第96話 かわいい服


「これなんか、似合うんじゃない?」


 御影さんが、にっこりとした表情で商品の服を持ってきて、私に見せつけてきた。


「な、なんですかこれ……」


「何って上はフリフリ付きのワンピースに、下はミニスカート。凛音にぴったりの服を選んであげたのよ。かわいいわ、とっても似合うじゃない」


「そうですの、凛音の白い肌とぴったりですの」


 かわいらしい服。なんでこんな、私とは縁がないようなおしゃれな服屋にいるかというと──。


 場所。ここは──なんと渋谷。私のような陰キャには、一生縁がない場所。駅からここに来るまで陽キャだらけで目が回りそうになってくる。そして、ガラス張りのおしゃれそうな洋服の店についた。なんでも、私をかわいくしたいとか。


 本当は、先週にミトラから電話が来て今日御影さんと妖怪討伐の仕事を行く予定だった。そしたら、渋谷に集合場所になって御影さんと集合した時に一緒にかわいい服を買いに行くって言われた


「どうしたの? たまにはストレス解消しましょ!」


 御影さんがお気に入りらしいお店に入って、私に服を着せてきた。


「あんたいつも地味な服着てるんだって? せっかくなんだしかわいくコーディネートしてあげる」


「大きなお世話だ……」


 唇を尖らせてムスッとするものの、御影さんの頼みなら断り切れなかった。

 そして、何着か服を着せられて(それもやけに太ももや胸元を強調する服)今に至る。隣でニヤニヤしているミトラ。げんこつしたやろうか?


 仕方がなく、ワンピースとフリフリスカートを着る。着終わって、試着室のカーテンを開けて2人にその姿を見せた。


 顔を赤くして、7割ほど露出した太ももに視線を送る。すぐにスカートを押さえて御影さんに言葉を返した。


「恥ずかしい……です、太ももや胸元をさらけ出すのはちょっと」


「半妖のときは、いつもさらけ出してるじゃないですの。大きいおっぱいと太もも」


「あれは、戦わなきゃいけないというか──必死だからそんなことかまってられなかったというか──」


 とても……人に見せられない。胸元が丸見え……。

 恥ずかしくて両手で腕をつかんでいると、首を傾けて私の体をじっと見てくる。


「あんたスタイルいいんだから、もっと自信を持ちなさいよ」


「そうですの、凛音は自分が思っているよりもずっとスタイルもいいし美人ですの」


 周囲からのまなざしが、苦手なんだって……。陽キャの2人とは違うんだ。


 御影さんの格好。

 太ももが8割くらい露出しているホットパンツに、肩を露出したワンピース。

 御影だっけ、いつも太ももを露出しているよな……。スレンダーな体形なだけあって、太もももほっそりしてる。でも、半妖として戦い続けているだけあって筋肉も張っていて引き締まっている。



 女の私から見ても、かなりの美人の領域に入る。

 服もとってもセクシーで、視線が太ももに行ってしまう。恥ずかしくないのかな?


 私には無理だ。


「今日は、戦いの前に凛音をかわいい女の子に大変身させてあげるわ!」


 そんな私の想いなんて知らずに、御影さんがそう言ってにっこりと笑ってウィンクをする。


 変われるの、かな?


 それからも、2人はかわいらしい服を持ってくる。


 御影さんが持ってきたオリーブ色のジャケットに、ジーンズにヒョウ柄のブーツ。


「いいじゃない。大人っぽい」


 う、うん……これはいいかも。ちょっと考えてみよう。


「こっちの方が似合ってますわ!」


 水色のシャツブラウスに、ひざ丈の黄緑のスカートにパンプス。


「お嬢様みたいで、とってもきれいですの!」


 確かに、これはいい。さっきまでとは違ってきれいさもあっていいかもしれない。うん……こういうのもいいかもしれない。初めてだ……服をいろいろ着て楽しいって感じたのは。



 たまには、息抜きもいいかも。そんな風に考えていると、御影さんがにっと自信満々に笑みを浮かべ、また服を持ってきた。


「じゃあ最後。私が一番推薦した衣服。着てみてよ」


 その姿を見て、思わず固まってしまった。

 上は見せブラと紺の袖の長い夏物のカーディガン。下はデニムのホットパンツ。


「どう? 私が良く来てる服、かわいいでしょ?」


「さ、流石にそれは……」


 だから胸元と太もも露出はやめて、恥ずかしいんだって。顔を赤くして受け取るのをためらっていると、御影さんが右手でうつむいていた私を顔くいっと上げた。


「一垢抜けるわ、たまには挑戦してみなさいよ」


「そうですわ! かわいいですの」


「絶対……嫌、やってみます」


 そして、2人の勢いに押されて私は服を受け取って試着室へ。似合うのかな~~。



 そんなことを考えながら、試着を終えて2人にその姿を見せた。

 胸元にふと野茂も。露出が大きくて、体がスースーする。人前ではとても見せられない。


「大人びて、とってもかわいいわ」


「そうですわ。初めて見ましたの。絶対いいと思いますわ」


 2人とも、目をキラキラしながら言ってくる。本当かな? お世辞だとどうしてっも考えてしまう。


 すると、御影さんがキョトンと首を傾ける。


「やっぱり、恥ずかしい??」


「まあ……」


 すると、御影さんがおでこをデコピンしてきた。おでこを押さえながら、御影さんを見つめる。



「自信持ちなさい。凛音は自分が思ってるよりきれいだから、自分の殻やぶってみなさいよ」


「は、はい」


 御影さんのおかげで、どこか自信が持てた。そうだ、今までと同じことをしてたら、今までと同じ結果にしかならない。

 そして、私はこの服を買うことを決める。どこかで、あの服を着てみよう。ミトラ、喜んでるし。そしたら、変われるといいな私。やってみようか。


「じゃあ最後にこれ!」


「やだ」


 ゴズロリメイド服は着ないからな、ミトラ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る