触手

 寮に戻り、スキルツリーを確認する。


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【本日のポイントミッション】

  毎日コツコツ頑張ろう!

 『2人前のペペロンチーノ』


 ペペロンチーノで唸らせる 2/2


【報酬】

 3スキルポイント獲得!


【継続日数】32日目

【コツコツランク】ゴールド

【ポイント倍率】3.0倍

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 今日もポイントミッションを達成し【継続日数】は32日だ。いい感じだ。


━━━━━『スキルツリー』━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:3

 スキルポイント:3

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『応用体力』   

  取得可能回数:4

 『発展魔力』   

  取得可能回数:4

 『応用防御』   

  取得可能回数:4

 『発展筋力』 

  取得可能回数:2

 『応用技量』   

  取得可能回数:4

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『応用敏捷』 

  取得可能回数:4 

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5

 『第六感』

  取得可能回数:1

 『筋力増強』  

  取得可能回数:2

 『ステップ』  

  取得可能回数:2

 『浮遊』    

  取得可能回数:1

 『放水』    

  取得可能回数:1

 『学習能力アップ』

  取得可能回数:1

 『ペペロンチーノ』 

  取得可能回数:3

 『手料理』     

  取得可能回数:1

 『温める』   

  取得可能回数:1 

 『触手』   NEW!

  取得可能回数:1 

 

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 今日もNEW!なスキルがございます。

 スキル名『触手』……え? 触手!? それってえっっっっな奴じゃ?


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『触手』

アクティブスキル

触手を伸ばせるようになる

【コスト】MP40


はいそうです 想像通りの触手です

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 まじですか。これ使えばいわゆる触手でプレイ的なことが……?

 興味を惹かれるという意味ではこれは強烈なスキルだ。

 

「触手、触手か……」


 熟考の末、本日は『ステップ』『浮遊』『触手』を解放した。

 一番オシャレだと思うのは『浮遊』だ。これは取るつもりだった。強そうだし。

 最大の興味はもちろん『触手』に向いているわけだが。


「ん」


 左腕がビクビクとうずく。奇妙な感覚だ。皮膚の下、蠢く物がある。シャツの袖をまくると左腕前腕、関節の辺りの皮膚におおきなイボのような物ができていた。鳥肌が立って、ぞくりと背筋が震えた。キモい……。

 全部で3つ、どれも肘関節に近い前腕にある。それぞれのイボがぱかぁっと開いた。皮膚の下からニュルッとした吸盤のないタコ足のような物が覗く。感覚がある。触感だ。これのキモいの触手だ。俺の触手だ。

 本来、人間の体にはない部位。存在しない生物器官。人類何億年もの進化のなかでこんな触手を腕から生やすという回答に至ったことは一度もないのだろう。これまでもこれからも。

 

「これコントロールできないな……」


 意識を集中させても、触手は俺の言うことを聞かない。厳密には聞いているのだが、思った通りに動かない。高いスキルコントロールを要求されている。まともに動かすには練習が必要だな。


 俺はジャージに着替えて訓練棟地下訓練場105号室へと足を運んだ。


 ステータスを眺めながら3本の触手を動かす。ふと思ったのが、右腕から樹を生やし、左腕から触手を生やすバケモノになってる気がする。


「まあええか」


 誰にも見られていないのでよしとする。見られたら赤谷君はおしまいだ。

 スキル『触手』は【コスト】MP40となっているが、厳密にはより小刻みにMP消費がされている。触手たちが開いたイボから出てきている状態で蠢くとMPが1、2、くらいずつ減っていく。

 他のスキルにも見られる現象だ。例えば『引きよせる』の【コスト】はMP10だが、物を引きよせて、途中でスキルの効果を切るとMP10消費はしなかったりする。逆に無理をして本来引きよせられないサイズの物に干渉することができる。その場合、かなり余分なMPを消費して『引きよせる』を強制実行できる。もっとも効果は著しく低下するが。


 触手の操作能力が少しずつあがってきた。

 判明したことは5つある。


 ①触手は最大で8mほど伸びる 

 ②最大まで一気に伸ばすとMP40を消費する

 ③触手は絶えず粘液を大量にまとっており、ちょっとやそっとでは触手自体は傷つかない

 ④触手には触感がある 刃物の先端で突くと地味に痛かった 血も出る ただし感覚は鈍い 常に麻酔が効いてるみたいだ

 ⑤触手にはパワーはない 


 触手の伸ばす速さはさほどなく、8m先まで伸びるまでは意外と時間がかかった。

 またその性質上、触手で触れたものが粘液で濡れる。

 缶ジュースを掴んで持ち上げることができた。潰すような握力はなかった。

 触手は自分から離れるほど先端の操作が難しい。8m伸ばすと手ブレならぬ触手ブレがひどい。この距離では物を掴むのは不可能だ。


「これは……練習が必要なスキルだな……」


 思ったより性能の低いスキルに俺はちょっと落ち込む。

 もっと練習してスキルコントロールが上達すれば新しい利用法があるかもしれないが……。

 問題なのが、パワーがないこと。鍛えればこの問題は解決するのか否か。現状ではなんとも言えない。

 

 利用方法を考える。俺の戦闘スタイルは鉄球で撃ち殺す、である。もし2発撃ち漏らした場合、接近されたら使いではあるかもしれないが……『筋力で飛ばす』で牽制を掛ければだいたいの状況を誤魔化せるので、わざわざノロマな触手で応戦する理由がない。そもそもパワーもスピードもイマイチなので応戦できない。

 まずい。戦闘シーンで触手くんの出番がない。


 では、発想の転換だ。柔軟な思考で利用価値を模索しよう。

 戦闘以外ではどうだろうか? 触手3本。スキルコントロールで練習して手足のように動かせるようになれば、いろいろ便利そうだ。

 これで彼女とえっちなことしたら盛り上がりそうだ。でも、残念、赤谷に彼女はいませんでした。てへぺろ。死にてえ。

 

「ん? 待てよ、これは……ユリイカ!」


 悪魔的なひらめきが脳裏をよぎった。

 これは……これはいける、いけるぞ!

 戦闘シーンに革命を起こせる、凄い、これならば俺の戦術の幅は広がる!

 俺は訓練場を飛び出した。擬似ダンジョンへ向かい、ポメラニアンに会うために。

 と、そこで人影と鉢合わせる。黒袴を纏う儚げな少女。薄い胸にタオルと水筒を抱えて、冷たい眼差しを送ってくる。ついでにため息も。


「あっ、志波姫、すごく良いタイミングいつも現れてくれるな」

「なにか用かしら。疲れてるのだけど」

「そこを動かないでくれるか。俺も本当はこんなことしたくはないんだ」


 人に嫌な思いをさせたいわけじゃない。

 俺のなかの悪魔的なひらめきを試したい欲求が抑えられないのだ。

 志波姫は察したような顔で「またはじまった」と、冷ややかなジト目を向けてくる。


 『瞬発力』+『触手』+『かたくなる』


 瞬発力で初速をおぎなった触手で対象に触れることで『かたくなる』の効果を遠隔から付与する! 対象の動きを固くし、移動速度にデバフをかけるのだ。触手という第三の腕を使えば、離れたところからでも手で触らないといけない系スキルを発動できるメリットがあるのだ。

 

「っ」


 志波姫はビクッとしてバックステップで触手の射程圏外へ軽やかに逃げてしまう。

 

「ちょ、なんで避けるんだよ、俺の完璧なスキルコンビネーションが決まるところだったのに」

「逆に大人しく受けると思ったのかしら。その身の毛もよだつ攻撃を」

「なんだ受けるのが恐いのか……」


 志波姫は眉をひそめる。非常に不服そうな顔。周囲の気温がガクッと下がった気がした。


 俺はこの少女のことを他人より少しだけ知っている。

 度重なる衝突のなかで気がついたのだ。志波姫神華は負けず嫌いである、と。


「その安っぽい挑発に乗るのは癪だけど、いいでしょう、スキルコンボとやら受けてあげる」


 志波姫はキリッとした顔で澄ました。


「喰らえ…………うーんと」

「どうしたの、はやく今の生理的に最悪な攻撃をしたら。わたしの時間は安くないのだけれど」

「待て待て、今、技名を考えてる…………『怪物的な先触れモンスタータッチ』!」


 『瞬発力』+『触手』+『かたくなる』


 撃ち出した触手で志波姫を攻撃する。

 しかし、攻撃する直前になって気が付く。

 あれ? これ触手で胸とか触ったら立派な犯罪になるんじゃあないだろうか。もしかしたら志波姫はそれを狙って俺を刑事告訴するために、あえて攻撃を受けようとしているのではないだろうか。というか、普通にモラル的な話で、女の子の体を好きに触るというのはちょっと俺の良心が……。


 迷った挙句、志波姫の直前で触手を寸止めし、先っぽで彼女の肩に軽くタッチするだけにとどめておいた。


「どうだ、動きにくくなっただろう。俺のスキル『かたくなる』が作用してるはずだ」

「……。接触系スキルを生理的に最悪な触腕で発動させたのね。たしかに動きづらいわ」


 実験は成功だ! やったぞ! 

 凍える眼差しで「普通に死ね」みたいな顔されてるが、たしかに得たものはあった!

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