第108話 日常


 土曜日に時空のおっさんと会ってから、月曜日に高校。


 また、退屈な高校生活が始まった。ぼんやりと校庭を眺めながら、歴史学の言葉を聞く。


 不良たちは学校に来てない。そういえば数日間来てないような気がする。

 どこかで遊んだりしてるのかな? まあ、突っかかってくる奴がいない分には大助かりだ。


 授業に集中できるのはありがたい。


 それにしても、昨日まで不思議な世界にいて、今日は何事もなく学校で生活を送っている。

 ──でも今まで私は非現実ともいえるような戦いをしてきた。


 時々、こうして日常生活を送っていると妖怪として戦ってきたときのことが、なんというか現実感がない。どこか遠い世界だったような感覚になる。


 あまりの非日常感に、夢の中の出来事だったというか。

 そんなことを考えていると──。


「おい愛咲──話を聞いているのか?」


 まずい、先生が私を指してきた。しまった、考え事をしていて話聞いてなかった。


「まったく、お前はいつも友達はいないし──そうやってぼーっとばかりしていて」


 説教が始まった。

 あの先生、いつも私に目をつけてきて嫌味なことを言ってきたりして来てるんだよな。中年で、円形ハゲで腹が出た教師。


 何でもない事でも執拗に問い詰めてきたり。私やボッチ組に強く当たってくる。


「そんなことだからお前はいつも一人なんだ。そんなんじゃ社会に出て通用しないぞ!」


 また説教が始まった。いったん始まると止まらないんだよな……。


「俺はお前のために言ってやっているんだよ! もういい、立て!」



 恩着せがましい……自分のストレス解消のための間違いだろ。いつも誰かに目をつけて、こうして罵声を浴びせている。SNSで必要以上に罵声を浴びせる奴と根っこは一緒だ。


 反論する気も起らない。こうしておけばいつかは怒りもおさまると思う。

 そう、考えた時だった。


「凛音は昨日、用事があって疲れていましたの。許してほしいですの!」


 ミトラだ。不満そうに大きく顔を膨らませ、先生に食って掛かる。

 先生は不満そうな表情で反論。


「うるさい! 俺に逆らうってのかよ! 凛音が悪いんだ、性根が腐ってるから友達もできないんだ。人に興味がない、血も涙もない女だからいつも一人なんだ」


「納得いかないですの! 凛音はそんな人じゃないですの!」


 そう言って、プイっとそっぽを向く。この先生、堂々と私の前で──でもミトラは全くひるまない。私の気持ちを組んでくれるかのように。


「まったく、ミトラ──俺はお前の成績をつけてるんだぞ? この意味が分かってるのか?」


「上等ですわ! やれるものならやってみなさいですの。私は将来の目標だってありますの。あなたの手助けがなくたって、生きていけますの」


 脅しのような言葉に、ミトラは全く屈しない。まあ、ミトラなら先生のサポートなしでも大丈夫だとは思う。それくらい、明るくて陽キャのエネルギーにあふれたやつだから──。


 私とは違って。


 その後も、ミトラは先生にくらいついて言った。しばらく口論になるが、先生はイライラしながらも言葉を返しきれなくなり授業に戻っていった。


 そしてほとんど授業が進まず、チャイムが鳴り授業が終わる。先生は明らかに苛ついたかのように舌打ちをしたり、不機嫌そうな表情でこの場を去っていった。


「もう、あの先生ひどいですの! 凛音のことをあんなにひどく言って! 目をつけてるですの」


 昼食の時間、買ってきたチキンライスおにぎりを食べながら不機嫌そうに言う。顔を膨らませて、食い方もやけ食いをしているような食べ方だ。


「まあ、そうだけどさ……」


「ま、凛音には私がいますの。凛音が悲しむようなことは、私は許しませんの!!」


 私よりも機嫌が悪い。ミトラ、

 そう考えていると、ミトラが何かに気づいて、スマホを取る。


「もしもし──ミトラですの」


 表情がどこか真剣になっている。妖怪省の人かな?

 コクリコクリと頷いて、しばしの時間がたって通話を切った。


「わかりましたわ。放課後に行きますの」


 キリっとした表情でこっちを向く。


「凛音──放課後仕事ですの。今回はひとみと菱川」


「それはわかった……大丈夫かな」


 これから、また戦いが始まるのか──。ごくりと息をのんで、覚悟を決める。


 そしてひとみと菱川。ひとみは、ヤンキーっぽい見た目だけど本当はいい人。

 そして菱川──リーダークラスの身分が高い人。能力はあるけど、性格がきつくていつも叱責を繰り返してたんだっけ。

 うまく打ち解けられるか、とっても不安だ。

 それから、体育や世界史の勉強をして放課後。

 立ち上がると、ミトラが後ろから抱きついてきた。


「一緒に行きますの」


「うん」


 不安に思う気持ちはあるけど、いつまでも悩んでいても仕方ない。行かなきゃいけないことに変わりはないんだ。


 そして、学校を出てしばらく歩いて近くの公園へ。すべり台の柱に2人はいた。


「おい、久しぶりだな」


「ひとみ、今日はよろしくですの!」


「ミトラ、凛音。今回もよろしくな」



 ぶっきらぼうな態度で話しかけてくる。ヤンキーっぽくて吊り上がった目つきと赤い髪。

 むっちりとした太ももが丸出しになったハーフパンツ。 そして、大きな胸の谷間が丸出しのタンクトップ。

 ひとみと──。


「凛音、ミトラ。あんたたちと仕事なの?」


 菱川だ──苦手なんだよな、こいつ。

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