第16話

 出社をするとすぐ上司に事務所へ呼ばれ、行ってみると、事務所には金髪の高校生ぐらいの男の子が立っていた。

「急で悪いんだが今日からこの子の教育係宜しくね」

 上司が男の子の背中を一回ポンっと叩く。

「田中と言います。これから宜しくお願いします」

 外見とは裏腹に深々と頭を下げ挨拶されたので私は少し驚いた。

「こちらこそ宜しくね」

 私は一通りの自己紹介をした後、田中君を仕事場に連れて行った。

「難しそうですね」

「最初はそう思うかもしれないけど馴れれば簡単よ」

 目の前では何人かのパートさんが流れ作業で総菜をパックに詰めている。

「田中君はアルバイトは初めて?」

「いえ、いくつかやったことはありますけど、食品を扱うのは初めてです」

「じゃあ、少しやってみようか」

 私が先導して作業の場所に移動する。

「まずは見ててね」

 使い捨てポリ手袋をして大きなボウルに入っているきんぴらゴボウを一掴みして計り台の上に乗ったパックに平坦に詰める。

「きんぴらの場合は二百五十グラムね。そうしたら、横にあるローラーに乗せると勝手に流れてってラップしてくれるからね」

 総菜によって違うが、平均的にこんな作業を一日中行う。

「じゃあやってみて」

 私は今いた場所をどき田中君を促す。

「はい」

 少し緊張した面持ちではあったけど一掴みしてパックに入れるとぴったり二百五十グラムになっていた。

「じゃあそれをローラーに乗せてね」

 ローラーに乗せたパックは小型の機械の中に入り小さい機械音がした後に出てくると綺麗にラップがされていた。

「そうそう、上手」

「わかりました。ありがとうございます」

「じゃあ私も隣でやるから途中でわからない事があったら聞いてね」

「はい」

 私は田中君の隣に立って作業を始めた。

 田中君は無駄話もせずに午前中の仕事をきっちりこなしてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る