渡せなかった手紙~父から娘へ~

たから聖

第1話 渡せなかった手紙

チーン……


『お?……今日も上手に出来てるわぁ!お父さん起こさなきゃ。』



『お父さん、お父さーん?!起きてよ!朝だよ?さきの作ったご飯食べれるのも、後少しだよ!早くって~もーぅ。』



のっそりと父親は寝室から起きてくる。父親は洗面台にまず向かい

顔を洗い、歯を磨く。



娘のさきにとっては

光景だ……。


寝グセを直してタオルを被りながら、父親は言葉をかける。



『あぁ。さき、いつもありがとうな?俺はコーヒーだけで

良いって、言ってるのに。ホントにお前は……ふぅ。』


『私、後1週間後に結婚式なんだよ?たまには食べてよ!頑張って作ったんだよ?』



父親はパンケーキと睨めっこしながらも、唸っていた。



!!』


娘のさきが強引にパンケーキとやらを、口の中に押し込んできた。


『モグモグっ。ん?旨いな。』


『でしょー?かー君も美味しいって食べてくれるの!』


『あはは、そっか。かーくんかぁ、』


少しの寂しさと、喜びを背負って

俺はさきとの朝食を……



迫ってくる1週間後の挙式へと

カウントダウンするべく



毎日毎日……そんなやり取りを

していた。



俺は50歳、妻に15年前に先立たれてからは、

さきが、妻気取りでキッチンに立つようになった。



だが。1つ難点なのは……



朝から、ケーキだの、クッキーだの、今日のメニューのパンケーキとやらを朝から、良い香りをさせて俺のお目覚めタイムも



もう長いこと甘い香りが漂う家中が当たり前になっていた。



妻が生きていた頃は……味噌汁の香りが漂っていたな?と


ふと考えてしまう。



俺は息をする様にさきに話す。


『もう15年か、、、。早いな?』



咲は、そんな干渉に浸る俺を尻目に、もうっ!と言いながらも


自作したパンケーキに点数を付け出した。



『ダメだわ!今日の出来栄えは

80点ね?』


咲はなかなか、妻に似て完璧主義に近い。


『あはは、お前は……今からそんなじゃ、かーくんに呆れられるぞ?充分美味しいじゃないか。』




娘がクスリっと笑いながら。

『ダメよ!愛情をもっと込めて、

かーくんに喜んでもらうの!』



娘の咲に、俺は笑みを返して、言った。


『このコーヒーは抜群だぞ?』



娘との、他愛のない会話が出来る幸せも、後1週間だな?



俺はその後……定年退職を迎えてさきとかーくんの孫を抱くのだろう。そんな未来も、良いものだ。と






ふと涙がこぼれ落ちそうになった。

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