第4話 コードメイカー
「せっちゃーん。帰り飲みいこうぜ~」
残業なーし。明日は休み。
この国は18歳からお酒オーケー。
っとくれば、飲みに行くしかない!
「……なぜ?」
「なぜ? ……行きたいから?」
「他にもいるだろう」
見回せば数人の職員が帰り支度をしている最中だった。
「? せっちゃんと、行きたいんだけど」
「っ、……はぁ」
「ええぇ、そんなにイヤなの?」
「さあな」
いつものジト目が一瞬見開かれたが、そこまで酒には興味はなさそうだ。
うーん。でもせっかく明日休みだからなぁ。
「仕方ない、じゃぁ誰か誘う──」
「待て。行かないとは言っていない」
「お? やりー。いつものとこでいいよな」
「……あぁ」
急いで片付けを終え、俺たちはよく行く酒場へと向かった。
◇
「──っはぁ! うまい!」
簡素な造りながら、賑わう店。
冒険者のパーティーや、俺とおなじ仕事帰りの者たち。
いろんな者が訪れる街の酒場へとやってきた。
冷たい液体が、一気に喉を潤す。
魔法で作られた氷が、果実酒をキンキンに冷やしていた。
「まったく……。すこしは味わって飲め」
「味わってまーす」
「……」
「ここのご飯おいしいんだよな~。なんにしよ」
この店を気に入ってるのは、安くてうまい。メニューが豊富。それもあるけど。
冒険者に魔術師、たまに俺らのように魔導師。いろーんな人物が来るもんで、噂話も耳に挟める。いつも静かな図書館にいるから、たまには刺激を求めてんのだろうか?
ただ、わりとトラブルを目にする機会も多い。
血の気が多い連中が好むわけだからな。
そう、例えばこんな連中──
「おやおやぁ? セスリーフ・ヴィッケン・ファルジオさまじゃありませんか!
お貴族さまが、まさか! 書記官とはねぇ。いやはや、恐れ入りましたよ」
店に入った時からセスリーフを盗み見ていた、冒険者風の男二人。
一人は屈強な前衛タイプ。ニヤニヤと笑みを浮かべて近付いてくる。もう一人は声高々にセスリーフに絡む……学院の卒業生だろう。魔術師の好むローブを着ていた。
「うわー。典型的だな」
「ああん?」
「おい、こいつ序列最下位の……【無能】の魔導師だろ」
この国──ランヴァルド王国において、土地を治めるような身分ある者には名前と家名の間に領地の名が入る。
セスリーフは『ヴィッケン』地方を治める、ファルジオ家の者だ。
そんなセスリーフと同等の知名度を持つ俺。ただし【無能】の魔導師として。
「はぁ……。くだらない」
「わざわざ、書記官になるってことは……。もしかして、魔導師になれたのも家の力ですかぁ?」
「──っ!」
魔導師試験に落ちたのか知らないが、妙にセスリーフに突っ掛かる男。
この国の貴族に対する風当たりは表立ってはそう強くない。
一般人からしたら、金もあって国に対して発言力もあってすごいな~って感じか?
領地ごとに評価は分かれるだろうけど。
でも、魔導師という職業は平民だとか貴族だとか関係がない。
言い方はアレだが、平民が貴族に唯一マウントをとれる世界だと言ってもいい。
当然、裕福な貴族を妬む奴が陰口をたたくこともよくある。
セスリーフは、そんな世界で家のために必死に勉強していたってワケだ。
「おいおい、そんなワケないだろ。せっちゃんは試験もヨユーでパスしてるし、現役魔導師の推薦も三人以上必要なんだぞ」
「だからぁ、その推薦が──」
「俺は、せっちゃんが書記官になってくれて大助かりだけどな」
「……!」
「ええー? まぁ、スキルなしのセンパイならそうでしょうけど~」
「ははは、まっ。そういうこったな。俺にはもったいねぇ」
俺がそう言うと、セスリーフがすごい形相で睨んできた。
……なんか間違ったこと言ったか?
「それで? 僕を貶めて、どうしたいんだ?」
冷静なセスリーフは彼らの目的を問い質す。
徐々に酒場内での注目も集まってきた。
「いえ、ねぇ? 見掛けたものでつい、声を掛けたんですけど……」
「おれたちゃ、世界を旅する冒険者だ。あんたら軟弱な魔導師とはワケがちがう。おまけに、魔導司書と書記官なんざ……魔導師のなかでも特に引きこもりだろうが」
「へぇ。俺たち、そう思われてんのか~」
「つまりぃ、実力で魔導師になったというんでしたら……ぜひその力、拝見したいなぁと思いましてねぇ」
なるほどなぁ。
酒場内には冒険者はもとより、冒険者に依頼する側の者もいる。
名を売りたいわけか。
魔導師の序列は一年ごと……魔力量、試験結果、研究成果、勤務態度、スキル。いろんな要素で決まるんだけど。こいつら新人のセスリーフが何位か知ってんのか?
「ちょっと! あんたたち、ケンカは外でやっとくれよ!」
「すみませんねぇ」
見かねた女将さんが俺たちに場所を移すよう促した。
たしかに、店内で乱闘はまずいよなぁ。
「表でろ」
屈強な男がそう言えば、セスリーフは「はぁ」といつものため息。
意地でも戦わないと思ったけど、意外とノるんだな。
「うーん。じゃ、ちょうどいい。俺も【スキル】試すか」
「「「!?」」」
スキルに頼る人生じゃなかったが、まぁ使えそうなら使うに越したことはない。
外に出ると火照った体にちょうどいい風が吹いた。
「スキル……だと?」
「無能のフランゼルが、スキルを?」
だって、コードメイカーって言うんだ。コードを作るんだろ?
んで、今まで発動しなかったのは『何の』コードを作るか分かってなかったからだ。
そら何かを表す記号なんて、色々あるだろうし。
でも今なら確信が持てる。分類コードだ。
それも、実際に存在する魔導書につけるヤツでもない。
スキルってのは、己に関係するものだから。
分類するのは、俺の中に染みこんだ──魔導書たちから得たもの。
俺の知識たちを図書館に見立て、必要な情報を引っ張り出すためのものだ。
……恐らく。たぶん。
「!」
スキルを正しく認識したからか、突然頭の中にスキルの枠組みが記された。
そこには数字と共に空白があり、自分で好きに分類できるみたいだ。
18年生きてきて、初めてスキルの実態に遭遇した俺は興奮していた。
今まで耳にはしていたが、スキルってこういう感じなんだな。
あんまり難しくすると使い勝手がわるい。シンプルにいこう。
一次区分は、0を無属性。1を火……という割り当てにしてみるか。
二次区分は、……そうだな。とりあえず11に球体型を割り当てて【
【火の球】の詠唱なら、少なくとも5パターンは覚えている。
はたして、どんな風になるんだろう。
「魔導コード、【
スキル使うのは、こんな感じか?
ってか、言いにくっ!
「「……!」」
「なにも、起きない……?」
「あっれぇ?」
おっかしいな。他に指示もないし、これでいいと思ったんだが。
枠組みにも、1の横に火属性って書いてるし……。
ん? なにやら1にフリガナが……。
ネオン、ってことは。
もしや、神聖魔導語で言わないとなのか!?
前世の記憶がある今、ちょっと中二っぽくなる気がするが……ええい! やけくそだ!
「魔導コード、【ネオン・ネオン・ネオンー】!」
もっと言いにくいぞ!?
「はぁ? なんだそりゃあ」
「神聖魔導語……?」
「バカにしてんのか────」
勢いでコードを言い終えると、たしかに詠唱を唱える時の、自分の魔力が研ぎ澄まされる感覚がある。
冒険者二人は「バカにすんなー」と騒いでいる。
……と思えば、突然ゾッとした表情に変わっていく。
セスリーフすら珍しく驚いた表情だ。
「……ん?」
俺の背後を見ているので、倣ってうしろを振り返ると──
「…………んん!?」
【
いや、俺まだ魔名唱えてないけどね?
ってことは……。コード自体が魔名の代わりを担ってんのか?
いろんな詠唱の集合体……合本みたいなもんか?
俺の覚えたさまざまな魔導書の詠唱を参照し、コードに紐付けて【
色んな特徴を記したそれを、とりあえず全部! って感じで?
詠唱がバカ長いこの世界において。これ、チートスキルってやつじゃ……。
というか俺、もしや【グリモワ】要らず?
「あ、あー……。おとなしくー、抵抗しなければー、ゆるしてやるぞー」
我ながらなんとも気の抜けた声明だ。
「ま、マジかよ!?」
「あのフランゼルが、スキルを……!?」
「おいおい、一応センパイだから」
「か、帰る! だから、許してくれー!」
「あ、おい──」
騒がしい奴らは走って逃げてしまった。
ちゃんと代金払ったんだろうな?
「……フランゼル」
「ん?」
セスリーフがおずおずといった様子で声を掛けてくる。
俺がスキルを使えて、驚いてんのか?
「その、」
「あぁ……スキル? せっちゃんのおかげで、ピーンときたんだよね~」
「僕の?」
「そっ。分類、って言ってくれたおかげ」
「?」
「でもまだ試用期間だから。あんまり期待しないでくれ」
「いっ、いや。それもあるが……、そうではなくて」
「……? なんだ、言いたいコトあるならハッキリ言えよ」
「だから、僕は……その。スキルが、全てとは……~っ! 何でも、ない!」
「えぇ?」
なんか怒ったんだけど。
「なんか、気に障ること言ったかなぁ」
よく分からないが、夕飯の続きのためにセスリーフに続いて店内に戻ることにした。
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