第3話 魔導書記官殿の一日

「セスリーフせんぱぁい、リライトお願いしまぁ~す」

「館内は静かに。リライト希望なら先に魔導司書に資料を選書してもらうように」

「せんぱぁい! フラン先輩にえらんでもらいましたぁ」

「確認する。対象ページを開いておくように」


 蔵書の確認をするために俺がカウンターを離れると、閲覧室で静かに魔導書を読んでいた女生徒たちが一気にカウンター付近に押し寄せた。


「せっちゃん相変わらずモテまくりだな……」


 前世のザ平凡な容姿を考えると、わりと美形な方に転生したと思うんだけどな。

 なにせ、隣に立つのがあいつだからな。そら霞むよ、俺。


『ちょっと……フラン先輩、こっち見てるわよ』

『やだぁ、セス先輩に嫉妬? 無能だからってみっともないわねぇ』


 セスリーフの前にできた列から、ヒソヒソとなにやら聞こえてきた。

 えーえー、どうせ無能ですよー。

 カウンター付近は大目にみるけど、館内はしずかにねー。


「あらぁ、フラン君。寂しいわねぇ」

「ルプラ」


 魔導師の同期、ルプラ。こっちはこっちで、キリッとした美人さんってやつだ。

 魔導学院で教師をしているエルハンス先輩の親戚で、銀色のキレイな長髪を高い位置で一つに結んでいる。


 ルプラは序列24位。今は教師の補佐に回っている。

 前世でいう、副担任みたいなもんか……?


 セスリーフもそうだが、同い年なのに妙に色っぽいんだよな。


「ふふ。かわいそうだから、私が構ってあげよっか?」

「え? いや~、館内はお静かに願いたいなぁ……なんて」

「あら、意外と真面目なのねぇ」

「一応、ここの司書やってますんでねぇ」


 またもや意外との評価。

 声をひそめてやり取りをしていると、セスリーフがこっちを見ていることに気付く。


「……やだ、こわいわ」

「ん?」

「セス君、ヤキモチ妬いてるみたいよ」

「へぇ、ルプラ。せっちゃんに気に入られてんのか」


 それは初耳。けど、美男美女でたしかにお似合いだ。


「……まぁ、いいわ。それよりフラン君、アルタウファの魔導書はあるかしら?」

「お、タイムリー。数冊はあるな。半分くらいは閉架だけど」

「あら。半分が閉架ってことは、最近のものは入れてない?」

「かなぁ。ルプラなら協会から貸出許可降りるだろうし。必要なら、サウラスから相互貸借そうごたいしゃくするか?」

「そうねぇ……。今度ヴェルバ先生の補佐に就くんだけど、地属性といえば彼よねぇ。うーん……フラン君の意見も聞いてみようかしら」

「お。魔導師のレファか。貴重な経験だな」

「ふふ。おねがいするわ」


 すこしばかりルプラと地属性の書架を見て回っていると、5人ほど並んでいたセスリーフの前の列がなくなっていた。


「あら……。さすがセス君。魔力量もすごいし、仕事も早いのね」

「あいつ200ページだからな」

「フラン君は?」

「俺? 俺はなんか……、よく分からんって言われてとりあえず100」

「ふーん? よく分からないけど、わたしよりは多いんだ」

「まぁ、最悪ページなくても詠唱覚えてるからなぁ」

「隠れた天才ってやつねぇ」

「俺は【無能】だけどな」

「ふふ。言わせておけばいいのよ、そんなもの」


 ルプラ、セスリーフ。

 3年振りに魔導師試験で合格者が出た代の同期二人は、若くして『天才』『魔法の申し子』と呼ばれるにふさわしい二人だった。

 スキルや魔法もそうだが、品行方正。眉目秀麗。あらゆる面で優れていた。


 でも、俺だけは知ってるんだ。


「ルプラとセスリーフくらいだよ、俺のこと持ち上げるの」

「あら、フラン君を推薦した御三方は?」

「それはほら、未来に期待! ってやつ?」

「ふふ。なるほどね」


 彼らはただ優れているだけではない。

 例え【スキル】が使えず無能だとしても。

 それ以外にも目を向けることができるやつらなんだ。

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