【未完】現代世界と妄想異世界の二重生活~二つの世界を行き来して、マイペースで最強になっていく物語~
キョウキョウ
第1話 妄想力
物心ついた時から、いつも僕は妄想していた。
欲しいのに買ってもらえないオモチャで遊んでいる場面を想像してみたり、友人に徒競走で勝つ場面を想像したり、幼稚園で好きになった女の子と一緒に過ごす場面を想像したり。今までに色々な妄想を繰り返してきた。
そして今も、その妄想癖は続いている。
朝、目覚めた瞬間に見た夢を振り返りながら妄想したり、朝食の時間にご飯を食べながら妄想したり、通学の時間に学校へ行く道中で妄想したり、授業中に妄想したり、クラブ活動の最中に妄想したり、家に帰ってきて一人で部屋の中で妄想したり、お風呂に入っている時に妄想したり、夕食のご飯を食べている時にも妄想したり、夜寝る前に妄想したり。
とにかく、あらゆる時間に様々な妄想を繰り返した。おそらく、この世界で他の誰にも負けないぐらい多くの時間を、妄想することに費やしていた。
小学生の頃にハマった妄想は、異世界で勇者になること。
とあるアニメで見たようなファンタジー世界を参考にして、人々を救って活躍する場面を想像していた。そして、ヒロインの女の子と楽しく過ごす日々。
自分でシナリオを考えて、特殊能力を考えて、打ち倒す敵を考えて、救った人達に感謝される言葉を考えた。そして、良い気分に浸る。妄想の世界で僕は、大活躍していた。
どんどん、妄想の世界にハマっていった。もう抜け出せないほど、僕にとって妄想というのは欠かせない生きがいになっていた。
中学生になると、今度は異世界での生活を妄想するようになった。
僕は、とある小さな村に生まれた。ラルアンジュ王国という平和な国の辺境にある村だ。
その世界にはモンスターが存在していて、魔法もあるファンタジーな世界だった。僕が暮らしている村にも、モンスターが時々襲ってきたりもした。村人達が協力して、なんとか撃退することが出来ていた。
危険度が高いモンスターが出現した場合には、皆で避難する。そして、近くの街に助けを呼びに行く。そして、派遣されてきた冒険者がモンスターを討伐するのを待つという流れになっている。
そんな感じで、村の人達は日々の生活を営んでいた。
いつしか僕は、冒険者に憧れるようになった。あんな風に、モンスターを倒せるように強くなりたい。村を出て、冒険者になる。それが、異世界での僕の夢。
僕は、冒険者になるために訓練を始めた。妄想世界の僕は、とても才能があった。妄想の世界で苦労したくない僕は、いつも最強の自分を想像する。そして今の僕は、とんでもない成長力を秘めた物語の主人公のような存在になっていた
なので苦労することなく、すぐに村の中でも一番強い戦士に成長することが出来ていた。
だけど、小さな村の中での1番。それは、大きな世界の中では大したことない存在でしかないだろう。今はまだ。これから僕は、どんどん強くなっていく。そのために早く、外の世界を知る必要があった。村の外へ飛び出したい。冒険者になって、早く活動したいという気持ちが膨らんでいった。
頑張って旅費をためて、王都まで行くルートの計画を練った。王都に行き、冒険者ギルドに登録して、モンスターを倒してお金を稼ぐ。そうやって、世界を股にかけて活躍をするんだ。
そんな妄想を毎日繰り返した。
「あれ……? 今は、どっちだ……?」
旅の準備を完璧に整えて、村から旅立つ日。僕の意識は、とてもハッキリしていた。自分の手を見て、それから周りを見渡す。森と澄んだ空気がある。さっきまで、村の人達に見送られていた。しばらく歩いて、僕は王都へ向かう道を歩いていた。
ここから、近くの街まで行く。そこで乗合馬車を乗り継いで、王都へと向かう予定だった。
「そうか。僕は、クルトになったのか」
手を閉じたり開いたり、グーパーを繰り返して実感する。この体は、クルトという名前の少年。妄想世界で冒険者になるのが夢の僕だった。そして今、自由自在に動くことが出来る。この、妄想異世界で。
僕は、異世界に接続した。この世界で、本当に生きている。
近くに生えていた木に近寄り、触ってみる。間違いなく、その木は存在している。地面もちゃんとあるし、草花が生えている。
僕が暮らしている自宅の周りには、あまり存在していない自然豊かな場所だった。
「ふぅぅぅ! はぁぁ! ふぅ!」
深呼吸する。とても澄んだ空気が気持ち良い。肺いっぱいに吸い込んで、体の中に溜める。それを一気に吐き出す。その動作を繰り返すことで、より新鮮な空気を体内に取り込むことができた気がした。
「うわぁ! すごいなー!」
気持ち良い深呼吸を終えて、遠くの方を見る。そこには絶景が広がっていた。山や川があり、太陽の光が輝いている。こんな光景、見たこと無い。ビルや車などは一切存在していない、まさにファンタジーな景色だった。
「よし、そろそろ行くか」
いつまでも感動している暇はない。早く、王都に行って冒険者にならなくちゃいけないのだ。まず最初の目的地である王都を目指して、僕は歩き始めた。
しばらく森の中を歩いていると、目の前にモンスターが現れた。
ゴブリンと呼ばれる人型のモンスターだ。殴打するための武器である棍棒を持っていて、こちらに向かってきている。敵意を剥き出しで、襲いかかってくる。
周りを確認すると、奴一匹しか居ないようだ。これなら、戦って大丈夫そうだな。状況判断をしてから、僕は剣を抜いて構える。過去に村の戦士が使用していた、今はもう古びた剣。旅のために譲ってもらった剣だが、王都に到着したら買い替える必要があるたろう。
「はっ!」
ゴブリンが飛びかかってきたところを、横薙ぎにする。
そのまま振り切ると、上半身と下半身が真っ二つに分かれてしまった。斬った、というよりも引き千切ったという感じだな。血を吹き出しながら倒れていくゴブリン。戦いが終わっても気を抜かずに周囲を警戒しながら、僕は思ったことを呟く。
「これが、戦いか……」
妄想していた時に、何度も戦ったことがある。モンスターを倒して、経験値を得て強くなっていく。そんなゲームのような展開を妄想で繰り返してきた。その行為が、当たり前だと思っていた。
でも今は、妄想じゃない。実際に、モンスターは存在していた。そして、僕は敵を殺した。この戦いで経験値を得た。
この世界では、これが普通。当たり前の行為。敵を倒さないと、殺されていたのは僕の方だから。
しばらくすると、モンスターの死体が光の粒になって消えていく。
消える前に討伐した証明を回収しないといけない。だけど僕は、まだ冒険者じゃないので討伐証明をギルドに持ち込んでも、報酬金を受け取ることは出来ない。多少は受け取る事が出来るのかもしれないけれど。
その辺の仕組みについて、僕は詳しく知らない。
だから早く、冒険者ギルドへ登録しに行かなければ。冒険者になれば、報酬を受け取ることが可能なことは知っているので。
僕は前を向いて、再び歩き出した。
「
「うぅん……」
母親の声が聞こえる。目が覚めると、自分の部屋だった。昨日は、ここで妄想したまま眠っていたようだ。起き上がって、部屋から出る。
「おはよう! お母さん、今日の仕事も早いから。もう出るわよ。朝食は用意してあるから、食べて学校に行きなさいね」
「うん。わかったよ」
スーツ姿の母親が忙しそうに、会社へ行く準備をしている。いつも僕が見ている、朝の光景。
そんな母親に返事をして、僕は椅子に座った。そして、用意されたご飯と味噌汁を食べる。うん。とても美味しい。醤油を垂らした目玉焼きとウインナーも。美味い。
「じゃあ、行ってきます。戸締まり、しっかりね!」
「わかってるよ。いってらっしゃい」
慌ただしく家を出て行く母親を見送った。
いつものように父親も朝早く会社へ行ってしまっているようだ。そして他には誰も居なくなって静かになった家で、僕は一人で朝食をとる。
目を覚ます前の光景を思い返しながら、パクパクとご飯を食べた。
食べ終わったら食器を片付けて、制服に着替える。そしてカバンを持って、自宅の扉の鍵を締めてから、外へ出た。
「いってきまーす!」
元気よく挨拶をしながら登校する。空には太陽が昇っていて、雲一つない快晴だ。朝の日差しが眩しい。いつもと同じ、僕のよく知っている世界だった。
もしかすると、僕はずっと向こう側の世界で暮らすことになるのかもしれないと思った。でも、普通に戻ってくることが出来た。戻りたいと思った瞬間に、現実世界へ戻ってきた。
再び、向こうの世界に接続することも可能だろう。理解していた。こうして僕は、現代世界と妄想異世界を自由に行き来することが出来るようになっていた。
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