第3話
その日から毎晩あの電話番号から『二丁目の空き地へ来て下さい』と電話があり、正装に着替え空き地へ向かい蟹娘や、蝙蝠おじさん、蜥蜴伯爵等々、バラエティにとんだ怪人達を鼠男と同じ要領で倒していった。
毎回、倒し終わった後の全身タイツには怪人達の返り血で真っ赤に染まっている。
それを家に帰ってから綺麗に洗い、自分の部屋に干すのが毎日の日課になっていた。
家族との関係は何も変わっていないように思えるが、私の中には今までにはない満足感が溢れ返っていた。
何日か前に全身タイツは、一枚だと心許ないと思いはじめ、電話主へ『着替えのタイツが欲しい』と伝えると次の日の深夜に替えの全身タイツが玄関に置いてあった。
中々親切である。
一応換えの全身タイツは会社に持っていく鞄の中に入れておくことにした。
今は深夜帯にしか電話は来ていないがいつ何時電話がかかってくるかはわからない。
私が、私が家族を守っているのだ。
勝手ではあるかもしれないが、この想いが私家族を繋いでいるように感じている。
「おっと、もうこんな時間か」
全身タイツをハンガーにかけ、木の棒を鞄の中に入れてからベットで一息ついていたら会社の出社時間になっていた。
「駅まで走らないと間に合わないな」
ベットから立ち上がり、部屋を出る。
と、そこにはいつも見送りにもこない妻が何故かそこにはいた。
「あなた……今日の夜、大事な話があるの」
妻は私の目を直視しながらそう言った。
出来るだけ平静を装いながら「わかった」と横を通り過ぎるが内心は穏やかではない。
一体、妻は今夜私に何の話があるのだろう。
そうだ、丁度良い機会だ。
妻が何を話してきても私は妻に謝ろう。
謝って、謝って、これからの話をしよう。
今からでも遅くない。
家族になろうと伝えよう。
まだ変われる。
まだ遅くない。
鞄の中に入れてある木の棒を握り締め、私は会社に向かった。
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