第107話 決まった運命


「そう──」


 静かだが──今までの憎しみを込めた言葉。

 そんな言葉に将門はニヤリと笑みを浮かべたままこくりとうなづいた。何か、俺に言いたいことがあるような──深い意味でもあるのかな?

 そんなことを考えていると、将門は3人の方に近づいた。牢屋の策越しに手をかざすと、彼の手が紫色に光り始めた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 光った瞬間、のたうち回るようにもがき苦しむ同級生たち──

 体を強く抑え始めた。そして、衝撃的な光景を目の当たりにする。


「助けて助けて助けて──びぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」


 不良たちの身体が、スライムかなにかになったように変形していっているのだ。少しずつ、肉体がボロボロと崩れていく。

 あまりの苦痛に、その場を転げまわりのたうち回るが体が変形していってるのを止めることができない。


 そして。


 ボロボロになった身体がぐじゅぐじゅと作り替わるように変形していき──。

「もう少し、もう少し」



「うぉぉぉぉ」


「何だよこれ、体が軋んで」


 その通り体が茶色や紫色に変色し始め、形も粘土でできているかのように変形し始めた。

 まるで、粘土をほうむっているかのように──。


「ぎゃああああああああああああああああ」


「ばばばばばば」


 断末魔のような悲鳴を上げる不良。苦しくて、もがき苦しんでいるかのように見えた。

 変形している身体を抑えるかのように、しかし身体はどんどん変形していく。


 そして──。


「ああっ、失敗しちゃったかな??」


 変形した不良を見て絶句した。


 鬼のような角、目はくの字に変形していて肌は赤や紫、茶色をマーブルにしたような色合い。お腹あたりからは大腸らしきピンク色の長細いものが飛び出ている。



 そして、不良たちは倒れこんでまるで金魚が陸に上がった後のようにびくびく体をはねさせた。明らかない人間の外見じゃないというのがわかる。



 妖怪?? 何のこと?? よくわからないが、ただならぬことが起きているのはわかる。

 動揺して、不良たちに視線を向ける。


「うっ……うばばっ」


 表情を見ていると、もがき苦しんでいるかのように見えた。そして──。


「あちゃぁ~~これはダメそう」


 将門が残念そうに頭の上に手を置く。そして形が崩れてきたいじめっ子たちの肉体が……ぐじゃぁぁぁ~~。



 まるで溶けていくかのように、崩壊するように形が崩れていってしまった。血肉や髪の毛、ピンク色の固形の内臓らしき部位だったものの部分が、ピンク、赤、黒の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたかのように水たまりみたいにその場所にたたずんでいる。


「しょうがないかぁ~~。僕もまだまだ未熟だね~~」


 将門は陽気そうにそう言って、水たまりみたいになった肉体に手をかざした。そして──。


 ぐじゅうえわぁぁぁぁぁぁぁ~~。


 気味の悪い、風呂の排水溝に水が吸い込まれるかのような音を立てながら将門の手に吸い込まれていく。数十秒もすると、肉体だったものは完全に将門の手に吸収されるかのように消滅してしまった。


「ま、僕の養分になったからいいか」


 不良たちは──完全に消滅してしまった。

 でも──これで? よかったんだ? こいつらは俺に暴力を振るってきた。


 だから──。


「これは、君に暴力を振るってきたあいつらへの報い。そうだよね」


「ああ、報いだ」


 俺の気持ちを、なだめてくるような──そう誘導するかのような物言い。それを聞くだけで、こいつらがしたことに対する怒りが──憎しみがこみ上げて来た。


「そうだね、もう遅いよね」


「ああ、もう遅い」


 そうだ、今更遅いんだ。彼の言うとおり、全部信用するのは危ういかもしれないけど彼がいなかったら俺はいまだに暴力を振るわれていただろう。これしかなかったんだ、俺には。


「決まったね」


 最後に、にやりと意味深ともいえる笑みを浮かべた。

 何か、意味でもあるのかな──。頭に?マークが浮かぶが、答えは出ない。


「報い──もう遅い──そうだね。確かに、そうだね」


「ああ」


 慎重に確認するような物言い。それ自体に、何か意味を持っているかのような……。しかし、今の俺にそれを知るすべはない。



 これで良かったんだ、これで。








 私は、ミトラと一緒に帰って帰宅。(なぜかミトラに手をつないで帰りたいと言われ、本当に手をつないでしまった)

 夕日がアパートの壁を照らし、オレンジに光る空の中私たちは玄関にいた。


「じゃあ、また明日」


「凛音、今日はありがとうですの!」


 にっこりとした、満面の笑み……かわいい。


「勝親さん……結構気難しいところがあったので、首を下ろしてくれるか心配でしたの。でも、凛音が必死に戦って、体を張っているところを見て──凛音を信じてくれましたの。全部、凛音のおかげですの」


「それはありがと」


「大丈夫ですわ。凛音には、私がついてますの。一緒に頑張って──認められるようになりますの!」


「あ、あ、ありがとう……」


 その言葉を聞くだけで、すごい勇気が湧いてくる。行けるって自信が、心から持ててくる。

 ミトラ──こういう、とっても前向きなところは本当にいいと思う。



「じゃあまた明日ですの。遅刻しないでくださいですの」


「ミトラこそね」


 そして、手を振ってミトラは玄関の扉を閉めた。1人になった途端今日のことを思い出す。御影さんも、みんな私のことを想ってくれていた。


 気立てが良くて、後輩想いで。ミトラにだってそうだけど、与えてくれた優しさだけは無駄にしたくない。


 これからも、戦い抜こう。


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