圧縮

 部屋の隅っこを見やる。コンクリートブロックのようなものが置いてある。そのほか、鉄板だったり、人型の人形だったり。どれも訓練用の器材だろう。あれらは使っていいとのこと。消耗したら申請して買わないといけないらしいが。


 コンクリートブロックに近づく。名称は”特殊コンクリートプレート”というらしい。特殊な材質の丈夫なマトらしい。厚さはなかなかのものだ。横幅は1mほど。高さは俺の背丈━━170cm━━よりちょっと高いくらい。イカついハンドフォークリフトでが置いてあるので、あれで運べということだと思うが、面倒なので素手で引きずる。パワーがあればこんなこともできます。こんにちは、パワーです。そこ通りますね。


 訓練場の真ん中にいい感じに3つ縦に並べて設置。体はちょっと温まった。さあ、試しに『筋力で飛ばす』で遠くから撃ってみよう。バゴンッ! 激しくコンクリートに命中。走って近づいてみると、アノマリースフィアは特殊コンクリートプレートを1枚目を貫通し、2枚目に凹みを作って止まっていた。


 次は『筋力増強』+『筋力で飛ばす』で撃ち出━━ズガゴンッ! 会心の一撃みたいな音がした。あとには寂しげな悲鳴が残る。鉄球が異常な速度で打ち出され、振動した結果、独特の音響効果を放ったというのだろうか。

 生唾を飲んで、そっと近寄ってみると、我が鉄球は特殊コンクリートを2枚貫通し、3枚目にめりこんで止まっていた。最大火力更新。あぁ、なんというパワー。これでまた世の中の多くの問題を解決できるようになってしまった。


 『筋力増強』+『筋力で飛ばす』


 最強の組み合わせだ。『鉄の残響ジ・エコー・オブ・アイアン』と名付けようか。


「『筋力増強』に関してはこんなところか。次は『圧縮』っと」


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『圧縮』

アクティブスキル

高い圧力で圧縮する

【コスト】MP100


空気を圧縮するとプラズマになるらしい

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 空気を握るようにしてスキル発動。力場が生成されたのを感じる。外側から中心点へ向かって押しつぶすような力だ。かなり強い力だ。空気の流れが生まれ、同時に手元の空気が歪み、揺らぎはじめる。これは……どういう現象なんだ? 微妙に温かさを感じるが……スキルを解除してみる。爆発した。空気の破裂に巻き込まれて地面を転がった。


「いっつ……」


 外側から内側へ圧縮する力が解放され、内側から外側へ爆発的な衝撃力が生まれたのか。考えてみれば当然だった。気をつけないと怪我しそうだ。圧縮した時、空気が歪んで見えた。件の現象についてスマホで調べる。「空気、圧縮」検索っと。ほうほう。空気は圧縮されることにより体積が小さくなり、同時に温度が上がるのか。ふむふむ。圧縮された空気玉は高温になっていたのか。あのまま圧縮を続けたらどうなるんだ? さっきは怖くなって途中で解除してしまったが……。


 俺は恐る恐る『圧縮』を発動する。効果発動から10秒。スキルが解除されるのを感じた。空間を一部分歪ませている空気玉に『とどめる』を掛けて急いで離れる。『とどめる』の最大効果時間も10秒だ。俺は離れた場所で見守ろうとする。

 だが、1秒経過した直後、背後で耳をつんざく破裂音が訓練場に轟いた。同時に大きな衝撃に背中を叩かれ、吹っ飛ばされた。地面をゴロゴロと転がった。鈍痛が全身を緩やかに襲ってくる。


 『圧縮』+『とどめる』


 これは……まるで爆弾だ。おそらく『圧縮』解除時の爆発が『とどめる』で強化されたのだろう。ちなみに1秒でとどめる限界が来てしまった。とどめる物体のエネルギーが高すぎるとスキルは解除される。実験から知ってはいたが、まさか1秒未満で限界に達するとは。なんて運動エネルギーだ。

 『圧縮』単体であの爆発力を運用するとなると、俺の手元での使用になる。スキルコントロール次第では圧縮を一部だけ解除して、前方だけに圧力を解放することができるかもしれない。

 

 俺は『圧縮』を4回ほど練習して、スキルコントロールを向上させ、圧縮で空気を圧縮したのち、前方だけに放てるようになった。

 特殊コンクリートへ圧縮空気をぶつければ砕くことができた。爆発の衝撃力を一方向だけに集中させれば流石の威力だ。牽制に使うのなら十分すぎる威力だ。人間へ喰らわせれば体勢を確実に崩せるし、かなり広範囲へまとめて干渉できる。

 だが、圧縮してから空気を解放するため、速攻性はない。素早い戦闘のなかで運用するのは難しい。何より空気を放って牽制するのなら『筋力で飛ばす』で十分だ。威力は『圧縮』のほうがずっと大きいが、速攻性も、消費MPも、あらゆる面で『圧縮』を使う理由がない。


 空気への検証はこんなところか。

 次は物体に『圧縮』を使ってみよう。特殊コンクリートの破片を手に取る。バスケットボールくらいのサイズだ。

 

「スキル発動……おお」


 バスケットボールが、テニスボールになった。

 スキル解除。爆発はしない。ふむ。『圧縮』によってギュッとされた物体は、そのままだ。体積が減っても質量はそのまま。重たく、硬い。インスタントに鉄球サイズの物体を手に入れられる。使い出はありそうだ。『筋力で飛ばす』の最適な大きさだ。アノマリースフィアを撃ち出したあとなら、第三の弾として使える。威力は落ちるだろうが。ただ、これも咄嗟には使えない。圧縮するまで時間がかかる。スキルコントロールを上達させれば圧縮時間は短くできそうだが……練習してから再度、使い方を考えていくしかないか?


「ん?」


 色々試していくなか、俺は悪魔的なひらめきを得た。これとこれとこれを組み合わせたら……はっ! 最強できた! すぐにでもアイディアを試したくなって、俺は訓練場の真ん中に新しい特殊コンクリートプレートを並べた。


 『圧縮』+『筋力増強』+『筋力で飛ばす』


 破砕音が響きわたった。コンクリートプレートが1枚、2枚、3枚……綺麗に貫通し、4枚目にめり込んで止まっている。成功だ。最大火力を更新した。発射まで時間はかかるが理論最高火力だ。

 『圧縮』を使うことで、冷蔵庫ほどの体積の空気をちいさくし、その爆発力で持ってさらに鉄球を勢いよく放った。結局のところ鉄球の推進力を上げただけである。つまり、パワー。すべてのスキルはパワーに繋がっているということが、はっきりとお分かりいただけるだろう。

 

 『鉄の残響ジ・エコー・オブ・アイアン二式』完成である。自分の才能が恐ろしい。


「ん。待てよ、あれも使える……か」


 悪魔的ひらめき、その2。

 俺は突き動かされるように、さらにスキルを追加する。


 『圧縮』+『とどめる』+『筋力増強』+『筋力で飛ばす』

 

 圧縮された空気が『とどめる』により威力を蓄積され、倍増され、最大の衝撃力で爆発、衝撃力はスキルコントロールにより前方だけに集中し、放たれる鉄球の背中を強力に推してくれる。これにより『筋力で飛ばす』の初速をバックアップするのだ。

 空気が悲鳴をあげて超高速で放たれた鉄球が特殊コンクリートを撃ち抜いた。俺の視界に映っている1枚目が飛翔隊のエネルギーに耐えかねて、波打って、粉々に砕け散った。

 恐る恐る貫通した特殊コンクリートを数えた。粉砕して原型をとどめていないのが最初の1枚、風穴を穿たれているのが5枚……7枚目で鉄球は止まっている。合計6枚貫通。

 『鉄の残響ジ・エコー・オブ・アイアン三式』……我がパワーはとどまることを知らない。自分の才能が恐ろしい。

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