?」


 舞の疑いの目は変えられない。俺はため息をつくしかなかった。


「もう分かったよ。有彩には気を付けるようにするから。機嫌直してくれないか舞?」

「……本当に分かってるのかなぁ……」


 舞はまだ納得していない様子だった。仕方がない。そう思ったところで予鈴が鳴った。


「ほら、教室行くぞ。急がないとな」

「むぅ……とにかく有彩さんには気を付けてよね。一緒のクラスになっても油断しちゃダメ。何かあったらすぐあたしを呼んで」

「ああ、分かった。頼りにしてるぜ、妹よ」


 舞は不承不承といった感じだが、とりあえずは頷いてくれた。俺はホッとして自分のクラスに入った。

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