第3話 意識を切り替えながら

 学校の授業が終わり、家に帰る。


 僕は、野球部に所属していた。でも、そんなに実力があったわけじゃないし、既に引退試合も終わっていて練習に参加することはない。そのまま、自宅に直行する。


「ただいま」


 家の中は、誰も居ない。今日も両親は仕事のようだ。おそらく9時か10時ぐらいに帰ってくるだろう。


 自分の部屋に学校の荷物を置いてから、着替える。それから浴槽にお湯を張って、炊飯器のスイッチを入れる。これは、母から任されている僕の仕事。忘れないように、さっさと終わらせておく。


 それから、集中して学校の宿題を終わらせる。高校試験に向けた、普段よりも少し多めの課題を終わらせた。


「よし、終わり」


 宿題が終わったので、後は僕の自由な時間。これから、妄想の世界に突入する。


 ベッドの上に寝転んで、リラックスする。目を閉じて、ゆっくりと呼吸しながら、意識を妄想の世界へ。




 再び目を開いた時、直前まで見ていたものとは違う天井が見えた。ここは、安宿の二階にある部屋だ。


「ふぅ」


 ベッドから起き上がり、近くに置いておいた荷物を確認する。古びた武器と防具、ボロいカバン。その中に、地図と少量の食料。布製の財布。道中で拾った薬草やモンスターの素材など。ちゃんと全てある。


 防具を装着して、剣とカバンを背負う。すぐに準備を終えて、部屋から出る。階段を降りると、宿屋の主人が居た。中年の男性が、僕の顔を見る。


「もう行くのか?」

「はい。今から出発します」


 声をかけられたので、返事する。


「そうかい……。まぁ、気をつけなよ」

「ありがとうございます」


 料金は安かったのに、なかなか良い宿だった。宿屋の主人も無愛想だったけれど、ちゃんと会話してくれる。旅を続けていると、なかなか大変な宿屋に当ってしまうことも多かった。だから、今回は運が良い。


 外に出ると、日差しが強い。季節的には夏に近いと思うけど、気温はそれほど高くない気がする。体感的に、東京よりも過ごしやすい。


 この世界に始めて接続してから、1ヶ月ぐらい経っていた。もうそろそろ、目的地である王都も近い。乗合馬車を乗り継いで、ようやくここまで辿り着いた。


 ここからは歩いて、王都まで行く。そこで、冒険者になるための登録を済ませる。


 途中で泊まった町や村にも冒険者ギルドはあった。だけど、王都に辿り着いてから冒険者の登録をすると決めていた。なんとなく、そうしたかった。最初は王都から、僕の冒険者活動を始めたい。


 だから、旅の途中で冒険者ギルドに立ち寄ることはしなかった。


 冒険者ギルドで依頼を受けられなかったので、お金を稼ぐことが出来なかった。手持ちの金も少なくなっていき、このままだと厳しいかもしれない。


 途中で採取した薬草などを商人に買い取ってもらい、少しは稼いだ。だけど、この方法で稼ぎ続けるのは、なかなか難しい。ギルドを通さないと、買い叩かれたりするから。


 早く王都まで行き冒険者の登録を済ませて、依頼を受けるのが良いだろう。


 王都を目指して歩く。旅の仲間は居ないので、僕は一人。仲間は、冒険者ギルドに辿り着いてから探す。出会えるかどうか心配だけど、今は悩んでも仕方ない。仲間を見つけることが出来ればいいけれど。僕のような性格だと、なかなか難しいかも。


 森の中の道を歩きながら、冒険者の活動について考える。まずは依頼をこなして、お金を得る必要がある。そのためには、モンスターを倒すことが必要。戦うことは出来る自信があった。この旅の間に、何度も戦ってきた。そして、楽々と勝利してきたから。


 王都にはダンジョンというものがあるらしい。地下に潜って、ダンジョン内に落ちている素材やアイテムを回収して、地上に持ち帰る。それで、高額の報酬金を得ることが出来るようだ。かなり稼げそうな仕事。


 冒険者の仕事は、村や町を襲うモンスターの討伐依頼。商人の護衛依頼。危険地にある素材の採取。様々な依頼がある。それらの依頼をこなすことで、冒険者として名を上げることが出来る。そっちの活動を優先するべきかな。


 とにかく、王都に辿り着いてから考えよう。




 かなり長時間、森の中を歩いてきた。ちょっと休憩しようかな。


 周囲にモンスターが潜んでいないか、安全を確認してから地面に腰を下ろす。そして、木に背中を預けて休む。


あつし! 部屋に居るの?」

「うん。居るよ!」

「そう。ご飯あるから、食べなさい」

「わかった。今行く」


 意識を戻した瞬間に、母親の声が聞こえてきたので返事をする。窓の外は、暗くなっていた。


 まるで、テレビゲームをプレイするような感覚で意識を戻した。


 あっちの世界の僕は、あの地点でセーブされた。続きはまた今度。今は、こちらの生活を進めていこう。


 こんな風に、僕は意識を切り替えながら二つの生活を自由気ままに楽しんでいた。

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