第2話 魔法少女になりました
ハルの家、雑貨屋のドアを開けるとカラン、カランという音と同時に声が掛かる。
「いらっしゃい、今日はカレーだよ」
ハルの父が電子タバコを片手に教えてくれる。
「いつもすみません、お邪魔します」
挨拶しながら、ほんのりタバコの匂いのするおじさんの脇を抜け、レジ裏の住居に続く階段を
角度がキツイ階段をカレーの匂いに釣り上げられるようにタンタンタンと登り切り
「お邪魔します」
ハルの母は測ったように振り向いて
「いらっしゃい、アキちゃんはご飯一緒する?」
「じゃあお言葉に甘えて」
いつものおばさんとのやり取りを、いつもの写真が迎えてくれる。私とハルのまだ歩けもしない頃の写真だ。
少し遅れてハルが来る。中学になってからは、私が階段を上り切るまで待つか先に登るようになった。私が気にするより早く、ハルが気を遣うようになったので、へーやるじゃんと思ったものだ。
「ただいま」
そういえば、ハルが挨拶を欠かすのを見たことがない。イジメられ帽子を川に投げ込まれた時も泣きながら「ただいま」といってたな、あのときは、私がいじめっ子の帽子を川に投げ込んでしこたま怒られたな~。
「「お帰り」」
うん、ハルに自然な声が出せてる。
「アキ、飯持ってくから、先に部屋いっといて」
「ん」
勝手知ったる他人の家、干されたフキンをつまみ取り、シンクで軽く濡らして、ぎゅっと絞り、ノックも無しに誰もいないハルの部屋に入る。
戦車の模型が棚にホコリ一つ被ることなく並び、微かに塗料の匂いがする。昔はもっと、臭くて散らかってたな。
ちゃぶ台を広げて拭いて、ベッドに膝をついて窓を開ける。
新鮮な空気が流れ込み、息を目一杯吸う。慣れても塗料の匂いは苦手だ。
赤と青が交じり合った昏い空に月と惑星だけが輝いていた。
息を吐き、心に隙間ができるとすぐにハルが割り込んでくる。
バカでチビで、私の後ろを付いて回って、アワアワしてたのに、カッコよくなっちゃった。
フキンを置いた勉強机の上に手垢の跡がわかる参考書が積まれ、ドアの枠には私とハルの背比べが刻まれている。今じゃハルの方が手のひら一つ分背が高い。
「アキ、開けてくれ」
半開きのドアに顔を挟んだハルが居た。そういうところは変わらない。
ドアを開けてあげると、カレーにサラダにコーヒーが2人分、溢れそうなトレーをちゃぶ台に着陸させるとそのまま飛びたつように手を伸ばし、勉強机の引き出しから何やら取り出した。
「誕生日!明日だろ。これ、プレゼント」
振り向きざまに、ラッピングされた袋を渡される。
「ありがとう、中あけていい?」
「うん」
あー、これは勝ったわ、アキちゃん大勝利です。今日の雰囲気は間違いない。
私の脳内では裁判結果の如く「勝利」と書いた紙を持ったスーツの人が10人ほど走ってる。
中に入っていた髪飾を手に取ると温かい光が私を包み、魔法少女に変身する。
「へ?」
光がおさまると、白を基調とする、短いスカートに、ヘソが見えて袖がない上着、レース地スリーブとストッキングが前腕と脚を隠している。小さい時に見た魔法少女そのままの格好だ。
オマケに、髪飾りはステッキになって手に収まり、淡い光を放っている。
ハルは私以上に驚いてるようで口を開け、目玉が少し飛び出ている。
学校の制服、なくなると親が泣くな……
……とりあえず本能に従い、カレーを一口、ウマイ!スパイシー!
現状を把握した結果。
「夢みたい?」
と、スプーンを唇に当てながらつぶやいた。
ガッ
ハルがデコピンとは思えない、強力な一撃を私の眉間に打ち込む。
「夢じゃ無いのか」
ハルは爪が痛いのか、手を振ってる。
「痛いんだけど」
「でもいきなり、アキがそんなカッコになって、俺の部屋でカレーを食べ始めたら、夢か確認したくもなる」
互いの奇行に納得し合い。なぜか正座で向かい合い、一緒にカレーを食べる。食べ終わる。
「ネタバラシで、誰か来ないの?」
「俺のプレゼントが原因で大変申し訳ないが、ガチでトラブルです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます