第17話
食堂について田中君を先に座らせてから前に座る。
「一回も間違わないなんてすごいわね」
午前中、彼は一回も総菜の重さを一グラムも間違えずに掴んでいた。
「私だって誤差はあるのになーやっぱり若いっていいわよね」
「あっ・・・・・・いえ・・・・・・偶然です」
頬を赤くして俯く田中君。
「君はいくつ?」
「今年で十八です」
「若いなー自分の年を感じちゃうわ」
「何で年を感じるんですか? 全然お若いじゃないですか」
一瞬間をおき私は少し吹き出して笑う。
「ごめんなさいねー若者に気を使わせちゃったわね」
田中君を見ると何故かキョトンとした顔をしている。
「お世辞でも嬉しいわありがとうね」
「いや、僕はお世辞を言ったつもりは」
しどろもどろする田中君。
外見だけみれば今時の若者なのに話をしてみると誠実で真面目な印象を受ける。
「ごめんね? 一つ聞いてもいい?」
私は自分の頭を指で二回軽く叩く。
「どうして髪を染めているの? その色だとアルバイトなかなか決まらなかったでしょう?」
はぁ、と気の抜けた返事の後に少し間を開いた。
「朝起きたらこうなってました」
私は声を出して笑った。
「あらそう、それは大変だったわね」
目頭から少し出た涙を拭き田中君を見る。
きょとんとした顔で私を見ている彼の顔はコンビニでたむろしている若者とは少し違う、まるで小さな子供のような印象を受ける。
「うちはあんまり髪の毛にはうるさくないからいいけど、気にする大人の人もいるから怒られないようにしなさいね」
「わかりました。ありがとうございます」
「そういえば田中君は昼ご飯食べないの?」
田中君の前には何も置かれていない。
「今日初めてだからお弁当忘れちゃった? ここ社員食堂だから食べたいものあったら三百円ぐらいで食べれるわよ」
「えっと・・・・・・」
視線を右往左往させながら何か考えている様子の田中君。
「よかったら私の持ってきたお弁当半分あげようか? 同じ箸を使うのは嫌だろうから割り箸もってくるね」
私は立ち上がり、割り箸が置いてあるテーブルへ向かう。
「あの、僕食べなくて大丈夫です」
背中越しの声に私は後ろを振り返る。
「今日緊張してお腹痛くて・・・・・・」
「あ、そう? じゃあ水だけでも、持ってきてあげようか?」
ありがとうございます。と、言って田中君は微笑んだ。
そこからはくだらない話題で休憩時間を過ごした。
そこで気づいたことは自分が久しぶりに心から笑っている事だった。
もちろん、大半の事は笑顔で対応しているけど、それは表面上の話だけで上っ面だけの顔。
でも田中君と話している時は何故か自然に頬が緩み、心が落ち着いた。
「おばさんの長話に付き合わせちゃってごめんね」
休憩も終わりにさしかかり私は自分のお弁当をしまいながら声をかける。
「いえ、とても楽しかったです・・・・・・あの・・・・・・」
「ん? どうしたの?」
「明日もお昼ご一緒していいですか?」
田中君は恥ずかしがっているのか頬が少し赤らんでいる。
「いいわよ。明日も一緒に食べましょう」
「ありがとうございます」
「じゃあ仕事の時間だからいきましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
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