曲げる
志波姫の拳が鳩尾を打ち抜き、俺は胃の内容物を吐き出しながら崩れ落ちる。
「ぐへ、理不尽な暴力……っ」
「自分の行いを省みてから口を開きなさい」
「悪い……」
「それだけで足りると思っているならそろそろ頭蓋を開いて脳の密度を確認する必要があるわね」
「本当に悪いと思ってる、ごめん」
「謝るなら最初からするべきじゃないわ」
「おっしゃる通りです。今回は……というか今回も全面的に俺が悪い気がする。8:2くらいで俺が悪い」
「10:0」
志波姫の凍える眼差しが怖かった。
不機嫌は直りそうになかった。
俺は適当なことを言って、逃げるようにその場をあとにした。
志波姫は今回も寛大な心を見せてくれた。
刀を抜かず、俺を見逃してくれたのだ。
あいつは嫌なやつだが、地味に優しいところもあるのだなと、俺は心証を改めざるを得なかった。腹パンされたけど。
寮に戻って、洗面台でスキルツリーを展開する。
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【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 60 / 100
魔力 280/ 300
防御 0
筋力 30,000
技量 300
知力 0
抵抗 0
敏捷 0
神秘 0
精神 0
【Skill】
『基礎体力』
『基礎魔力』×3
『基礎技量』×3
『発展筋力』×3
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『飛ばす』
『引きよせる』
『とどめる』
【Equipment】
『スキルツリー』
━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━
【Skill Tree】
ツリーレベル:1
スキルポイント:0
ポイントミッション:『ポメ狩り』
【Skill Menu】
『基礎体力』
取得可能回数:4
『基礎魔力』
取得可能回数:2
『基礎防御』
取得可能回数:5
『発展筋力』
取得可能回数:2
『基礎技量』
取得可能回数:2
『基礎知力』
取得可能回数:5
『基礎抵抗』
取得可能回数:5
『基礎敏捷』
取得可能回数:5
『基礎神秘』
取得可能回数:5
『基礎精神』
取得可能回数:5
『曲げる』
取得可能回数:1
【Completed Skill】
『応用筋力』
取得可能回数:0
『基礎筋力』
取得可能回数:0
『かたくなる』
取得可能回数:0
『やわらかくなる』
取得可能回数:0
『くっつく』
取得可能回数:0
『飛ばす』
取得可能回数:0
『引きよせる』
取得可能回数:0
『とどめる』
取得可能回数:0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『ポメ狩り』
ポメ狩り 0/20
【継続日数】16日目
【コツコツランク】シルバー
【ポイント倍率】2.0倍
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本日のポイントミッションも『ポメ狩り』か。
2日連続のポメ狩りだ。
よかった。昨日のうちに『基礎魔力』を増やしておいて。
腕を噛ませて近接パワーアタックを仕掛けなくて済む。
勤勉に学校生活を頑張り、放課後になった。
「ポメ1匹あたりに使えるMPは20ってところか。MP30使ったら赤字だ」
俺は自分のMP残量と相談しながら擬似ダンジョンへ足を踏み入れた。
もちろん、手に握るのは2階層のジャーキーだ。
本当のダンジョンに挑む時のために、可能な限り深い階層のモンスターと戦い経験を積んでおきたい。
「ぽめえ!」
出たな、邪悪なるポメラニアン。2匹も同時に来たか。
2階層で2匹は初めてかもしれない。
牙を剥き出しにして襲い掛かってくる。
「HPも装甲も雑魚なのに近づかせると思うか?」
俺はトランクをがパッと開き、我が愛武器:ザ・アノマリースフィア━━名付けた。かっこいい━━を2発連続で放った。アノマリースフィアはダンジョンポメラニアンたちを一撃で打ち砕き、光の粒子に変換してしまった。
防御? いらないいらない。
体力? いらないいらない。
敏捷? いらないいらない。
「ふっ、近づかれなければどうと言うことはない」
これが俺のやり方だ。
経験値を忘れずに回収しておく。
ねえ、あのところで、疑問なんですけど、俺のレベルアップはどこにいっちゃたんですかね。経験値は確実に回収してるはずなんですが。
「俺って本当に才能ないんだな……スキルツリーに出会えてよかった」
俺はたびたびスキルツリーへの感謝と愛を再認識させられながら放課後のポメ狩りを続けた。
現状の俺の戦術ならば、ダンジョンポメラニアン2匹までなら高確率でワンショットワンキルを期待できる。アノマリースフィアこと『重たい球』は2個あるからだ。
ただ3匹目が出てくるつ話が少し変わってくる。
アノマリースフィアは手元に戻すまで時間がかかってしまうので、すぐには仕留められないのである。パンチで殺せるが、相手はすばしこいのでやはり動きを止めなければ当たりっこない。
なので、現状の戦術は3匹目のポメ、および不意打ちポメなどに対しては『飛ばす』で押し出した空気をぶつけて牽制し、その間にアノマリースフィアを回収し、再度三発目を放つのが良さげになっている。
なお昨日解放した『とどまる』をポメに直接試してみたが、動きをスローにすることはできなかった。スキルが無効化される感覚から想像するに、単純な運動をとどめることにしかできない気がした。生物などに使うと、体内巡る血液などによって、運動の方向が多様に、不規則に巡っている。
つまり情報量が多すぎるのである。『とどめる』が通用するのは、少ない情報量の運動に対してだけなのだ。
飛んでくる石をゆっくりしたり、重力に従って落ちるボールをゆっくりにしたり、つまりはそういう使い方しかできない。
実際に戦闘をすると学べることが本当に多い。
今回のポメ狩りでも俺はたくさんの発見を得た。
なおいくつか火力コンボは思いついたりはしているが、それを使う機会はなかった。なぜなら現状ではポメをワンショットワンキルできているので、これ以上の火力は必要ないし、なんならスキルを組み合わせるということはそれだけでMPを多く使うことを意味するので、コスパが悪くなってしまうのだ。
「まさか、コスパを気にすることになるとはな」
少し前まではスキルを組み合わせて喜んでいた俺だが、今は『少ないMPで強力なスキルくれ』というやさぐれた欲求を抱くようになってしまった。
昔は変形合体ロボットによろこんでいたのに「変形する意味なくね?」とか思い始めてしまった小学校高学年の頃を思いだす。
まあ、スキルの組み合わせ自体は楽しいし、無限の可能性を見せてくれるので、これからも新しいコンボを追い求めていきたい所存であるが。
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『ポメ狩り』
ポメ狩り 20/20
【報酬】
2スキルポイント獲得!
【継続日数】17日目
【コツコツランク】シルバー
【ポイント倍率】2.0倍
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寮に戻り、洗面所で早速ポイントを割り振る。
━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━
【Skill Tree】
ツリーレベル:1
スキルポイント:2
ポイントミッション:完了
【Skill Menu】
『基礎体力』
取得可能回数:4
『基礎魔力』
取得可能回数:2
『基礎防御』
取得可能回数:5
『発展筋力』
取得可能回数:2
『基礎技量』
取得可能回数:2
『基礎知力』
取得可能回数:5
『基礎抵抗』
取得可能回数:5
『基礎敏捷』
取得可能回数:5
『基礎神秘』
取得可能回数:5
『基礎精神』
取得可能回数:5
『曲げる』
取得可能回数:1
【Completed Skill】
『応用筋力』
取得可能回数:0
『基礎筋力』
取得可能回数:0
『かたくなる』
取得可能回数:0
『やわらかくなる』
取得可能回数:0
『くっつく』
取得可能回数:0
『飛ばす』
取得可能回数:0
『引きよせる』
取得可能回数:0
『とどめる』
取得可能回数:0
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さてどれに振ってやろうか。
「うーん、防御、敏捷……こいつらがあれば戦闘ずっと楽になるんじゃ……? ええい、ダメだダメだ、それは甘えだ! 欲しがりません、勝つまでは」
俺は漢気の筋力へ指先を伸ばそうとする。
「ここで筋力への原点回帰……? はっ! いかんいかん、気を抜いたら筋力にポイントを注ごうとしてる……!」
意志の力で俺は『基礎魔力』と『曲げる』を解放した。
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【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 26 / 100
魔力 50/ 400
防御 0
筋力 30,000
技量 300
知力 0
抵抗 0
敏捷 0
神秘 0
精神 0
【Skill】
『基礎体力』
『基礎魔力』×4
『基礎技量』×3
『発展筋力』×3
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『飛ばす』
『引きよせる』
『とどめる』
『曲げる』
【Equipment】
『スキルツリー』
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よしよし、『基礎魔力』のおかげで順当にMPが増えている。
これでMPに余裕を持てるようになるだろう。
「して『曲げる』か」
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『曲げる』
アクティブスキル
触れた物体を曲げる
【コスト】MP 10
まっすぐ進むことがそんなに偉いか
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手始めに俺はスプーンを曲げてみる。
触れた状態でスキルを使うと、おお、曲がった。
俺の意識した方向へ曲がってくれる。楽しい。
今度はくしゃくしゃに丸めたティッシュを放り投げる。
丸めたティッシュはヘタっと床の上に落ちた。
投げた物の軌道を曲げるという意味で使おうと思ったのだが。
「難しいな。意味が違ったか」
スキルの説明には『触れた物体を曲げる』とあった。
おそらく投げた物の軌道を変更するのは能力の範囲外なのだろう。
曲げられる物の大きさをなどを確かめる。
頑張れば金属や、階段の手すりなども曲げられた。
ただ、曲げる素材の強度が高かったり、あるいは曲げる箇所が手元から遠いほど、おおきな疲労感があとから襲ってきた。これは他のスキルにも言えることなのだが、効果以上のことを成そうとすると、途端に全身に乳酸が溜まったような感覚に襲われる。
「にゃあ(訳:ご無沙汰してるにゃ。赤谷くんは元気そうにゃ)」
「ツリーキャットじゃないか。大丈夫か、お腹空かせてなかったか? ちゃんと温かいところで寝てたか?」
「にゃん(訳:大丈夫にゃん。私は猫にゃ。人間は猫になんでも貢ぐにゃん。余裕で生き抜けたにゃん)」
「寂しかったり、ひもじい思いをしてるんじゃないかと心配だったぞ。でも、よかった、その様子ならいい人のお世話になってたんだな」
「にゃん(訳:赤谷くんは心配性だにゃん。ところで、スキルツリーはその後、どうにゃん。使いこなしているにゃん?)」
「しっかりとスキルを解放してるぞ。でも、曲げるの使い道がいまいちピンと来なくて」
「にゃん(訳:スキルの使用は想像力が大事にゃ。それと柔軟な思考力も重要にゃ。赤谷くんはもしかしたら無意識の固定観念に囚われているかもしれないにゃ)」
「無意識の固定観念?」
「にゃん(訳:例えば、スキル発動のタイミングを遅らせるとか)」
ツリーキャットは目してじーっと見つめてくる。
夜のなかで怪しく光る黄色い瞳は沈黙で伝えてくる。
無意識の固定観念を取り払う。
「飛べ、そして曲がれ」
呟きながら小銭を投げる。
小銭たちは窓へ向かって飛んでいったかと思うと、緩やかなカーブを描いてまがり、べしべしっと硬く壁をノックした。
「にゃん(訳:見事にゃん。言った側から実施できる者は少ないにゃん。スキルの柔軟な使い方は、本人のテクニックで決まるにゃん。技量ステータスだけじゃないにゃん。たくさん練習してスキルコントロールを上達させるにゃん)」
スキルコントロール……これがあれば出来ることが増えるかもしれない。
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