第6話 冒険者登録
ようやく王都に到着した。そこは、かなり大きな街だった。商人に兵士に冒険者に街の住人など、非常に多くの人達が通りを行き交っているのが見える。
まず、冒険者ギルドに直行する。何よりも先に、冒険者の登録を済ませてしまおうと考えたから。ここまで来た目的を果たす。
大きな街だから、ギルドの建物を探すのにも苦労した。通行人に建物がある場所を聞きながら、なんとか辿り着くことが出来た。
「ここが、冒険者ギルド……!」
冒険者ギルドの建物の前に立った時、僕は緊張していた。その建物にの中に入って受付に行き、冒険者の登録を済ませるだけなのに。
まるで、強敵モンスターと戦う直前のような緊張感を味わっていたのだ。そんな、緊張する必要はないと分かっているのに。
クルトである僕が、昔からの憧れだった冒険者になる。その時がやってきたと思うと、どうしても気持ちが落ち着かなかった。
「すー、はー。……よしッ!」
何度か深呼吸をして、心を落ち着けてから建物の中に入る。そこには、屈強な男や歴戦の戦士といった雰囲気の男、魔法使いのローブを着た女性などがいた。僕と同じぐらいの若い少年や、少し年上と思われる青年もいれば、中年や老人などもいた。
彼ら全員が冒険者なのだろう。
そんなギルドの雰囲気を味わいながら、受付に向かう。おそらく、そこが冒険者の登録を受け付けている場所だろう。
前に5人ほど列を作って待っている。彼らも、僕と同じように冒険者の登録をするためにやってきた新人なのかな。
そんな彼らの最後尾に僕も並ぶ。それから、順番が来るまで待つことになった。
列に並んで待っていた人達が、順番に登録を済ませていく。思ったより早く登録を終わらせていく前の人達。これなら、すぐに僕の番が回ってきそうだ。
予想した通り、そんなに待つことなく僕の番になった。
「お待たせしました。本日は、冒険者の登録ですか?」
そう言って話しかけてきたのは、若い女性の職員さんだ。綺麗で優しそうな人で、仕事が出来るキャリアウーマンという感じの雰囲気を持つ女性だった。彼女の問いかけに、僕は頷いて答える。
「はい、そうです」
「冒険者の登録は、今回が初めてですか?」
「初めてです」
冒険者になるのは、初めてかどうか確認される。もちろん、初めてだ。王都に来るまでの間に登録することも出来たけれど、登録しなかった。王都に来てから冒険者になると決めていたから。
「他のギルドで既に登録を済ませていたり、別の国で登録をしていないということですね?」
「はい、登録してないです。今回が本当に初めてです」
その質問には、首を横に振って否定する。
「それでは、こちらの用紙に名前と出身地をお書き下さい」
「わかりました」
「文字は書けますか? 代筆も可能ですが」
「大丈夫です。書けます」
この世界の文字を書くことが出来るのかと聞かれたので、出来ると答えた。今まで、あまり文字を書く機会はなかったけれど、名前と出身地である村の名前ぐらいは書ける。すると、彼女は微笑んだ。そして、僕の手元をじっと見つめてくる。
僕は、手渡された紙と羽根ペンを使って丁寧に名前を用紙に記入していく。当然、クルトという名前を。それから、生まれ育った村の名前も。
「書けました」
「はい、ありがとうございます」
記入し終わった用紙を返すと、彼女が受け取って確認する。すぐに、確認を終えて顔を上げた。そして、彼女は笑顔を浮かべて言う。
「クルトさん、登録が完了しました。これから、よろしくお願いしますね」
「え? これだけですか?」
「はい。登録の手続きは、これで終わりです」
あまりにも簡単に終わってしまった。もっと何かあると思っていたのに。例えば、魔力適性を調べたりとか、簡単な試験があったりするのではないかと期待していたのだ。しかし、実際はあっさりとしたものだった。
「こちらをどうぞ」
「これは?」
「冒険者の証明書です。失くさないように注意して下さい」
僕の名前と何かの番号だけ書かれた、とても簡易な板だった。それを受け取る。これが、冒険者の証明なのか。あまり、実感がないな。だけど、言われた通り失くさないようにしないと。
「わかりました。失くさないようにします」
「注意点が、もう一つ」
やっぱり、まだ説明があるようだ。注意点とは何か、どんなことを言われるのだろうと身構える。そんな僕を見て、彼女は優しい笑みを浮かべた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「正式な冒険者になるまでに、試用期間というものが存在しています。これは、冒険者としての実力を測るためのものです」
「試用期間?」
「はい。その間の仕事の成果によって、正式に冒険者と認められるのです。クルトさんの場合も、試用期間がありますので頑張ってください」
どうやら、そういうことらしい。つまり、僕はまだ冒険者ではない。仮の冒険者でしかないわけだ。だから、登録の手続きを済ませたからと安心しない方がいいな。
でも、それは当たり前のことだろう。正式な冒険者になっていないということは、駆け出しのルーキーに過ぎない。ベテランの人と比べたら、経験や実績など全く違うはずだから。なので、焦らずに頑張ろうと思う。
重要なのは、その次の受付嬢の言葉だった。
「注意して下さい。この試用期間で成果を出せなければ、登録が即抹消となります。そして、次のチャンスはありません。失敗すれば、二度と冒険者になることは出来なくなりますから」
「え!? に、二度と、ですか?」
「はい。失敗すれば今後一切、冒険者になることは出来なくなります」
それは、とても厳しい条件だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます