第3話 願いが全部かなったら

 私は魔法少女になった。


 普通こう、ピンチになったり、人助けせにゃならん時に魔法少女になるもんじゃあなかろうか?

 少なくとも、告白一歩手前で起こる出来事ではない、断じてないのだ。


 戻れ!とか頭の中で念じるが意味なし。

 妖精っぽいのが話しかけてくれる気配なし。

 幼馴染のハルも当然の如く心当たりなし。

 そーいや、魔法少女ってどうやって元に戻ってたっけ記憶なし。


 一縷の望みでハルに問いかける。

「このプレゼントについて詳しく!」

「うちの店の猫神社コラボの商品だよ。ちょっと色々聞いてきますんで、ステッキ貸して」

 ハルの手が少し重なり、頬の産毛が見えるほどに顔が近い。

 なぜ私は今、魔法少女なのだろう。

「ん、手から離れない……」

 もはや呪いである。


 ハルがステッキを諦め部屋を出る。

 ステッキが手から離れないので、指先でくるくる回す。

 服を脱げないもんか試してみるが脱げない!これトイレどうすんの?

 部屋の外から喧々諤々って、全員来ちゃったよ。魔法少女は秘密の存在という暗黙のルールは、現実では無力のようだ。


「あらカワイイ」

 おばさんにカメラを向けられピースする。

「じゃなくて、ココの商品の髪飾りで変身したんだけど、何かわかりますか?」

「何もわからん。ほんとに今着替えたんじゃないんだよねそれ?」

 おじさんが答え、おばさんは首を振る。


 みんなで検討の結果、朝に真っ裸ではシャレにならんという結論に至り、今日はおばさんと寝ることになった。

「今日は本当にごめんなさいね。そんな格好にしちゃって」

「いいんですよ、この格好に小さい時は憧れてましたし。最近のハル、かっこ良くなったと思いません?」

 先ほどから、おばさんがずっと謝り続けているのが申し訳なくて、ホメ話を振ってみた。

「でしょ。言っちゃっていいのかしら……」

 から色々聞いて、約束された勝利を確信する。

 

 次の日、無事に呪いは解け、犯人が判明する。

「お誕生日おめでとう。君の夢を叶えてあげました。お礼は無くてかまいません。サンマを七輪で焼いて、ほぐして、すだちを絞って、置いといてくれとはいいません。 ネコ神」

 そう書かれたカードが枕元に置かれていた。

 お礼のサンマの下りは米粒のように小さくなりながら、カードのふちを反時計回りに書かれていた。


 ネコ神、ピンとくる猫神社の神様だ。思えば毎日のように、神社で手を合わすのが日課になっている。とはいえ魔法少女だけ叶えるとは迷惑な。


 ハルの家族と朝ご飯を食べてると、テレビに土石流に呑まれる父が映し出されては画面から消え去った。スマホが震え手に取ると、母の苦しそうな呻き声が聞こえる。


 悲劇が私を襲う前に、テレビの音声がネタをバラしていく。「いやあ、奇跡的に全員が無事だったそうで、現場の消防隊員による指示が功を奏したそうです」

 電話では「アキ、弟か妹が出来たみたい。悪いけど、家事を代わってくれる?」


 ……なんだか嫌な予感がヒシヒシとする。

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