第103話 またあいつか……


 くそう……。何とか抵抗したいが、勝親の放つよ妖力。強すぎて体が1ミリも上がらない。悔しい……もっと私に力があれば──。


 数十秒後、あきれ果てため息をついた勝親。


「邪魔が入ったが──結局貴様は秘密をしゃべらなかった。その報いだ。やれ!」


 そう叫んだ瞬間、時空のおっさんはさっきまでと同じように紙袋をかぶって首に縄を括り付けた人を谷底に突き落とした。


 間に合わなかった……救えなかった。胸が苦しい……うぅうぅ……。悔しい。


 三郎は何度も床をたたいて、単語ですらない言葉をわめきながら泣きじゃくっていた。

 そんな三郎をに、勝親が話しかける。


「とうとう娘一人になったな。これが最後だ。すべて吐け──言っておくが娘が死ねばそれで終わりだと思うなよ。次は友人──貴様への拷問もいいな。貴様にありとあらゆる どんな手を使ってでも吐き出させる。貴様に秘密を吐かないという選択肢は存在しない」


「殺してやる……貴様の一族、全員苦しませて──同じ目に合わせてやる!」


「戯言が。もうじき消滅する貴様にそんな暇など与えるつもりはない。反抗的な態度、答える気がないと判断した。さあ、最後の瞬間だ。恨むなら、秘密を吐かなかった自分を恨むんだな。おい」


 そう叫んで、時空のおっさんが娘さんの背中を空中へ突き飛ばそうとしたその時──。


「待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇl!!」


「なんだ、秘密ならさっさと言え」


 その剣で、三郎の口のあたりを思いっきり切り裂いた。


「げほっ……ゴホゴホゴホッッッ──」


 傷口から血をこぼし、咳き込む三郎。しかし、勝親は冷静な表情で三郎を見下したまま表情を変えない。


「しゃべらないなら、その口はいらんな……」



「ゴホッッッ──ゴホッゴホッ。言うよ。俺がさらったガキども半分の俺の取り分──男は別にいらん。腹が減ったら食ったみたいな感じで残りの数匹が奥の部屋に保管してある。そこのガキの兄もだ。女はうまいから全部食っちまったがな」


「やはり人殺しか、もう半分はどうした?」


「半分は依頼主の方に出荷しちまった。まあ、戻ってはこないだろうな」


 子供たちをものみたいに扱い態度。イラっとしたが、ここは切れる場面ではない。

 ただ、殺された子供もいたのか……絶対に何とかしなきゃ。


「力は誰からもらった?」


「うっ」


 その言葉に肩をビクンとすくませる。こっちが本丸だ。しばらく言わないままそっぽを向いていると、勝親が剣を三郎の首の横に触れた。


「言わないなら、娘はいらんな。行かせてもらうぞ」


 その言葉に三郎はしばし何も答えずに体を震わせていたが観念したのか表情をゆがませてからぼそっと答えた。


「将門だ──」


「え……」


「なるほどな」


 その言葉に私と御影さんは言葉を失う。将門──確か大赤見に力を与えた人物。

 こいつもだったのか……。こんなところでもかかわっているとは──。


「私も追っていたのよ。たまにその名を聞いて、そいつから力を受け取った人がいたって──」


「そうだったんですか? 目的とかあるんですか?」


「それを追ってるんだけど──まったくわからないの」

 ごくりと息をのむ。以前の大赤見もだけど、どんな目的なのかな……考えていると、三郎は頭を勝親に踏まれたまま陸に上がった魚のように暴れたまま叫んだ。


「貴様をいつか同じ目に合わせてやる!! さっきまで俺のことを人殺しとかほざいていたが、結局お前だって同じ人殺しじゃねぇかよ。自分の目的のために人を殺したんだがな」


「言うようになったな」


「あたりめぇだろがぁぁぁ! みんな殺しやがってぇぇぇ。ぜってぇ貴様を殺してやる。ぜってぇ貴様の周りの奴を、同じ目に合わせてやる。覚悟しとけよ、すました顔しやがってぇ」


 拘束されたままもがき苦しみながら、三郎が叫び続けた。犯罪者とはいえ、こいつは大切な家族を失った。その怒りをぶつけようとしているのだろう。こいつは自業自得かもしれないけど、やっぱりやり切れない思いだ。もっと、よい方法があるんじゃないかな。



 怒り狂う三郎に、勝親はひるまない。


「勝手にしろ。やれるもんならやってみろと言いたいが──実は隠し事があった」


「もったいぶってないで言え!!」


「そう焦るな。貴様が秘密を吐かなかったら本当に首を吊らせていたが──良しとしよう。おい!」



 そう叫ぶと、映像のズームが延びる。さっきまで見えていなかった部分が見えるようになって、思わず声を上げる。


「え、えええっっ?」



 崖の下に、何もないと思っていたらすぐ下に床があった。そこに、首を吊ったと思った三郎の家族たちがいる。


 そして、床には迷子になったと思い込んでいたあいつ。

 ミトラだ。


 ミトラはこっちを向くなり、笑顔になって手を振ってきた。

 縄がぴんと張っていたのは、ミトラが4人が落下した直後に縄を切り落としたからだろう。体が地面につくような距離で、縄が途切れている。


 ミトラ──あんなことしていたのか。途中でいなくなったと思ったら……。

 それから、視線を三郎と勝親に向けた。


 家族たちは何が起こっているのかわからず寄り添いあって互いに見つめあっていた。

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