第9話

 上野駅前に着く頃には俺の脚は悲鳴を上げていた。

 激しいニート生活で培った俺の肉体に労働と運動は自殺行為と言えるだろう。

 今日はもう家に帰ってゆっくりしよう。

 そう思っていると、携帯がなっているのに気がつく。

 ポケットから取り出し、携帯を開くと知らない番号から電話がかかってきていた。

 面倒くさいが一応電話に出る。

『ぶふっ! ぶふふふふふふふふっ!』

「うるせええええええええええええええええええええええ!」

 勢いよく携帯を空高く投げる。

 俺は決めた。

 もう、一生、一人でいい。

 誰にも頼らない。

 いや、ごめん親には頼る。

 リアルでも、ゲームでも、もう一人でいいじゃないか。

 もう、誰も信用なんかするもんか!

 その時、後ろから肩を二回叩かれた。

 全身の毛が逆立つ。

 もしかして、さっきのヤンキーが追いかけてきたんじゃ……

 おそるおそる後ろを振り返る。

「ぶふっ! ぶふふふふふふふふっ!」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 狭いリビングに、家族全員が集まっている。

 俺の描いた、キュンキュンとペリッポを見て、親父が笑いながら褒めてくれている。

 母さんは「何これ」なんて言いながら紙を手で持ってじっと眺めている。

 俺はじいさんの膝の上に乗って、自分が考えた二匹のストーリーを必死にばあちゃんに聞かせている。

 ああ、これは夢だ。

 俺の小さい頃、一番楽しかったときの思い出を見てるのか。

 ひどく懐かしい気がする。

 こんな時代もあったんだな。

 楽しそうな家族の姿を、少し離れたところから今の俺が眺めている。

 戻りたいな、あの頃に。

 右手を家族の方へ伸ばす。

 近いはずなのに、一向に届く気がしない。

 なぁ、俺。

 お前、後何年かしたらクラスの奴にいじめられるんだわ。

 学校行かなくなって、家に引き籠もってゲームばっかりして、みんなに迷惑かけるんだわ。

 無駄に合コン行って化け物に会うから気をつけろよ。

 ・・・・・・聞こえてないだろうけど。

 いじめになんて負けるなよ。

 学校きちんと行け。

 外に出てくだらない青春でも謳歌しろ。

 オンラインゲームなんて始めるな。

 みんなに迷惑かけるな。

 普通の会社に就職して、普通に暮らせ。

 じいさんの膝に乗っている俺は、身振り手振りで何をばあさんに伝えてるのかな。

 ああ、戻りたいな。

 ちくしょう・・・・・・

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