第106話 打ち上げ、そして──


 素っ頓狂な声が出て後ろを向くと、にっこりと笑った御影さんの姿。


「お疲れ様! この後スラバいかない? 新作の洋ナシマロンクリームフラペチーノが出たんだって」


「へぇ~~っ、飲んでみたいですの!! おいしそうですの!!」


 その言葉に、ミトラがキラキラと目を輝かせる。スラバか、高くておしゃれな──私とは全く縁がないお店。私が行っても浮いちゃいそう。


 一回行ってみたけど、ストローが紙でできていて変な味がした。



「了解、じゃあ打ち上げも兼ねてみんなで行っちゃおっか!! 凛音、あんたも強制参加。いっぱいしゃべるわよ!」


「なんでですか?」


「かわいい後輩だからよ! ご馳走するし、色々話聞いてあげるから──行きましょ!」


 さっきまでとは打って変わってノリノリな御影さん。まあ、この後特にやることかないけど。


 ミトラも、とっても嬉しそうに御影さんの隣に寄っかかる。御影さんはそれに合わせるかのように、ミトラの腕をつかんだ。その姿を見て、どこか胸が痛くなる……もう。


「行ってみたいですの。3人でいっぱい話しますわ!」


「決定! 疲れたしケーキも頼んでいいわよ! ほら、ずんだクリームケーキなんかどう?」


「私はメロンチーズケーキがいいですわ」


 ノリノリなミトラ。ここで、断る胆力はわたしにはない……。何より、2人が仲良く話すのを想像しただけで、なんか腹が立った。


「わかったよ、私も参加するよ」


「やったですわ! 3人で女子会ですわ!」


「案外ノリがいいじゃない! いろいろ話聞いてあげるから、いっぱい話しましょ!」


 そして、私たちは駅前にあるスラバへと入っていった。

 何とか2人に認めてもらえた。そして、とっても大切にしてくれているのがわかる。


 これからも、こんな風に認められるようにしていきたい

 そして、私たちは駅前にあるスラバへと入っていった。




 私達が異質な世界に行っていたころ。

 彼もまた、異質な世界で自分の運命が決定するような時間を過ごしているのだった。


「泰一君、やっぱりきてくれたんだ~~嬉しいなぁ」


「まあ、やることもなかったし」


 俺は、将門のところにいる。

 先日訪れた、この世界の物とは思えない──異質な空間。古びた雰囲気の、異様な地下通路からあの部屋へ。


「約束通り、面白いもの──見せてあげるよ」


 気さくに話しかけてくる──はずなんだけどなんだか違和感を感じる。にやりとした笑み。

 そう、将門は「面白いもの」と言ってきて話しかけてきたのだ。


 あの後、連絡先を好感した後数日が立った。暑い夏、バイトをしながら過ごして最後の日に、将門から呼び出されたのだ。


「面白いものを見せてあげるから、今からきてよ」


 特にやることもなく過ごしてきた俺。気になって来てしまった。

 そして、今に至る。


「そういえばさぁ、君へのいじめ──まだ続いてるの?」


「続いてるよ。何とか逃げてるけど、高校が始まったらまたやってくるんだろうね」


「うんうん、ひどい人だよね~~何の罪もない君に暴力をふるってくるなんて」


「……まあね」


 俺を心配してくれているんだよね、なのに違和感がある。

 気さくな話し方なんだけど、なんか不気味さを感じるんだよな……。どこか感情がこもっていないような……。

 何か、深い意味を持っているかのような気がした。とりあえず、警戒しつつ同調する。


「そう言うと思ってた。だからね、そんな泰一君の願いをかなえるために──とびっきりの舞台を用意したんだ」


 将門の表情が、余裕そうなものに変わる。そのままピッと指をはじいた。

 しまっていた障子の扉が自動ドアのようにゆっくりと開き始める。最初は薄暗かったが、徐々に明るくなってきて──部屋の中が見えるようになって……絶句した。


 俺をいじめていたやつらが、そこにいたのだ。


「なんだよ、助けてくれ!」



不良たちは「ここから出せ」といわんばかりに壁の柱をつかんで、ミシミシと揺らすが柱はびくともしない。

所々擦り傷のようなものがついていて、捕まるときにひと悶着あったのかと想像できる。


「ハハハ無駄だって、トラックが突っ込んでも壊れないように作ってあるんだからさ。申し訳ないけど、諦めてよ」


「ふざけんなよ。俺たちに何する気だよ!」


「面白いよねぇ~~さんざん人の権利を足蹴りにしたやつがさぁ、自分がいざやられたら権利を叫ぶのって、おっかしいよねぇ」


そう言って、こっちを見てくる。


「確かに……」


「あとさぁ。俺人間を使って実験したいんだけどさぁ、こいつらいらない? 実験材料に使いたいんだけどさぁ。いい?」


実験材料──。

その言葉に、不良たちは互いに視線を合わせて顔を引きつらせる。恐怖に全身が支配されていっているのがわかる。

そして、俺に気づいたのか血相を変えて柱をつかみながら訴えてきた。


「おい泰一──俺たち親友だよな? 友達だよな? 助けてくれよ」


「そうだよ、色々あったけど。じゃれあったりしてさ。仲良かったじゃん」


この期に及んで……怒りが湧いてきた。俺に振るってきた暴力が、じゃれあい??

思い出しただけではらわたが煮えくり返ってきた……そして、将門が俺の肩にポンと手を置いた。


「もう遅いよね? さんざん暴力を振ってきたやつに、今更見苦しいと思わない? おかしくて腹抱えて笑っちゃいそう~~。そう思わない?」


そうだ。もう遅い──さんざん俺のことを殴っておいて、今更命乞いだと?

こいつらの、今までの行いを思いだし──心の底から腹が立って、俺が出す答えは決まった。


「いらない」

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