第2話 少し暗めの学生生活
夏休みが終わって、2学期になった頃。中学3年生である僕達は今の時期、来年の1月から3月までの間に行われる高校受験の準備に追われていた。ただ、ほとんどの学生が公立高校を目指していたので、そこまで焦っているような者は居ない。かなりノンキな雰囲気だった。
「おはよう」
「おう、おはよ。でさ――」
挨拶して教室の中に入る。他の皆は、グループを作って楽しそうに会話している。何人か、チラッと僕の方を見て挨拶を返してくれた。でも、すぐに視線を元に戻して会話を続けていた。
仲が悪い、というわけではない。ただ、親しくしている友人が居ないだけだった。話しかけたら、返してもらう程度の関係だから。そのはず。あまり、友達付き合いが得意じゃないから、今のようなクラスから少し浮いたような状況だった。
自分の席に座って、カバンを置いたら、目を閉じる。授業が始まるまで、いつものように一人で妄想を楽しむ時間だった。
こんな事をしているから、友達が出来ないんだろうな。だけど、仕方ないだろう。この楽しみを手放すつもりはない。
「佐藤くん」
「……え?」
名前を呼ばれた。誰かが僕に声をかけてきたようだ。それは女子生徒の声だった。驚いた僕は、慌てて目を開ける。目の前に、クラスメイトの女子が居た。どうやら、彼女が話しかけてきたようだ。
「教室、移動になったって」
「あ! そ、そうなんだ。わかった。ありがとう」
よく見ると、教室には他に誰も残っていなかった。そして黒板に、移動先の教室がチョークで書かれていた。
一瞬だけ妄想した瞬間に、他の皆は既に移動したみたいだ。そして、わざわざそれを教えてくれた、笑顔を浮かべた女子生徒。
彼女の名前は、
だけど、僕のようなのは相手にされないだろうということも分かっていた。彼女のような女子は、クラスで人気者の男子と付き合うんだろうな。僕にはチャンスなんて無い。
そして今回も、いつもの優しさを発揮して僕に知らせてくれた。だからこんなことで勘違いしないように気をつけないと。
「急ごう。皆、もう行っちゃったよ」
「あ、うん。そうだね。急いで移動しよう。教えてくれてありがとう」
「いいよ、これぐらい」
焦りながら、支倉さんと会話する。女子と話すような機会などほとんどない僕は、ちゃんと話せているかどうか心配だった。席を立って、教科書と筆記用具とノートを抱えて急いで移動する。
「ちゃんと持った? じゃあ、行こう」
「うん」
わざわざ待っていてくれた彼女と一緒に、授業が行われる教室へ向かう。とても気まずい。何か話したほうが良いんだろうけれど、何も会話が思いつかない。
「……」
「……」
黙ったまま廊下を歩く。彼女も気まずいだろう。でも僕は、口を開くことが出来なかった。どんどん緊張して、早く目的地に到着することだけ考えている。
「ここだ。間に合って、良かったね」
「そ、そうだね」
「それじゃあ、授業頑張ろう」
「うん」
そのまま、何も話すことなく目的の教室に辿り着いていた。教室に入ると、すぐに彼女は離れていった。それだけ。
一人になって、自分の席に座る。他の皆は、とても楽しそうだな。
僕のような男は、このままずっと女子なんかと仲良く出来ずに、死ぬまで一人なんだろうな。そんな未来を想像してしまうような、気まずい出来事だった。
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