第5話 ルール

 妄想異世界に接続するようになってから、いくつか分かったことがある。


 現代世界と妄想異世界の行き来は、かなり自由に出来る。ほんの一瞬だけとか、寝ている間とかで片方の生活を過ごす事が可能だった。


 例えば妄想異世界を旅している間は、現実世界の僕は眠っているようだ。向こうの世界から戻ってくると、翌朝の丁度良い時間になっていたりする。でも、ほんの一瞬だけ目を閉じて、妄想異世界で1日を過ごす事も出来る。その間、現実世界の僕は目を閉じた一瞬だけの時間しか過ぎていない。


 二つの世界は、同じ時間が流れていない。一方は遅かったり、一方が早かったり。

だけど、流れた時間を僕は体感している。普通の人と比べて僕は、ニ倍以上の時間を過ごしているように感じていた。だけど実際は、2つの世界に僕が居る。それぞれの僕が体験した時間は、共有されない。記憶だけ共有されるようだ。でも、なんとなく体の成長は早いような気がする。もしかしたら、何かしら共有しているのかも。


 そうすると、僕は他の人よりも老化のペースが早いのか。人よりも早く、年老いて老人になってしまう可能性がある。どうなんだろう。それはまだ、わからない。


 こんな風に、わからないことも多くある。


 好きな時に、二つの世界を行き来することが出来る。しかし、過去に戻ったりすることは不可能だった。


 必ず、接続を切った時点から後の時間に戻れるようになっている。それより前や、全く別の時点に意識を戻すことは出来ない。意識を戻す時点でセーブを行って、そのセーブデータを読み込むような感覚だった。セーブ地点から、ゲームを再開するような感じだろうか。


 そして、意識を戻す時に物を持ち込むことが出来た。手に握っておけば、そのままお互いの世界に持ち込めることを発見した。


 例えば、現実世界でボールペンと紙を両手に握って妄想異世界へ。すると、僕は手にボールペンと紙を持ったまま、妄想異世界へ行くことが出来た。なんと、その逆も可能だった。


 向こうの世界から、拳サイズぐらいの魔石を持って帰ってきた。黒くて硬い石だ。魔力を流し込むと、赤や緑に光る石。そして、魔力を溜め込む性質を持っている。その石を現実世界に持って帰ってきた。現実世界へ戻ってくる時に、手の中に握って。


「うーむ」


 自分の部屋で、持って帰ってきた石を眺める。ゴツゴツしているだけの石だった。残念ながら、光る様子はない。この世界に魔力が存在しないからなのか。現実世界の僕が、魔力を有していなからなのか。とにかく、魔石を現実世界に持ち込んでみたら普通の石に変わってしまった。


 だけど、向こうの世界から持ち込めることを確認した。僕の妄想が、ただの妄想ではないことの証拠。


 もしかしたら、無意識のうちに庭から石を拾ってきた、という可能性もあるけど。疑いだしたら、確認する方法なんてない。あの世界が本当に存在しているのかどうかなんて。本当は、僕の妄想した世界なんじゃないのか。


 とにかく、異世界から持ち込んだ魔石は、自分の部屋に飾っておいた。


 こんな風に、現実世界と異世界で物を持ったまま行き来することも発見した。どうやら、この持ち運びにもルールがある。必ず、手に持ったまま行き来すること。体に身につけたり、背負ったりしても持っていくことは出来ない。服とかアクセサリーとか、持っていくことは出来なかった。身につけずに、手に握ったら持っていける。


 それから、あまり大きなサイズの物は持ち込むことが出来ない。妄想異世界に枕を持っていく事は出来なかったし、剣や防具を現実世界へ持ち帰ることも出来なかった。


 その他にも、細かいルールがあるようだ。何故か持っていけなかった物、持ち帰ることが出来なかった物もある。それが、どういう理由なのか分からない。一度試してみるしか、確かめる方法がない。


 色々と試してみて、そういったルールを見つけていった。これからも、探ってみるつもりだ。二つの世界の生活を満喫しながら。

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