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最終話

 部屋の大型モニターにはベットの横に座っている女性が映し出されている。

「全て計画通りさ、後少し、あと少しで念願が叶うよ」

 モニターの前に立っている老婆の口元はつり上がり、モニターを食い入るように見つめている。

「もう、こんな古ぼけた肉体ともおさらばさ、私は生まれ変わる! 全ての存在になる!」

 力強い言葉の中に、確かな狂気がが入り交じっていた。

「昨日の一号の裏切りには本当に腹が立ったがね、今になったらそんな事もう、どうでもいい、最高だったよ。あの女の死に様! 何が田中くんだ! 何の幻想を抱いてるんだろうね! 一号の恋心なんて私の作ったプログラムの一つでしかないってのに! 本当に馬鹿だね! さぁ! 替えの息子も後数分したら病室に到着する! これで何も問題はない!」

「何が問題ないって?」

 背中から聞こえた急な声に、老婆は素早い動きで体を部屋の出口に向ける。

「まさか民家の地下にこんな研究所を作ってるなんてな、みつからないわけだ」

 男は扉を二、三回軽く叩き老婆の顔を正面から見た。

「・・・・・・誰じゃお前は?」

「正義の味方・・・・・・と、言ったところかな」

「何で全裸なんじゃ?」

「地下への道を開くときに力を使ってね。色々ヒーローにも事情があるのさ」

 自分の髭に触れながら全裸の男は一歩部屋に足を踏み入れた。

「そのヒーローが私に何の用かね?」

「わからないのかい? ヒーローなんだから悪の親玉を倒すのが礼儀だろ?」

「ほう、そうかね・・・・・・」

「無駄な抵抗はするなよ」

 男はゆっくりと右腕を大きく掲げ、左腕を腰の後ろに回した。

「かっ!」

「なにっ!?」

 男が息を吸い込んだ一瞬、老婆は口を大きく開き衝撃波を放った。

 男の体が後ろに跳ね、壁に激突し、前方に倒れそうになるが、どうにか体勢を立て直す。

「貴様・・・・・・何をした!」

「お前の型・・・・・・なつかしいねぇ・・・・・・」

「お前は一体・・・・・・」

「はっ、お前に教えて何になる」

「ノーモーションで衝撃波・・・・・・もしや!」

「考え事なんて余裕だね! かっ!」

「はっ!」

 男は老婆の衝撃波を自分が放った衝撃波に当て、威力を相殺し消し去った。

「ここからは本気を出させて貰うぞ! はあああああああああああああああああああああああ!」

 男の掲げた右手から数え切れないほどの衝撃波が放たれる。

「かあああああああああああああああああああああ!」

 老婆も応戦し、口から衝撃波を繰り出す。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああ!」

「くわあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 どちらも同程度の威力の衝撃波を放っているが、多少老婆の衝撃波が押されてきている。

「これで終わりだあああああああああああああああああああ!」

 男は最後の力を振り絞り衝撃波を放つ。

「ぎゃあああああああああああああああ!」

 老婆はの衝撃波は全て消え去り、残った衝撃波が老婆の体を襲い、老婆の体が大型モニターに大の字にぶち当たる。

「はっ・・・・・・はっ・・・・・・噂には聞いていた・・・・・・ノーモーションで衝撃波を放てる唯一の人間、この幻灯古武術創始者・・・・・・あなただったんですね」

「昔の・・・・・・話さ」

「何故・・・・・・あなたがこんな事を?」

 大型モニターに体を預けながら老婆は遠くを見ながら語り始める。

「老いとは、誰にでも来るものなのさ、人生に満足していても、いなくてもね。私は・・・・・・満足なんてできやしなかった。いつまでもあの時の・・・・・・そう、輝いていた自分を欲していた。だけど現実はどうだい。こんなに老いぼれて・・・・・・だから私は永久の若さについて研究を重ねた・・・・・・そこで偶然人体の精製に行き着いたのさ」

「・・・・・・田中の事か」

「そう・・・・・・完璧な、食事も取らず睡眠も必要ない、研究費用を稼ぐには持ってこいの素材だった・・・・・・もし、私が若くなった時用に私好みの外見にしたんだけどね・・・・・・」

「・・・・・・駆け落ちも・・・・・・お前の仕組んだ事だったのか?」

「いや・・・・・・あれには驚いたさ。プログラムに入っていたのは母親への恋愛感情のみ、本当は二人で出かけた先の人気のない場所で殺せと命じていたんだよ・・・・・・だけど一号は殺さなかった・・・・・・不思議なもんだね・・・・・・まるで人間みたいに勝手に動いてたんだよ」

「人間だったさ。あいつは。最初から、最後まで・・・・・・」

「ボタン一つで死ぬ人間かい? それは傑作だね・・・・・・」

「・・・・・・最後にお前の計画を全部教えて貰おうか」

「ふっ、簡単な事さ・・・・・・一号の量産計画を打ち立てたんだ・・・・・・」

「量産だと!?」

「しかも今度の物は感情なんて物は全てない完全な自己のない物さ・・・・・・」

「そんな物を・・・・・・」

「だがね、量産するに当たって一つの問題が生じた。怪人には名前も戸籍も何もかも存在しない、今回は偽装で済んだがこれからの量産でそれを行うのにはリスクを伴ってしまう・・・・・・そこで」

「既存の人間とすり替える・・・・・・」

「その通り、今回のターゲットは三人、息子とその妻、そしてあの出来損ないの孫だよ」

「・・・・・・そんな物のために二人に、あんなくだらないお芝居をさせたのか」

「全ては老いのもたらした結果だよ・・・・・・」

「他に何か隠してはいないな?」

「ええ、これで全部だよ・・・・・・」

「ならば・・・・・・これでお前の計画は全て終わりだ・・・・・・」

 男は老婆を見据えたまま、右腕を大きく掲げ、左腕を腰の後ろに回し、右手に気を込め始める。

「へれええええええええええええええええええええええええええええええええええええんんんんんんんんんんんん!!」

 事態はじじいの咆哮で急変した。



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お父さんは魔法少女 なめがたしをみ @sanatorium1014

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