第25話 娘たちとのデート
その日、三姉妹の機嫌はすこぶる良かった。
なぜか?
たまたま全員の休みが被ったからだ。
エルザは騎士団の業務が非番だし、アンナも久方ぶりの休みが取れ、メリルは自主休校をすることにしていた。
そして俺も仕事に休みを取った。
騎士団の教官、冒険者としての活動、魔法学園の非常勤講師。
慌ただしい日々だったのでたまには息抜きも必要だ。
家族全員が休みということもあり、今日は皆で出かけることにした。家族四人、仕事を忘れて水入らずで過ごす。
「わーい! パパとデートだぁ♪」
パジャマ姿のメリルが俺に抱きついてくる。
「おいおい。今日はえらく早起きだな」
「だって、今日はパパとお出かけする日だし。寝てたら勿体ないよぅ。一分一秒でも長くいっしょにいたいもーん♪」
「ホント、調子の良い子ね。普段もこれくらい早く起きればいいのに。そうすれば遅刻をすることもなくなるわよ」
アンナが呆れ混じりに言った。
「ボクは気分屋さんだから。テンション上がらないと動けないんだよね。パパがいないと何もする気がおきなーい」
「メリル。あなた、パパが王都に来る前、よくそれで生活出来てたわね」
「一週間に一回、パパ成分を補給するために村に帰ってたからねー。一週間分のパパ成分をそこで取り入れてたんだー」
「パパ成分を補給……とは何ですか?」とエルザが怪訝そうに尋ねた。
「んー。いっぱいパパに甘えたり、おねだりしたりー。とにかくパパとイチャイチャすると補給できるんだよ♪ ねっ? パパ」
「あれは大変だったなあ……」
俺は過ぎ去りし日々を思って遠い目をした。
あの頃、一週間に一度のペースで帰ってきたメリルは、ありとあらゆるおねだりを俺に対して申し出てきた。
頭をなでなでして欲しい、ハグをして欲しい、ほっぺにキスをして欲しい、いっしょにお風呂に入って欲しい、自分が寝るまでずっと手を握っていて欲しい、寝起きは服を全部着替えさせて欲しい……。エトセトラ。
あれ? 今とあまり変わらないな?
「メリル。あなた、それだといつまで経ってもパパ離れできないわよ。自立できないダメな子になってもいいの?」
「いいよー♪」
メリルは悪びれる様子もなくそう応えた。
「人という字はボクとパパが支え合って出来てる字だから。ボクとパパは一生、お互いにラブラブでいるもん♪」
「開き直ってるし……」
アンナが額に手をついた。
「そう言って貰えるのは嬉しいが……。俺とメリルが親子でいる以上、ほぼ確実に俺が先に死ぬことになるんだ。それが病なのか、任務中なのかは分からないが。だから、メリルも自立できるようにならないとな」
「大丈夫! パパが先に死んじゃったとしても、ボクが生き返らせるから!」
「い、生き返らせる?」
「そう! パパが死んじゃったとしても、魂を呼び戻して、復元した肉体に入れてあげれば元に戻るはずだし。それなら寿命もなくずっと生きていけるもん。ふふ。ボクとパパは何百年先もずっといっしょだよ♪」
「ええ……」
メリルは軽い調子で、とんでもないことを言っていた。
それはつまり不老不死を実現させるということだ。
有史以来、時の権力者たちは皆、不老不死を求めて東奔西走してきたが、未だ実現した者は誰一人としていない。
「あの子、なまじ天才だから……。あり得ない話じゃないのよね。あの子、パパが絡むととんでもない才能を発揮するから。魔導器を発明したのだって、人々の役に立ってパパに褒めて貰いたいって動機だったし」
「ということは……」
「パパ。ご愁傷様。永遠にメリルのお世話をすることになるかもね」
「休む暇もないな」
「メリル。私はあなたの研究を応援していますよ。パパ……父上には存命でいて欲しいという気持ちは同じですから」
「えっ?」
「や。父上離れしたくないから――ということではありませんよ!? そのような甘えは騎士団長には不要ですから。ただ……その……年老いて腕の落ちた父上に、剣で勝っても意味がありませんから」
「はは。俺が老いるより先に、俺に勝てるようにしてくれ」
思わず苦笑を浮かべてしまう。
エルザは今もなお、日々着実に強くなっているのだ。そう遠くない日に、俺より遙かに強い剣士になるに違いない。
まあ……。
父親の威厳を保つためにも、もう少しの間は粘りたい。
「ちなみになんだけど。メリルが不老不死の研究を完成させたら、それは私たちにも適用してくれるのかしら?」
「もちろんいいよ~♪ ボクたちは家族だもん。ボクとパパとエルザとアンナの四人、末永くラブラブに過ごそうね♪」
「それは素敵な話ですね。若い肉体を維持したまま悠久の時を生きられたら、剣士としての高みも目指せそうです」
「この国の権力を全て握ることだって出来そうね。今、のさばってる老害の人たちを排除すれば良い国になりそう♪」
娘たちはそれぞれ不老不死になった後のことを想像していた。
「まあ。先のことを考えるのもいいとは思うが。せっかくの休みなんだ。今は目先の休日を楽しむことにしよう」
俺が言うと、娘たちは嬉しそうに頷いた。
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