母親編
第15話
お宅のご主人はお給料が高くて良いわね。
うちの亭主ときたら、毎日飲み会で帰ってくるのが遅いし不景気で今年からボーナスも減るのよ。
本当に奥さんが羨ましいわ。
本当本当。
ご近所の奥さん達との井戸端会議、実の所私はこの集まりが余り好きでなはない、それは単にご近所の誰かの悪口を聞きたくないとか、誰かを嫌いだからと言った理由ではなく。
優しそうですもんねーおたく、主人なんか。
自分の夫の話をするのが辛いから、その話に対して、笑顔で対応するしかない自分が情けなくて仕方ないから。
「じゃあ、私はこの辺で」
軽い会釈をして井戸端会議から抜け出す。
パートの帰り道に捕まると話が長くなって仕方ない。
今日はスーパーが特売日だったからいつもよりお客さんが多くて疲れた。
本当は疲れたので家についたらすぐに横になりたいけど、皆の夜ご飯作らないと……
重い足取りで家に向かう。
初めは息子の引き籠もりのことでストレスがたまり、病院にかかると先生から「外にでてみればどうですか」と言われたので気分転換の為にと始めたスーパーのパートも気がつけばもう五年も勤めている。
外に出ることで家の事で落ち込むことは少なくなったが、逆に主人との関係が薄くなってきているなと感じている。
息子がいじめられていることを話そうとすれば「疲れてるから」等と言い寝てしまっていた。
勝手に退学届けを学校に持っていた日の夜に話をしようと電話を入れると上司とキャバクラに飲みに行っていた。
『信頼』その言葉はゆっくりと、音もなく崩れ去っていった。
そこから夫の全てが頭にくるようになってきた。
口癖、鼾、声、咳、体臭、歯の磨き方、細かく言っていけば切りがない。
ついには夜隣で寝ることにすらストレスを覚えるようになっていた。
夫に別居生活をしましょうと伝えると顔は困惑していたが二つ返事で承諾してくれた。
久しぶりに一人の夜、私の中には離婚の文字が浮かんでいた。
この家で本当に私は必要とされているの?
本当に私である必要なんてあるのかわからない。
誰を信頼すればいいの?
頭を悩ませながら家路につく、なんだか台所に立つのも億劫になってしまった。
「今日は簡単なものでいいかな…」
呟きながら冷蔵庫を開け簡単な夕食を作る。
作り終えるとすぐに自分の部屋に逃げるように戻っていった。
和室の部屋に戻ると、部屋の隅に畳んであった布団を広げて仰向けに倒れ込む。
おじいちゃんやおばあちゃんに夕食の声はかけなかったけど、どうせ時間になったら台所にきて食べてくれるわよね。
ふと、そう思いながら、もう今日は誰と話すのも面倒が臭いと考えた。
少し、休もうかしら……私はゆっくりと目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます