4つ目の種子:動きだす悪意
キモいクルミだ。もしやこの猫が俺のを?
「にゃあ(訳:アイザイア・ヴィルトの種は財団に回収されると面倒だから、赤谷くんが気絶してるうちに回収させてもらったにゃん)」
「やっぱりそうか、ツリーキャットが持ってたのか。てっきりどこかに落として失くしたのかと思ってたよ。ん。色合いが変わってないか? もっとどす黒い邪悪な感じだったような気がするんだけど」
「にゃん(訳:種子の性質は邪悪によりやすいけど、普段から悪属性なわけではないにゃん。この種子もさっきまで黒かったけど、シードホルダーの手を離れたおかげで自浄作用が働いているにゃん)」
シードホルダーの元にあるとだんだん黒くなっていくということか。
黒ければ黒いほど相手の心を強く侵食しているのだとか。同時に所有者を大幅に強化している可能性が高いらしい。
「にゃんにゃーん(訳:これほど黒く染まった『
キモいクルミは所有者の力を増加させる。
ヴィルトは俺よりずっと強いはずだ。そこにクルミ分上乗せされれば……なんで俺が勝ったのかよくわからないな。スキルの相性と状況━━戦闘状況へ移った際の位置関係、消耗率、地形、相手の能力を知っているか否か━━があるから戦闘能力の高い方がいつでも勝つとは言えない。俺は彼女のメインウェポン『クレイジースイス』についてある程度、彼女本人から聞いていた。まあそれを加味しても運が良かったとしか言えないが。
「にゃにゃにゃ(訳:もしかしたら彼女のなかの正気が、力を最大限解放することを抑制していたのかもしれないにゃん。あの娘と仲良くなってて運がよかったにゃん。見ず知らずの他人だったらきっとワンパンされて終わりだったにゃん)」
ヴィルトとはトレーニングルームでそれなりの付き合いを築いてはいた。学年の二大美姫の片割れ、銀の聖女と崇められる彼女にとっては俺など取るにたらない視界に映り込むハエ程度の認識だと思っていたが……それなりにひとりの人間として認知されていたのかな。本人に聞かないとわからないが。
「ヴィルトは大丈夫なのかな。あいつ、きっとあんたことしたくなかったと思うんだ。悪者扱いされたら可哀想じゃないか」
「にゃにゃん(訳:可哀想にゃ? あの子の綺麗な顔を躊躇なく殴りつけた暴力男とは思えない発言にゃん)」
「それはそれ、これはこれ。パワーでしか解決できないこともある」
先日、図書館で読んだ自己啓発本『力とはパワーである(著:赤木英雄)』にも暴力による紛争解決こそが最も効果的だって書いてあった。
「キモいクルミのことをちゃんと話せばヴィルトは悪くないって知ってもらえると思うんだ。ツリーキャット、証人になってくれよ」
「にゃにゃ(訳:アイザイア・ヴィルトは精神汚染されたと診断されるだろうから、どのみち問題はないにゃん。財団もチェインの存在を感じているから事情はわかってくれそうにゃ)」
「チェイン?」
「にゃん(訳:黒鎖にゃん)」
「要領を得ないな。黒鎖、事情聴取でもそんなこと言われた気がするけど」
「にゃんにゃん(訳:私も自分なりに調査をしていたにゃん。黒鎖、通称チェイン。財団がマークしてる危険な犯罪者の呼び名にゃあ)」
「チェイン……そいつが今回の事件に関係してるのか)」
「にゃあ(訳:事情聴取の時に窪んな目元に不気味な男のことを聞かれたはずにゃん。そいつがチェイン。彼はどういう訳か意図的にダンジョンホールを起こす手段を持っているようにゃん)」
「あぶねえなんてもんじゃねえな。超危険人物じゃん」
「にゃあにゃあ(訳:その通り。俗に崩壊論者とも呼ばれる大きな悪意。百害あって一利なし。ついでに言えば私から11個の『
「そういえば、訳あって失くしたとか言ってたっけ」
「にゃん(訳:そうにゃん。『
崩壊論者。社会の秩序をみだす危険な存在だと歴史の授業で習った。歴史的な事件を数多く起こしており、今日でも同類の奴らは存在する。
崩壊論者は往々にして神秘の力を悪用することで想像を絶する破壊と破滅をもたらすらしい。有体に言えば、頭のとち狂った奴らってことだ。きっと、チェインとか言うやつも、キモいクルミをばら撒いて混乱をもたらすことを楽しんでいるんだ。
「にゃんにゃあ(訳:赤谷くんにお願いがあるにゃん。チェインに奪われた『
「かまわない。そいつは俺も気に食わない野郎だ」
「にゃんにゃん(訳:本当にゃん? よかったにゃん、赤谷くんは本当に頼りになるにゃん。回収した『
キモいクルミを回収することは俺の利益につながる。
同時にチェインはヴィルトを邪悪へ誘った悪意そのものだ。
これまでとやることは変わらない。俺は種の力で邪悪に染まった者からキモいクルミを取り上げれば良いのだ。今はその悪意の正体が明確になっただけだ。
「しかし、どうしてキモいクルミのことを財団に知られたくないんだよ」
「にゃんにゃあ(訳:それは秘密にされるべき力にゃん。人間の興味を引きすぎるにゃん。過ぎた魅力は人のあり方さえ歪めるにゃん。赤谷くんだから私は託そうと思えたにゃん。正義の心をもち、あとは……あんまり頭が良くないから)」
「ん? なんか言ったか?」
「にゃん(訳:気のせいにゃん。こほん。ダンジョン財団も一枚岩ではないにゃん。スキルツリーの持つ価値は狂気的な学者たちをさらに血眼の狂気に誘うことは火を見るより明らかにゃん。とにかくスキルツリーのことは誰にも知られたくないにゃん)」
ツリーキャットがそれを望むのならそうしてやろう。
元々、この力はこの猫がもたらしたものだ。俺の都合の良いように使わせてもらっている分、この猫の意向に添うことになんの躊躇があろう。なにより俺は道理を通したい。恩人、いや、恩猫の頼みを無下にはできない。
「にゃんにゃあ(訳:ところで赤谷くん、今日のポイントミッションはもう完了したにゃん?)」
「あ」
血の気が引いていく。スーッと冷たくなっていき、慌ててステータスを洗面所で確認した。
━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━
【Skill Tree】
ツリーレベル:2
スキルポイント:0
ポイントミッション:『外周』
【Skill Menu】
『基礎体力』
取得可能回数:4
『基礎魔力』
取得可能回数:1
『基礎防御』
取得可能回数:4
『発展筋力』
取得可能回数:2
『基礎技量』
取得可能回数:2
『基礎知力』
取得可能回数:5
『基礎抵抗』
取得可能回数:5
『基礎敏捷』
取得可能回数:5
『基礎神秘』
取得可能回数:5
『基礎精神』
取得可能回数:5
『第六感』
取得可能回数:1
『瞬発力』
取得可能回数:2
【Completed Skill】
『応用筋力』
取得可能回数:0
『基礎筋力』
取得可能回数:0
『かたくなる』
取得可能回数:0
『やわらかくなる』
取得可能回数:0
『くっつく』
取得可能回数:0
『飛ばす』
取得可能回数:0
『引きよせる』
取得可能回数:0
『とどめる』
取得可能回数:0
『曲げる』
取得可能回数:0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今日のポイントミッションは『外周』か。
もう夕食の時間だ。急いでこなさなければ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『外周』
英雄高校の敷地を外周する 10/10
【報酬】
2スキルポイント獲得!
【継続日数】20日目
【コツコツランク】シルバー
【ポイント倍率】2.0倍
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門限ギリギリに男子寮に戻った。
なんとかミッションは完了だ。
綺麗になった新しい自室で、ツリーキャットが優雅に待っていた。
「にゃんにゃん(訳:そういえば、種を食べるのを忘れているにゃん)」
言われてみればその通りだったので、風呂場でキモいクルミをありがたく食した。激しい痛みと共にツリーがまた一段と大きく成長したのを確認し、俺はステータスを開いた。
━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━
【Skill Tree】
ツリーレベル:3
スキルポイント:2
ポイントミッション:完了
【Skill Menu】
『基礎体力』
取得可能回数:4
『基礎魔力』
取得可能回数:1
『基礎防御』
取得可能回数:4
『発展筋力』
取得可能回数:2
『基礎技量』
取得可能回数:2
『基礎知力』
取得可能回数:5
『基礎抵抗』
取得可能回数:5
『基礎敏捷』
取得可能回数:5
『基礎神秘』
取得可能回数:5
『基礎精神』
取得可能回数:5
『第六感』
取得可能回数:1
『瞬発力』
取得可能回数:2
『筋力増強』 NEW!
取得可能回数:3
『ステップ』 NEW!
取得可能回数:2
『圧縮』 NEW!
取得可能回数:1
『浮遊』 NEW!
取得可能回数:1
【Completed Skill】
『応用筋力』
取得可能回数:0
『基礎筋力』
取得可能回数:0
『かたくなる』
取得可能回数:0
『やわらかくなる』
取得可能回数:0
『くっつく』
取得可能回数:0
『飛ばす』
取得可能回数:0
『引きよせる』
取得可能回数:0
『とどめる』
取得可能回数:0
『曲げる』
取得可能回数:0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
また新しいスキルが増えてらぁ。
「にゃんにゃあ(訳:スキル解放は計画的に。さて赤谷くん、今日はどんなスキルを獲得するにゃあ?)」
『俺だけスキルツリーが生えてるダンジョン学園』第一部完
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こんにちは
ファンタスティックです
これにて『俺だけスキルツリーが生えてるダンジョン学園』のカクヨムでの連載は終わりとなります。カクヨムコンテスト8のための10万字が書けましたのでここで一旦区切るのが良いかなっと思った次第でございます。
赤谷誠の物語はまだ続きます。大きな悪意は動き出し、平和な学園生活をすこしずつ脅かすことになり、赤谷誠は巻き込まれていきます。志波姫とはすこしずつ仲良くなれる……かもしれない。仲良くなったらもっとデレてくれる……かもしれない。まあ、この後の展開はそんな感じを予定しています。
とまあ、完全にここで終わる雰囲気出してますが、実はノベルピアというサイトで連載を続けます。
毎日投稿か、2日に1回か、3日に1回か、まだ決めかねていますが、それなりの頻度で物語を出そうと思っております。
新しくノベルピアのアカウントを作らないと読めないですし、プラットフォームが変わるしでご不便をおかけしますが、カクヨム同様、無料で読めますので「続きを読んでもいいよ」という方はノベルピアの連載を追ってくださると嬉しいです。
ちなみに「なんでわざわざ投稿サイト変えるんだよ! 面倒じゃい! ぶち殺すぞ! てめえは黙って書いてればいいんだよ、たこ!」と思うかもしれませんが、実はですね、これはお金の問題なのです。詳しいことは省きますが、ノベルピアで読んでもらえると作者:ファンタスティックに還元される報酬額が増えるのです。お金持ちになれるのです。私もお金持ちになりたいです……。なので協力してくれるともっとピザが食べれてファンタスティックは幸せになれるのです。よろしくお願いします。
あとがきが長くなりました。
最後に、本作をここまで読んでくださりありがとうございました。
応援してくださった読者の皆様のおかげで続けることができました。
ちなみに次話は既にノベルピアに投稿されてます。
今度はノベルピアのあとがきで、あるいは別の作品でお会いしましょう。
失礼いたします。
ファンタスティック小説家
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