お兄ちゃん面接 2
「でも、よかったですね。これで絡まった糸は解けたんじゃないですか」
「誠くん……はは、もしかして、いろいろ聞いてたりするのかな、神華から」
「志波姫もそうですし、あと八神っていうやつからも少し」
「あぁ、なるほど、蒼也か。あはは、恥ずかしい身内の事情だよ。もしかしたら、誠くんのことを煩わせてしまったかもしれないね」
「俺は別になんともなかったですよ。部外者でしたから」
「そうだ、そういえば、神華から聞いたんだけど、誠くんはどうやらアレを倒したようじゃないか」
「? アレ、ですか?」
「剣聖クラブの遺産だよ。僕と友達でつくりだした人形」
「あっ、099号室の?」
「久々に学校にきたから、どんな具合かさっき見に行ったんだけど、まさか倒されているとは思わなかった。てっきり神華がやったものだとばかり思ってたからさ、討伐者に違う人間の名前がでてきたのは驚きだった」
剣聖クラブの床下に隠されていた箱や、099号室の樹人の剣士を用意したのは、すべてクラブの創始者である志波姫心景とその友人たちなんだったな。
「どうしてあんなものを作ったんですか」
「どうしてって、そりゃあ面白いから」
「はぁ、それであんな手の込んだことを」
「あとは卒業記念に、後輩たちへ贈り物をしたいと思ったからかな。だから、僕たちのスキルや魔術技能の粋を結集させた。謎の導きにはじまり、探求、最後には試練としてガーディアンが立ち塞がる。剣聖クラブと魔導士クラブの合作を乗り越えた暁には、ご褒美が待っている。心躍る冒険だったはずだ」
「最後のガーディアンに沼りすぎて、前半の冒険あんまり覚えてないすけど」
「あはは、それなりに手ごたえはあっただろうね」
「ありすぎるくらいでした。あの、ところでご褒美って何の話っすか?」
心景は首をかしげた。
ガーディアンを乗り越えた暁には、ご褒美が待っていると、この人は言ったけど、そんなものは特になかったように思う。
樹人の剣士を倒したあとにあったのは、ひたすらの静寂だった。
「『黄金の経験値』だよ。ガーディアンからドロップしなかったのかい?」
「いえ、しませんでしたね」
「あー……なるほど、そうなったんだ」
「どういうことです?」
「本当はガーディアンを倒したら、『黄金の経験値』っていうアイテムがドロップする手筈だったんだ。『黄金の経験値』はすごいアイテムなんだ。体育祭の代表者競技でもご褒美として用意されているアイテムでね。接種すれば、莫大な経験値をその場で獲得できるっていうチートアイテムさ」
「あぁ、ありましたね、そんなの」
「なんだか知ってる風だね」
「諸事情があって今年の代表者競技に参加したんですよ」
「それはすごいな。1年生なのに。神華は夏休みに帰ってきたのにそんな話はしてくれなかったな」
だろうな。実家で俺の話をしていたら、そっちのほうが不思議だ。
「まぁ知ってるなら話がはやい。僕はその代表者競技に参加してた友人から『黄金の経験値』をもらって、最後のご褒美にしたんだ。でも、どうやら長い時間、ガーディアンの体内にいれてたせいで、ガーディアンに使用された判定になってしまったのかもしれない」
「なるほど。それを手に入れるというのが、本来の筋書きだったと」
「悪いね、誠くん、せっかく頑張ったのに、肝心の宝物が手に入らなくて」
「いえ、大丈夫です。報酬は別にもらったと思ってるので」
「へえ、誰から?」
「誰からっていうのは……強いていうなら、志波姫ですかね」
「ほう」
樹人の剣士と出会ってから志波姫がすこし変になっていたこと。
俺は「失礼ですけど、元から志波姫のほうが、心景さんより強いと思ってて──」と素直にロジックを伝えて、起こした実際の行動を教えた。
「そういうわけで、俺はある意味、心景さんのおかげで強くなれたんですよ」
樹人の剣士を倒すために、熱意をもって過ごした1カ月半。
あの時間が俺を飛躍的に成長させた。それで十分である。
それに最も大事な目的、志波姫の答え合わせもすることができたしな。
「ふむふむ」
心景は腕を組んで、顎に手を添えて、納得したようにうなずいた。
「悪くない」
「? 心景さん?」
「僕のことは義兄ちゃんと呼んでくれてもいいかもしれない」
「呼びませんけどね?」
おかしなことを言い始めた。
いったいどうしたっていうんだ。
「神華は変わった。いい変化が訪れてる」
「そうですかね。相変わらず厳しいいじめにさらされてるんですけど」
「あの子が君をいじめるのは……いや、僕から言及するのは野暮かな」
「なんです、なにかあの悪鬼の悪意について心当たりがあるんですか?」
俺がたずねても、心景は薄く微笑むばかりで、何も答えてはくれなかった。
「久しぶりに神華と上手く話せたのも、誠くんが頑張ってくれたおかげなのかもね」
志波姫もそんなこと言っていたな。
「小骨がひとつ刺さったまま抜けていなかった。大したことではないにしても、動くたびに違和感が襲ってくるんだよ。互いに嘘をついてる。認知しながらスルーしなくちゃいけないのは、けっこう気まずいんだよ」
「なにはともあれ、関係が正常化できたのなら、よかったですよ」
「ふふ、他人のことなのに喜んでくれるんだね、誠くんは」
「え? まぁ、そう、すね……悪いことじゃないでしょう?」
我ながら焦っていた。言ってる通りなのだ。志波姫と兄貴のことを知ってる風に、喜んでいるのは俺の教義ではきしょいムーヴだ。部外者が共感してんじゃねえよ。俺が心景ならば思ってもおかしくない。
体温が熱くなって、自然と心景から視線を逸らしていた。
「あぁ、そういえば──」
だから、彼がなにかを言いかけた時、俺は意識を向ける余裕がなかった。
「099号室に赤い大きな樹があったんだけど、アレをどこへやったんだい?」
心景はついでという風に紡いだ問いかけ。
俺はその意味を理解するのに、しばらくの時間を要した。
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