第104話 末路

 それから、視線を三郎と勝親に向ける。


 勝親は三郎の髪を引っ張り立たせ、視線を画面の方へ向けさせた。そして、じっと三郎の目を見た後、ポンポンとぼさぼさになっていた頭に触れながらながらしゃべる。


「ここまで、貴様のような奴を何人か追ってきた。最初は普通に拷問で秘密を聞こうとしたが、何か口止めされていたのだろう。なかなか口を割るやつがいなかった。中には秘密を割るくらいならと切腹をしたやつさえたほどだ。それでも俺たちは貴様たちから聞き出さなければならなくて、このような手段に出た。貴様が口を割らなかったら、そのまま首をはねる予定だったが──命拾いしたな」


「う……うぐっ。うぐぐっうぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」


 泣き崩れる三郎。そこに、今度は御影さんが隣に座り込んだ。まるで女神のような、優しい微笑み。


「あんたは、最後の最後で秘密を割るという選択を取った。それに免じて、彼らは救ってあげたわ。感謝しなさい」


 そう言って、そっと肩をたたく。三郎は今までに緊張がプツンと途切れたのか床に倒れこんだ後、何度も床をたたいてただ涙を流していた。



 とりあえずは、解決したのだろうか。まだこいつの処遇が決まっていないけれど。


「こいつは──手足を切断して尋問をして情報を聞き出すというのはどうだ? 半妖ならば、腕は生えてくるだから問題なかろう」


「下手に殺すよりも、聞かせておいて情報を効かせた方がいいわね」


「家族という名の人質もいるしな」




 2人が罪悪感のかけらもなくそんな話をしているのに絶句した。しかし、こいつは人を食っている。だから同じ目にあっても文句は言えないはず。

 他に聞きたいことだってあるだろうし、それなら殺したりしないなら、仕方がないのかな?


 私が、疑問を持ちながらも心の中で納得したその時だった。


「うっ……うう。うあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 三郎が、いきなり心臓のあたりを押さえて苦しみだしたのだ。何が起こったかわからずおどおどしていると……。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」


「何が起こった?」


「ちょっと、なんなのこれ」


 勝親と御影さんも驚いている。そうしている間にも三郎の肉体が溶けるようにして消滅していった。

 肉体が、常温に触れた氷のようにどろどろとした液体に変質していく。

 三郎が苦しみもがいて体を抑えようとするが、どうすることもできない。しかも、溶けていった肉体が蒸発するように消えて言っているのだ。


 内臓や骨までも、溶けていくようになくなっていく。


 あっという間の出来事、三郎の肉体は消滅。突然の出来事に、私たちはただ唖然とするしかなかった。



「聞いたことがある。とある妖怪たちの中で、口封じを恐れてこっちに心を開こうとしたとき、肉体が消滅する仕組みになっていると」


「私もあるわ。だから妖怪に関する研究が進まないって」


「まあ、こいつは人間を食ったと言っていた。当然の報いだ」


「そうね……もう少し話を聞いてみたかったとは思ってみたけどね」



 2人は、残念そうにしながらもやれやれといった感じでそこまで悲しそうといった感じをしている。

 何とも言えない気分だ。はたして、何が正しかったのか……。

 そんな風に考えていると、もと来た道からコッ──コッ──足音が聞こえてきた。人数にして、2人。

 すぐにそっちを振り向いた。時空のおっさんと、ミトラがこっちにやってきたのだ。ミトラのにっこりと笑みを浮かべているのを見て、心がとても落ち着いてきた。安心感が全身を包んで、ホッとなる。


「ミトラ……」


「凛音──っ! さみしかったですの!」


 私と視線が合うなり、駆け足でこっちに来て抱きしめてきた。ぎゅっと強く。あったかくて柔らかいな、ミトラ……。そんなミトラが、ほっぺを強くこすりつけるように当ててくる。


「なんだよ、ちょっと離れただけだろー」


「ちょっとでも、さみしかったですのー。凛音成分を補給するですの」


 ミトラのほっぺ、もちもちでぷにぷにで柔らかい。時々やってくるけどいつやられてもその柔らかさにフリーズしてしまう。


「まったく、ラブラブねぇあんたたち」


 苦笑いでこっちを見ている御影さん。外から見れば、そう見えるんだろうな。でも、ミトラが抱きしめてくれるとすっごいドキドキする。一生このままでいたいという、離れないでほしいという感情が芽生えてくる。


「もう付き合いなさいよね」


「私はいつでもいいですわ」


「もう、簡単に言わないでよ」



 とはいえさすがに交際となると簡単にはいかない。ミトラが、満足したのか抱きつくのをやめた。優しい笑みを浮かべていて、どこか満足げ。


「──もうやることもないし、帰るか」


 そして、私たちはもと来た道を戻っていく。無機質で、銀色の機械が並ぶ道を引き返していく。


「凛音──だったな、最後に一つといたいことがある。よいか?」



「なんなり……と。はい、なんでしょうか」


 ごくりと息をのんで、言葉を返す。何だろうか──。しっかりと受け答えができるかどうか、変なことを聞かれないだろうか、こぶしを強く握って緊張が走る。

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