第13話
その日からのワシはノリノリじゃった。
毎晩ご主人が深夜に出かけるのをばれないように追いかけ、ご主人と怪物との闘いを見ながら打倒ヘレンの対策を練っていた。
見ている内に、もしもご主人がピンチになった時に助太刀できるようにとゲートボールを休んでトンキポーテにて全身タイツを購入しに、店に行ってみると、色が豊富で一時間ほど迷ったあげく、赤と緑の全身タイツを購入した。
家に帰って早速着てみると似合ってはいるが何か足りない気がした。
「魔法少女かのう」
ワシは書道セットを取り出し赤の全身タイツに魔法少女の文字を背中に書いた。
やはり、全身タイツの色もそうじゃが文字の位置も被ってはいけないからのう。
緑色の全身タイツは腹に横文字で書いておいた。
緑色の全身タイツはこの家の孫へのワシからのサプライズプレゼントとして渡そうと思い部屋に行くと日中にも関わらず部屋には誰もいなかった。
後で渡すのも面倒くさいのでワシは孫の鞄の中へ全身タイツを畳んで入れておいた。
さてと、今日はご主人の会社にまで行ってみるかのう。
いつも深夜に怪人と闘っているのはみているが、もしかしたら会社帰り等にも闘っておるのかもしれない。
ワシがいないときにご主人が倒されてしまったら元も子もない。
ワシは全身タイツを鞄の中に詰め込み、家を出た。
七時を過ぎた辺りでご主人は会社から出てきた。
ワシは夕方から会社の前にある電柱に身を隠していた。
ご主人にばれないように五メートルほど後ろを歩く。
このまま真っ直ぐに家に帰るのか、と思っていたら道端でいきなりご主人の足が止まった。
ワシが後ろから様子を伺っていると、ご主人はその場でスーツを脱ぎ始めた。
怪人じゃ! 怪人が出たんじゃ! ワシはそう確信した。
周りの悲鳴を意に介さず、ご主人はスーツを素早く脱いで鞄から全身タイツと木の棒を取り出した。
やはりご主人は会社帰りも毎日怪人と闘っていたのか!
「そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!」
ご主人は脱ぎ捨てたスーツと鞄はそのままに、雄叫びとともに全速力で走り始めた。
ワシはご主人がスーツを置いていった場所まで歩いてご主人の様子を確認する。
「とらあああああああああああああああいいいいいうわあああああああああ!!」
ご主人は十メートルぐらい先で金髪の若者の足にしがみついていた。
「ここは私に任せて逃げるんだ!」
その声に従ってご主人の近くにいた一人が駅の方向へ走り始めた。
まさか、人に危害を加えようとした怪人に立ち向かっているのか。
男前じゃ、ほんにあんたは男前じゃよご主人。
「これならどうだ キュンキュンペリッポ朝あああああああああああああああ」
ご主人が若者の膝の皿を叩き始めたと同時に、若者がご主人の頭を上から殴った。
コンクリートの上でのたうち回るご主人の腹に若者は容赦なく蹴りを入れた。
「これは・・・・・・ご主人のピンチじゃ!」
考えるよりも先に体が動いていた。
ワシはファイティングポーズをとり、気を発する。
「はっ!」
一瞬にして服は破け、前回残ってしまったサンダルも粉々に粉砕した。
「今日のワシなら・・・・・・イケる!」
ワシは鞄から全身タイツを取りだしものの五秒で着終わる。
周りから悲鳴にも似た賞賛の声が何人分も聞こえてきていた。
そうこうしているうちに若者はご主人に馬乗りになり、顔を何回も殴っている。
急がねば!
「らあああああああああいいいいいいいいいどおおおおおおおおんんんんぬわああああああたあああいいいいむうううううううう!!」
ワシは若者へ向けて全速力で走り、飛び膝蹴りを食らわした。
若者はご主人の上からはね飛ばされて尻餅をついている。
背中越しに「魔法・・・・・・少女・・・・・・」と声がしたので振り返るがご主人は気を失ったのか目を瞑っていた。
「誰だよお前・・・・・・お前の事は聞いてないぞ」
「何の話じゃ!」
ゆっくり立ち上がる若者にワシはファイティングポーズをとる。
「俺には時間がないんだ。やるなら早く終わらそうぜ」
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ワシの全身タイツは粉々に破れ去った。
「丁度いい、ヘレン前の消化試合じゃ」
ワシは再度、気を溜め始める。
ワシは心に決めた。
この闘いが終わったら隣の家族に全てを話そう。
「ワシは・・・・・・自分の家に帰るんじゃああああああああああああああああああああああああああ!」
ヘレン・・・・・・ワシは今でもお前を・・・・・・
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