弾打ち性能◎

 黒いシマエナガの咆哮を防ぎきり、剛材へ手をかざして『筋力で金属加工』し、形状を立方体に戻しておく。

 正面に展開したままでは視界が塞がれてしまうから、この動作は最速で行う必要がある。

 立方体に戻った剛材は再び、俺の周囲を漂い始めた。


「ちーちーちー」


 黒いシマエナガは翼を大きく広げ、ちょっとコミカルにも見える挙動で砂上を走り始めた。真っ直ぐ突っ込んでくる。


 『防衛系統・衛星立方体ガーディアンシステム・サテライトキューブ』はその性質上、8つの物体にスキル『浮遊』を使う。『浮遊』はMP100消費、それが8つで消費MP800。起動だけでこれだけの消耗だ。スキルコントロールの向上により効果時間は短くは無くなったが、継続するほど消耗は増えていく。なるべく早く決着をつけたい。


 俺は『重たい球』を手元に持ってきて、手をかざした。


 『筋力増強』+『筋力で飛ばす』 


「『鉄の残響ジ・エコー・オブ・アイアン』━━『打撃異常球体ストライクスフィア』」


 金属球体は高速で射出された。空気壁にぶつかり金属が共鳴し、甲高い悲鳴のような音が大地に鳥肌を強要する。

 黒いシマエナガは難なく回避しようとする。走ってきているのになんて反応速度だ。


「曲がれ!」

 

 弾き出した鉄球にスキル『曲がる』を発動する。遠隔でも発動できるようになったメリットを生かし、射線を曲げてホーミングさせた。

 

「ちー!」


 命中。鉄球は黒いシマエナガのふっくらボディに沈んだ。

 効果はなさそうだ。なんだろう。巨大な熊を相手に人間がパンチした感じだ。ぽすっと。それで「何かしたか」みたいなリアクションされてる。


 足りない。威力不足だ。

 次は威力を上げる。黒いシマエナガは1発目を避けたことで、ルートを変更し、最短距離で突っ込んできてない。今なら動きが止まっている。


 ならばお見舞いしてやろう。惜しまない打撃を。


 『筋力増強』×3+『筋力で飛ばす』


「詠唱破棄・五式」


 2発目の鉄球を打ち出した。変わらず『打撃異常球体ストライクスフィア』での射出だ。なお元々詠唱してないのに破棄してるとか細かいことを気にする人は嫌いだ。


 悲鳴と共に飛翔した豪速鉄球は狂いなく命中し、黒いシマエナガにふっくらボディにぽふんっと突き刺さった。


「バカな、なんて衝撃吸収性能だ……」

「ちーっちっちっち」


 ちょっと馬鹿にしたように笑いながら、黒いシマエナガは大地を駆け始める。

 生半可な攻撃ではまるで歯が立たない。流石は圧倒的な格上。倒すという発想は傲慢だったか?

 『筋力で引きよせる』で鉄球を回収する。素早く手元に戻ってきたのを受け止める。


 黒いシマエナガが突っ込んできた。翼で打つ攻撃。俺は剛材を盾状にしてガード。だが衝撃は伝わってきて、盾越しに押し出され、柵の向こうまで吹っ飛ばされる。背中を強打しないように『やわらかくなる』付与剛材を背面にまわしておいて衝撃から身を守る。


 ガードであの巨大質量の攻撃を防ぐのは危険だったか。基本は回避を試みたほうがいいな。


「ちー!」


 咆哮が再び放たれる。俺は尻餅ついた姿勢から『ステップ』で離脱し、攻撃を回避、すぐさま最大の攻撃力を準備する。

 手をかざし鉄球の形状を変化させ……しかし、攻撃の準備をさせてくれなかった。再び遠隔から咆哮による空気の塊が飛んできた。回避できない。剛材でガード。再び衝撃で吹っ飛ばされ、俺は競技場の壁に叩きつけられた。


「ちー!」


 今度は黒い羽が無数に飛んでくる。

 指向性をもったホーミング弾だ。


 俺はステップワークで回避することに集中し、攻撃を凌ぎきった。


「びーむちー!」


 しまいには目からビーム放ってくる。

 競技場を光線が駆け抜けて、砂のフィールド、トラック、応援席まで破壊の波が襲いかかる。


 おかしいな。なんか君白いシマエナガより攻撃パターン多くない? 凶暴すぎでは?


「ちーっちっちっち! がくせいよわいちー!」


 あとたまに喋ってる気がする。気のせいかな。


「くっ、調子に乗りやがって」

 

 黒いシマエナガは両翼を大きく広げ「ちーちーちー♪」と楽しそうに走って近づいてくる。でかい。怖い。なんて圧迫感だ。遊び殺される。

 

 恐怖心が湧き上がったが、グッと抑え込み、冷静を保ち、俺は作戦を変更した。

 遠隔でのやり取りでは埒が明かない。黒いシマエナガはインスタントに咆哮攻撃や、黒羽飛ばし、目からビームを使ってくる。弾撃ち性能◎。そしてその弾撃ちで、こちらの弾撃ちを潰す意識がある。

 最大威力の……いや、完全詠唱の『鉄の残響ジ・エコー・オブ・アイアン五式』を使うためには『筋力増強』×3+『筋力で飛ばす』に加えて『圧縮』+『とどめる』をするための時間が必要だ。つまりチャージ時間が必要なのだ。


 だが、時間は作りだすのは困難だ。 

 俺は作戦を変える必要がある。


「弾撃ち能力で負けているなら近づくほかないか」


 俺は指抜きグローブの位置を倒し、ぎゅっと拳を握りこむ。

 浮遊している『重たい球』に手で触れ『金属加工』を発動、グローブに液状金属が融合し固まった。

 総合格闘技で使われるオープンフィンガーグローブのようになった。これで打撃に優れた武器の完成だ。


 パンチを強化し、拳を守り、かつ両手のひらを自由に使える。

 名付けて『打撃異常手甲ストライクフィスト』。


「いくぞ、このもちもちデブ鳥野郎!」

「ちー!?」


 『筋力増強』×3+『瞬発力』+『ステップ』×2


「『星砕きの早駆けスターバーストスプリント』」


 赤茶けたタータンを踏み抜き、強力に大地を蹴り、身体を弾丸の如く弾きだす。


「ちぃぃ!?」


 こちらげ楽しそうに走りよってきていた黒いシマエナガは、びっくりして慌てて制止。いきなり接近戦を仕掛けたことに驚いたのか、あるいは俺のスプリント力をみくびっていたのか。つんのめり地面の上をボヨンボヨンっと跳ねてこけてしまった。大チャンス。 


 『星砕きの早駆けスターバーストスプリント』で使った『筋力増強』×3をそのまま拳に移動させ集中強化、血管の破裂と激痛を伴いながら、可能な限りの力を込めて、地面のうえをバウンドするふっくらボディに拳を突き刺した。被弾することなど考えるな。一撃に賭けろ。チェストぉぉぉお!

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