第102話 同じ人殺し
「そうか、なら仕方あるまい──恨むなよ。今の貴様の傲慢な態度が、どんな惨劇を生むかも知らないで。まずは母親からだ。おい!」
そう叫ぶと、おっさんは母親らしき人の顔に紙袋をかぶせ、視線を奪う。そして上から先端が人の首が入るくらいの輪っかをお母さんの首に括り付けた。
まさか──この後の行動が予測で来て、ぞっとして背筋が凍る。生身の人間に、やるつもりか?
次の瞬間、輪っかを首に括り付けたまま時空のおっさんがお母さんを谷底に突き落とした
これじゃ……首吊りと変わらないじゃないか。後ろで、その光景を見た三郎が感情のままに叫ぶ。
「わあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「すべて貴様がまいた種だ。もう一度言う、子供たちと、力を与えた人物──答えろ」
ガタガタと歯をゆがませながら、涙目になって言葉を返す
「お、言えない……」
「それなら、仕方があるまい。次は父上だ」
「おい! それでも妖怪省かよ。無実の人間を殺していいのかよ!! この人でなし、人殺し!」
食って掛かる三郎。しかし、勝親は無表情のまま思いっきり三郎の顔面をぶんなぐった。
歪んだ表情で殴られたほほを押さえ、勝親をにらみつける三郎。勝親は全く同情するそぶりを見せずに言い放った。
「お前たちがさらっていった子供も、同じ感情を持っていただろう。どんな事情があろうと、お前は子供を自分の目的のためにさらっていった。子供たちの安全が保障されない以上、貴様にも大切なものが無慈悲に殺される痛みを味わってもらう。さあすべて吐け」
「この鬼が──い、い、言えない……」
泣きじゃくりながら、ぼそぼそという三郎。勝親が、コクリとうなづく。
「そうか、それは残念だ。次は父上」
さっきと同じように、もがく父上に──首に輪っかを括り付け宙に蹴っ飛ばす。
画面に、父の姿はない。上からつるされた、ピンと張った縄だけ。
御影さんは、腕を組んで真剣な表情で目の前の光景を見ていた。
「うぐっうぐっ……人殺し」
「自己紹介か? さっきまでの威勢はどうした?」
「うるっせぇ、生きる価値のない20を超えたババァなんて、生きる価値ねぇんだよぉ!!」
……とりあえず、止めないと。勝親の肩をつかんで、言い放つ。
「死んでるんですよ……人が。やめてください」
しかし、勝親は全く表情を変えない。腕を組んだまま、三郎を見つめる
「意見を変えるつもりなどない。秘密を割らないこいつが悪い。ここで吐かせなければ、さらなる犠牲者が出る。必要なのだ」
「そうよ……時として、残酷な判断を迫られる。それが私たちなの」
「そ、そうかもしれないですけど……」
御影さんまで、表情を全く変えずに言う。私の感情など知らずに、勝親は再び髪をつかんで、三郎の顔を上げた。
御影さんまで、表情を全く変えずに言う。私の感情など知らずに、勝親は再び髪をつかんで、三郎の顔を上げた。これで、本当に合ってるのかな? 確かに、犠牲を防ぐにはそんなことが必要なのはわかる。私だって、ここまで命がけで戦ってきたのだから──。
心の奥に、靄のようなものがかかる。私は──どうすればいい?
「次は姉上だ。もう一度問う。言え」
泣きじゃくり、体をがくがくとしながらも、三郎は何も言えない。ごくりと息をのんで、覚悟を決める。行くなら、今しかない。犠牲が増えないうちに──。
「ま、ま、待ってください!!」
どもりながらも、声を上げる。妖怪側だって言われるかもしれない。でも、そんなことはどうでもいい──。
「なんだ? やはり貴様は妖怪の肩を持つのか? 本性を現したな」
勝親が、こっちをじっと見てくる。こう出てくるのはわかっていた。でも──だからって引くわけにはいかない。引けば助かるかもしれない──でも、引いたら自分で自分を許せない。
「違います、無実の人を自分たちの都合で殺すのを──やめて欲しいと言ってるんです!」
「俺様はあんな奴らとは違う!! そこまで殺されたいのか貴様は!!」
殺される──現実味ある言葉にビクンと体が震える。でも、関係ない。こっちだって何度も死線をくぐり抜けているんだ。
お前にだって許せないものがあるように、こっちにだって決して譲れないものがある。御影さんをちらりと見る。目を大きく開けて、驚いてこっちを見ていた。
つまり、どっちの味方で見ない。このまま押し切ってやる!
「同じですよ。あなたは先ほど言いました。どんな理由があろうと貴様は人を殺したと」
「ああ、言ったな。それがどうした?」
「それは、無実の人を殺している妖怪たちと同じではないのですか? 私からすれば同じです!! どんな理由があろうと、無実の人を殺そうとしているのですから。あなたは人殺しと妖怪を憎むあまり、同じように人殺しになろうとしている。違いますか?」
勝親はただこっちを見ていた。そして、目の前から姿が消えた。何が起こったかわからず周囲に視線を送ろうとした瞬間──。
ゴン。
後頭部に何かが当たった。瞬間、糸がプツリと切れたかのように体から力が抜け数メートルほど吹っ飛ばされた。
起き上がろうとするが、視界がぐにゃぐにゃでうまく力が入らない。そして、上から何か重しが頭の上に乗っかってくる。
その方向には勝親の姿。私の頭を踏んでいるのがわかる。
「半妖の力があるだけで経験は浅いな。これだけは言っておく──なんと言われようと、悪魔になろうと俺は妖怪に対する態度を変えるつもりはない」
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