第97話 時空のおっさん
そして、会計が終わった後一度御影さんの住んでる部屋へ。
山手線で3駅ほど進んで大崎。駅から徒歩5分ほど。高層ビルが立ち並ぶ中にある、白を基調とした高級そうな新しい作りのマンション。
入り口に立つと、セキュリティーの機械。すれ違った人は高級そうなブランドの服やカバンを身にまとった若い女の人。明らかに富裕層だというのがわかる。
「さすがは御影さんですわ」
こんな都会に住んでるのかよ……。随分とお金持ちなんだな……。
御影さんは、ポケットからICカードを取り出して、ピッと機械にタッチ。その瞬間、奥にある自動ドアがウィィィンと開いた。
オートロックの、高級そうな部屋。家賃いくらするんだろ……。
そして、エレベーターで5階まで上がって、奥にある部屋。カードキーをドアノブのあたりでタッチすると、かちゃっと音がしてドアが開く。
一人にしては広そうなフローリングの床、ソファーにはかわいいぬいぐるみが置いてある。
おしゃれで高級そう。
はっと見とれていると、誰かが背中を押す。
「ごめんね散らかってて」
「いえいえ、すごいキレイですよ」
部屋はファンシーなかわいい飾りがある以外は、余計なものがない。
少なくともミトラの部屋よりはとても清潔感があって、御影さんの性格がよく表れている。
私は、買った服を御影さんの部屋に置いてこの場を去る。
「息抜き完了!! じゃあ仕事に入るわね」
そう言って優しい笑みをこっちに向けてきた。
始まるんだ──うまくいくといいな。
歩きながら、御影さんはご機嫌そうに話しかけてくる。
「玉藻前と会ったの? よく生きてられたわね」
「まあ、まぐれですよ」
「私なんか前冬の八甲田山行ってさ、どうしても山に逃げた鬼天狗を捕まえなくちゃいけなくなって。雪で寒さすごいでしょ、だから半妖の私が行かされたんだけどもう本当に寒くって」
太もも丸出しで? 自殺行為じゃん。
「ズボンんははかないですの?」
「それ、現地の人からも言われちゃった。まあ、妖力を熱に変換すれば大丈夫だからそのまま行っちゃった」
想像するだけで体が震えてくる。
そりゃ奇特な目で見られるよ……。本人はにかっと笑ってるけど。
高級マンションが立ち並ぶ街並みを通り過ぎて、どこかアウトローな場所へ。
さっきとは真逆のぼろぼろの廃墟。階段を登って、ゴミが散らかって異臭がする部屋へ。
ガァァァァァァァッッッ!!
上から叫び声が聞こえると、御影さんが人差し指を唇に当てる。
「し────っ! 逃げ足早いから、そっと行くわよ」
「はい」
「わかりましたの」
静かな声で言葉を返す。ゆっくりと音をたてないように階段を登ると──そこにいた。
ロン毛でボロボロの服、長い前髪でニキビと泥が付着した汚れにまみれた顔つき。醜い姿で、吊り上がった目つき。筋肉質で、黒と灰色の体。
妖怪と、御影さんが見つめ合う。ゆっくりと後退する妖怪に、御影さんは強くにらみつけながら一歩一歩追い詰めていく。
「一緒に後ろの部屋まで来なさい。いるんでしょ、あなたがさらっていった子供たちが」
「ぐぐぐ……」
妖怪は歯ぎしりをしながら御影さんをにらみつけていく。そして──。
何と消えてしまった。思わず周囲に視線を向ける私、御影さんはそんなこと目もくれずに廃墟の奥へと足を運んでいく。
「子供たちをさらって、どこかに連れ去って言ってしまうの。追い詰めてもね、こうやってね、どこかに消えちゃうのよ。走ってどこかに行くわけでもなく突然蒸発するように」
「誘拐……みたいな感じですか?」
「ええ」
そして、一番奥の部屋にたどり着くと、縄に縛られた子供が数人。
すぐに3人で縄をほどいた。
「大丈夫?」
縄をほどかれた子供が、せき込んだ後にしゃべりだす。ちょっとやつれているけど、命に別状はなさそうだ。
「ほかの子は、あいつが連れていっちゃった」
「ほかの子?」
「もっといた。けどどこかに連れ去られちゃった」
残念そうに、うつむく丸刈りの男の子。他の子たちも同調するようにコクリとうなづいた。
拉致されちゃったってことか。御影さんがさらに話を進めたけど、その子たちの行方はわからないらしい。
「やっぱり、おじさんに聞いてみるしかないわね」
「おじさんって?」
私が質問すると、奥から誰かがやってきた。
「ああおじさんちょうどいいわ、あの人がやってきて──消えちゃった」
「まあ、あいつはこっちの世界の者ではないからな。仕方あるまい」
「連れてってくれる?」
「全員な」
含みを持たせたような会話をしている。何のことかわからず考え込んだ。というかこの人だれ?
御影さんと話していたのは、長身で、ひげを蓄えた中年のおじさん。青い作業服を着ている人。
どこか不思議な雰囲気。
「ああ、紹介遅れたわね。彼は、時空のおっさんというやつよ」
その言葉に、私もミトラもキョトンとなった。いきなりそんなこと言われても。確か……都市伝説とかで聞いたことがある。えーと、変な世界に迷い込んだ人を送り返したりとか──。
「あっ、思い出しましたの。こっちの世界の案内人みたいな感じですの」
「そんなとこ。まだわからなことも多いから調査中だけど、妖怪や異形の奴らは──こことは違う世界に独自の世界を持っていたりするの。そんな世界に住みながら、そっちの世界について調べたり、間違って迷い込んだりする人をもとの世界に戻したりする役目を持っている。そんな感じの人」
今更何を言われても驚かないが、いろいろと言われてどう言葉を返せばいいか困ってしまう。
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