第6話 魔法少女は激怒した

「ん、とりあえず無礼な信心者の質問には答えた。こんどはわしの要件じゃ」

 大金持ちに成り損ねて固まる私を置いて、ネコ神が話をはじめる。


「元はと言えば、人がみだりに我が神域を変質させたことから始まった」

 なにやら不穏な発言に緊張が高まる。


「人が何かしましたか?」

 さっきまでサンマ焼きに集中してたハルが口をはさむ。


「人は川の流れを変え、大地に深きくさび穿うがち立つ巨大な鏡は、我を照らし続けた。そして、我と神域はめっちゃ元気になった」

 ツッコミを見舞おうとした私の裏拳をハルが抑える。


「そうなんですね。それでどうなったんですか」

 ハルがサンマをひっくり返しながら、話を促す。


「力をの発散を兼ねて人の姿で街に出かけたんよ。久しぶりのシャバで、色々遊び回ったんじゃ楽しかったのー」


「さすがですね、続けて下さい」

 ひっくり返したサンマの油が煙となって一段といい香りが広がる。


「ものすごい人が多いんで、我が神社にご利益ありと勧めて回ったんじゃ。そしたら、ケーサツに捕まってカツ丼をご馳走になって、もうしないように言われてしまったんじゃ」

 駅前の不審者が確定しました。


「そんなことが有ったんですね、知らなかったです」

 リュックから皿や薬味を並べ始める。


「それもあって、頼れるのはアキぐらいじゃでな。運よく神社のお守りを通じて、アキを魔法少女にできたんじゃ」

 きっと有ったであろう、告白が終わるまで、あと3分待って欲しかった。


「どうして魔法少女にしたんですか?」

 焼き終わり、油のよく乗った金色のサンマにすだち、大根おろし、醤油が準備され、ネコ神の目が喜びに溢れる。


「お前たちの通う学校は、駅ビルと山の日陰が重なって、ワシでは不幸の闇を祓えんのじゃ」

 ハルがサンマの身をほぐしては尻尾で指された薬味で食べさせる。


「なるほど、アキに闇を祓わせたいのですね?」

 ムシャムシャとうまそうにサンマを食べるネコ神様のムカつく顔を眺める。


「その通り。その代わり、アキの願いを今日も多く叶えたはずじゃ」

 ……6秒待つ、アンガーマネジメントに成功し怒りを鎮める、恨みは募るがな!


 状況整理、選択肢は2つ

 1つ完全放棄、バブリーとやらをみんなで楽しむぜ。ただ、波乱万丈な人生が待っている。

 2つ魔法少女になって、いつのどんな願いか分からんが叶えてもらう。ただし、学校で闇を祓うなる奉仕活動をする必要がある。


 うん、完全放棄だわコレ、バブルが弾けても両親共に公務員で安泰だ。

 それに魔法少女は無理だ、あんな恥ずかしい恰好で学校に行ける訳がない!


「完全に私の願いを放棄――」


「尻尾が滑った」

 ネコ神の尻尾から光が放たれハルがネズミに変わる。


「はぁ?」

「すまんが選択の余地は……」


ドッ


 今までのネコ神の態度とあいまって、いかりは髪を貫き天を衝く、気づけば魔法少女となり、ネコ神がしゃべり終わる前には、ステッキのフルスイングを叩き込んでいた。


「え?」

 私が驚く。空気が灼ける匂いを残して、ネコ神は空に消えた。ワンテンポ遅れて、雲に穴が開き、その中心が一瞬輝いた。


 ネズミのハルがずっと私を見つめている。

「ガチのトラブルのおあいこで、なんとかなるかな?」

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