弾打ち性能◎
黒いシマエナガの咆哮を防ぎきり、剛材へ手をかざして『筋力で金属加工』し、形状を立方体に戻しておく。
正面に展開したままでは視界が塞がれてしまうから、この動作は最速で行う必要がある。
立方体に戻った剛材は再び、俺の周囲を漂い始めた。
「ちーちーちー」
黒いシマエナガは翼を大きく広げ、ちょっとコミカルにも見える挙動で砂上を走り始めた。真っ直ぐ突っ込んでくる。
『
俺は『重たい球』を手元に持ってきて、手をかざした。
『筋力増強』+『筋力で飛ばす』
「『
金属球体は高速で射出された。空気壁にぶつかり金属が共鳴し、甲高い悲鳴のような音が大地に鳥肌を強要する。
黒いシマエナガは難なく回避しようとする。走ってきているのになんて反応速度だ。
「曲がれ!」
弾き出した鉄球にスキル『曲がる』を発動する。遠隔でも発動できるようになったメリットを生かし、射線を曲げてホーミングさせた。
「ちー!」
命中。鉄球は黒いシマエナガのふっくらボディに沈んだ。
効果はなさそうだ。なんだろう。巨大な熊を相手に人間がパンチした感じだ。ぽすっと。それで「何かしたか」みたいなリアクションされてる。
足りない。威力不足だ。
次は威力を上げる。黒いシマエナガは1発目を避けたことで、ルートを変更し、最短距離で突っ込んできてない。今なら動きが止まっている。
ならばお見舞いしてやろう。惜しまない打撃を。
『筋力増強』×3+『筋力で飛ばす』
「詠唱破棄・五式」
2発目の鉄球を打ち出した。変わらず『
悲鳴と共に飛翔した豪速鉄球は狂いなく命中し、黒いシマエナガにふっくらボディにぽふんっと突き刺さった。
「バカな、なんて衝撃吸収性能だ……」
「ちーっちっちっち」
ちょっと馬鹿にしたように笑いながら、黒いシマエナガは大地を駆け始める。
生半可な攻撃ではまるで歯が立たない。流石は圧倒的な格上。倒すという発想は傲慢だったか?
『筋力で引きよせる』で鉄球を回収する。素早く手元に戻ってきたのを受け止める。
黒いシマエナガが突っ込んできた。翼で打つ攻撃。俺は剛材を盾状にしてガード。だが衝撃は伝わってきて、盾越しに押し出され、柵の向こうまで吹っ飛ばされる。背中を強打しないように『やわらかくなる』付与剛材を背面にまわしておいて衝撃から身を守る。
ガードであの巨大質量の攻撃を防ぐのは危険だったか。基本は回避を試みたほうがいいな。
「ちー!」
咆哮が再び放たれる。俺は尻餅ついた姿勢から『ステップ』で離脱し、攻撃を回避、すぐさま最大の攻撃力を準備する。
手をかざし鉄球の形状を変化させ……しかし、攻撃の準備をさせてくれなかった。再び遠隔から咆哮による空気の塊が飛んできた。回避できない。剛材でガード。再び衝撃で吹っ飛ばされ、俺は競技場の壁に叩きつけられた。
「ちー!」
今度は黒い羽が無数に飛んでくる。
指向性をもったホーミング弾だ。
俺はステップワークで回避することに集中し、攻撃を凌ぎきった。
「びーむちー!」
しまいには目からビーム放ってくる。
競技場を光線が駆け抜けて、砂のフィールド、トラック、応援席まで破壊の波が襲いかかる。
おかしいな。なんか君白いシマエナガより攻撃パターン多くない? 凶暴すぎでは?
「ちーっちっちっち! がくせいよわいちー!」
あとたまに喋ってる気がする。気のせいかな。
「くっ、調子に乗りやがって」
黒いシマエナガは両翼を大きく広げ「ちーちーちー♪」と楽しそうに走って近づいてくる。でかい。怖い。なんて圧迫感だ。遊び殺される。
恐怖心が湧き上がったが、グッと抑え込み、冷静を保ち、俺は作戦を変更した。
遠隔でのやり取りでは埒が明かない。黒いシマエナガはインスタントに咆哮攻撃や、黒羽飛ばし、目からビームを使ってくる。弾撃ち性能◎。そしてその弾撃ちで、こちらの弾撃ちを潰す意識がある。
最大威力の……いや、完全詠唱の『
だが、時間は作りだすのは困難だ。
俺は作戦を変える必要がある。
「弾撃ち能力で負けているなら近づくほかないか」
俺は指抜きグローブの位置を倒し、ぎゅっと拳を握りこむ。
浮遊している『重たい球』に手で触れ『金属加工』を発動、グローブに液状金属が融合し固まった。
総合格闘技で使われるオープンフィンガーグローブのようになった。これで打撃に優れた武器の完成だ。
パンチを強化し、拳を守り、かつ両手のひらを自由に使える。
名付けて『
「いくぞ、このもちもちデブ鳥野郎!」
「ちー!?」
『筋力増強』×3+『瞬発力』+『ステップ』×2
「『
赤茶けたタータンを踏み抜き、強力に大地を蹴り、身体を弾丸の如く弾きだす。
「ちぃぃ!?」
こちらげ楽しそうに走りよってきていた黒いシマエナガは、びっくりして慌てて制止。いきなり接近戦を仕掛けたことに驚いたのか、あるいは俺のスプリント力をみくびっていたのか。つんのめり地面の上をボヨンボヨンっと跳ねてこけてしまった。大チャンス。
『
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