ポメラニアン捕獲作戦1

 上級生たちといっしょに訓練棟へとやってきた。学園内でもおおくの時間を過ごす場所なので、実家のような安心感を感じる。

 体育祭実行委員会を監督しているジェモール先生が、俺たち生徒たちのほうへ向き直った。

 

「擬似ダンジョンの設定を変更しましたヨ。3年生は深い階層のポメラニアンと、2年生は浅い階層のポメラニアンをお願いしますヨ」

 

 ポメラニアン捕獲作戦は体育祭前には例年のように行われている。

 英雄高校体育祭は丸一日を通して行われる。代表者競技『探索者物語』は、いわゆる”普通の高校体育祭”が終わったあとに開かれる、英雄高校らしさ溢れる特殊な体育祭の側面とのこと。

 シマエナガギルド、ナメクジギルド、ハリネズミギルド、それぞれのチームから特殊な選定方法で選ばれた2名が、この名誉ある特別な舞台に参加することを許されている。そこで人工モンスターたちをもちいた独特な競技があるので、まあ、俺たちがいまから働くわけである。なお、探索者物語に選ばれるのは2年生、3年生の上級生からだけらしいので、俺にはあんまり関係なかったりする。


 シマエナガギルドの実行委員が集結する。

 3年生の1組と4組、2年生の1組と4組、合計8名が俺と志波姫を不思議そうに見てきた。


「この子たち1年生じゃなかったけ?」


 先輩が首をかしげて聞いてくる。明るい雰囲気の人で、ふわふわシュシュでサイドテールに桃髪をまとめている。端正な顔立ちで人気がありそう。ジャージの上着を腰に巻き付けており、上は体操着の半袖ポロシャツで薄着だ。おかげで豊かに押し上げる双丘の丸みのある輪郭が浮きあがっていて、視線が勝手に吸い寄せられてしまう。追い討ちをかけうように谷間を袈裟掛けに横切る紐がある。背中にライフル銃のようなものを背負っているのだ。目のやり場に困る。


「なんで君たちここにいるのー?」

「いや、俺たちにもなんでかわかんないです……」


 不用意に近づいてくる可愛い先輩。俺はそっと距離を取る。

 歳上の美女というのは非常に危険な存在だ。長年、専業ぼっちだった俺にとって、そもそも女子という生き物は、イニシアチブを取れない相手という意味で不利なのだ。人間対人間の関係性において、俺のほうが下になってしまうからである。客観的に見てどうかではなく、俺の意識のなかでだ。当然、可愛い女子はもっと危険だ。可愛くて、陽キャだともっと危険。そして、もっとも危険な相手が歳上&可愛い&陽キャ、である。

 

「彼らはオズモンド先生の推薦ですヨ。とっても優秀な生徒なので、ぜひ参加させてほしいト」


 ジェモール先生の言葉にうなづく先輩たち。上級生たちは話し合い、チームを分けていく。2名ごとで分かれていく。

 ふたり組か。本当に学校はふたり組が好きよね。この流れだと俺と志波姫が組まされるじゃん。


「それじゃあ、志波姫と赤谷でペアということでいいか」


 シマエナガギルドの代表である3年生の先輩が言った。

 

「失礼ながら、この男とふたりきりにされるのは貞操の危機を感じるので嫌です」


 志波姫は開いてもない襟元をたぐりよせ、湿度の高い眼差しを送ってくる。誰がお前のような慎ましいちみっこの胸など興味を持つか。


「あれ、あんまり仲良くない感じなのかな」

「いつも仲良くおしゃべりしてるのにね〜」


 からかってくる先輩たち。


「冗談にしても悪趣味すぎますよ。この男と仲がいい生物なんてナマズくらいです」

「残念だな、志波姫、実はナマズは可愛い顔しているんだ。ゆえにナマズと友達であることは罵倒にならない褒め言葉だありがとう嬉しいよ」

「わざわざナマズのことを検索して外的特徴を調べるあたり、以前の言葉が効いていたということ。あなた自身がナマズ目を悪口と認識している証よ。語るに落ちるとはこのことね」

「たとえ俺がナマズを悪口と認識してても、それは個人の感想にすぎない。知らんのか、今日ではナマズは市民権を得てるのだ、証拠にポキモンのドオーは人気ランキングで1位を獲得してる」

「ドオーはナマズじゃないわ。とげうおポキモンよ」

「なんでそんなこと知ってんだよ」


 ドオー、お前、ナマズじゃなかったのか……。


「赤谷くんと志波姫さんは1年生だし、2年生のペアに組み込んだらいい感じになるんじゃないですかー?」


 可愛い先輩が手をあげて3年生へ進言、すぐに「いいだろう」と受理された、


「それじゃあ、君たちは私たちといっしょにいこっか!」


 ずいっと身体をよせてきて、俺の腕に抱きついてくる先輩。

 あっ、いけません、先輩っ、胸が、あっ、あっ、お胸が、すごい、これは、まずい。


「赤谷君、初対面の女性に発情するのはよしなさい」

「べ、別に、なんとも思ってねーどおー!」

「動揺しすぎてドオーになってるけれど」


 なんやかんやで、俺と志波姫は2年1組の先輩たちのチームに組み込まれることになった。

 さっきの桃髪の可愛い先輩と、黒髪の白衣を着た男の先輩のペアだ。


「3年生は7階層までのモンスターを、私たちは4階層までのモンスターを捕獲すればいいんだよ。先生がエリアごとにモンスターの湧きを設定してくれているから、私たちのほうに深い階層のモンスターがくることはない、安心していいからね!」


 先輩は指をたて、饒舌に説明してくれる。説明中もどこを見ればいいのかわからない。顔は綺麗だし、お胸はあれだし。


「あっ、自己紹介がまだだったね。私は雛鳥ひなどりウチカ! よろしくね、赤谷後輩! 志波姫後輩!」


 そう言って、雛鳥先輩はニーっと明るい笑顔をうかべ、可憐な敬礼をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る