第2話 照れ臭いから。

その日の夕方……仕事が終わりそうな時にさきから連絡が入った。


『どうした?咲?なんかあったのか?連絡なんて珍しい!』


『ふふふ、お父さん実はね

かー君と今、温泉旅館に居るの。』


『は?!』


『結婚前に、旅行したいなぁ、ってクッキー持っていったの!

そしたらねっ?ふふふ。』



『お前は……。またあれからクッキー作ったのか?ホントに……』



『だからね?数日間家を空けるから。お父さん、寂しがらないでね?』


『ハハハ。お父さんは大丈夫だよ。さき楽しんでこいよ!』



『うん!またね?プツン……』



スマホが切れると、途端に寂しさが込み上げてきた。




俺はコンビニに立ち寄り、ワインを品定めし出した。


(全く……咲の奴、先方に迷惑かけなきゃいいけどな?)



コンビニ内でワインコーナーを

見ていると……


缶のワインを見付けた!



(久しぶりだから度数が弱くてちょうど良い。これにしよう。)



レジで会計を済ませると袋に入れてもらった。


数本の缶のワインは、美味しそうな紅茶で出来たワインだった。



『久しぶりだなぁ。お酒なんて全然飲んでなかったもんな~?』


少しだけ足取りも軽く自宅へと急いだ。



帰って来るなり、とても良い香りに満ちた家中に俺は驚いた!



『ん?なんだこの香りは?』



慌ててキッチンに向かうと、

そこには……七面鳥の丸焼きが



丁寧に盛り付けてあったのだ。


しかも、メッセージカード付きだった。


『…………咲』



メッセージカードを読むと、



『お父さん、いつもありがとう』


と可愛らしく書かれてハートマークがあしらわれていた。



何となく、そのカードをじぃーと見つめながらも

ペラリと後ろを見てみると……




『育ててくれてありがとう』

と一言だけ添えてあった……。



そのカードを財布の中にしまうと

缶のワインが水簿らしく見えてきたが。



『仕方ない。』と……雰囲気が

出るようなグラスを探してみるのだが。




いかんせん。さきの使い勝手が良いように変えられている。



ワイングラス一つ探すのも至難の技だった。



ようやくグラスが見付かったと

思った時に、ハラリと落ちた。



『ん?なんだ?』

かがんで見てみると……そこには



《コーヒーの美味しい淹れ方》

の小冊子があったのだ。



俺は、驚いた。



てっきり咲に淹れてもらっていたコーヒーが咲が勉強していたとは?



その小冊子は使い込まれていて

ボロボロだった。




今日のご馳走も、きっと本を見て作ったに違いない。



俺は、コーヒーの小冊子を

愛おしそうに眺め、ページをめくってみると…………




事細かに、俺の反応がメモしてあったのだ。



《お父さんは、イマイチな顔》


《お父さんは濃いめのエスプレッソが好きらしい。》



《エスプレッソでも、甘さが際立つ淹れ方》のところにしるしが

付けてあった。




ページをめくる度に、そんなに

あの、ただのコーヒーの一杯だけにこんなにも、勉強してたんだ。




俺は知らぬ間に、小冊子を抱きしめて、泣き崩れてしまっていた。




そして、思った。


さきに、御礼を伝えなくては…………。と……

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