第4話 僅かな変化


「次の休みは、いつになるの?」

「うーん。来月までは仕事が忙しいかもしれない」

「あの手続きで、役所に行かないといけないでしょ」

「そうだな。半休を取って行かないといけないかもな」


 両親が話している横で、僕は食事に集中する。この美味しいご飯を堪能していた。今日の夕飯は、デミグラスハンバーグ。白米と味噌汁、サラダもあった。一口食べるごとに、幸せな気分になる。ご飯とハンバーグの濃い味が、よく合う。


 僕の手は止まることなく、美味しい料理を食べ続けていた。食欲が止まらない。


 向こうの世界は、食事があまり良くない。食材が悪いのか、調理法が悪いのか。それに比べて、この母親の手料理は最高だった。いくらでも食べられる。


「おかわり」

「はいはい。今、入れるから待ってなさい」

「よく食べるなぁ」


 母親にお願いして、おかわりのご飯を盛り付けてもらう。父親が感心した様子で、僕のことを見ていた。


「最近、この子は本当によく食べるのよね」

「そういえば、体も大きくなったな」

「うん。そうかも」


 以前に比べて、食べる量は格段に増えていると思う。それは、自分でも自覚するぐらい大食いに。とにかく、腹が減っていた。だから、いくらでも食べられる。


 僕の体は成長期らしく、ここ一ヶ月ほどで身長が一気にグンッと伸びていた。周りの男子生徒と比べてみても頭ひとつ分ほど、背が大きくなっていた。周りを追い越したのは、ここ最近のことだ。


 筋肉質ではないけれど、しっかり体も引き締まっている。体重も増えてきて、今は60kgを超えていた。とても健康的な体型だろう。


 もう少し早くこうなっていたら、クラブ活動の野球の試合で活躍することが出来ていたかもしれないな。前は、それぐらい背が小さくて貧弱だった。その時と今を比べたら、見違えるような成長だ。


 ちなみに、僕の年齢は15歳。中学生を卒業して、高校生になる直前の年齢。これから、もっともっと成長していくと思う。やっぱり、背の高い男に憧れているから。大きくなりたい。


 これだけ順調に成長しているのも、あの世界が関係しているのかもしれない。僕の体が一気に大きくなったのは、あの世界に接続するようになってから。


 もしかしたら、何の関係もなく偶然なのかもしれないけれど。あの世界について、実はよく分かっていないから。実際に関係あるのかどうか、まだ分からない。僕は、関係あるだろうと感じていた。


「勉強は、どんな調子だ?」


 大人同士の話し合いが終わると、今度は僕に話しかけてくる。父親の質問に、僕はご飯を食べながら答えた。


「順調だよ。何の問題もない」

「高校受験は、大丈夫なの?」

「それも、問題ない」

「そうなの?」

「うん」


 今度は母親の質問。心配だ、という表情で僕を見つめていた。その問いに、問題ないと答える。


 今のところ、成績は悪くない。授業内容もしっかり聞いているし、テストの点数も平均点よりは上だと思う。だから大丈夫。きっと上手くいくはずだ。自信があった。


 そんな会話を両親としながら、僕は夕飯を食べ続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る